第百七十六話 クリオネVS斑鳩
先手を取ったのは斑鳩。間髪入れず、斬りかかる。しかしクリオネは、その斬撃を峰で受けると衝撃を流すようにし、再び間合いを取った。
「ほう、この【獅子丸新月】の斬撃を受けて無傷とは、大した刀剣の様だな。剣の腕も立つようだ」
「戯言はいい。ここでお前を討ち滅ぼす」
「“討ち滅ぼす”か……。なるほど……、副長クリオネ。洞察力と判断力ではカルマの上を行くとも名高い。ここは、止めるだけでは収まらぬと読んでいるか。ならば討ち果たして見せよ」
すると、まるで余裕を見せるかの様に刀を下ろし、静かに目を瞑る斑鳩。
その様子に隙を逃さず飛び込むクリオネ。
「デュー・クロイゼル!!」
それは、一滴の雫が滴るほど静かでありながら、大海の大渦程の破壊力を纏った一撃だった。
「羅刹遊戯……【告別】……」
それを切り替えす斑鳩。
「うぐっ……」
大きくダメージを負ったのはクリオネ。腕を貫かれた。切り替えされた瞬間見えていた切っ先は右腕を捕らえられていた……。しかし、貫かれたのは左腕。技の正体を見極められなかった……。
「(なんだ……今のは……――)」
そのまま斑鳩は容赦なく胴をも狙う。
「……っく!」
しかし、体を捻り何とか躱すクリオネ。一旦間合いを取るも、直ぐに頭上から斑鳩の突きが迫る。それを躱し、裏拳で斑鳩の顔に一撃を入れ、再び距離を取る。何とか付いていくも、空間を支配しているのは僅かに斑鳩だった。
「(まるで躊躇が無い……。ここで果てる覚悟か……。こいつは……強い)」
斑鳩の強さを感じ、それならばとあとは仲間に託し、ここに全てを賭ける決断をするクリオネ。
五感全てを閉じ、勘のみを頼りに動きを変える。この戦い方は反応速度が大きく向上する半面、状況判断という概念が無くなる為、死のリスクが高まる上に体への負担も大きい。
そこに斑鳩が容赦ない致命傷を狙う連続攻撃を仕掛けてくる。
一撃でも真面に喰らってしまえば絶命し兼ねぬその的確かつ鋭い斬撃を細身の水流刀で流しつつ間合いを詰めるクリオネ。その動きはまるで風に吹かれ舞い踊る花びらの様……。
そして、流れのまま突き出した一刀は斑鳩の左肩を貫いた。……が、同時に斑鳩の刀もまた、クリオネの脇腹を貫いていた。
互いに刃で貫かれたまま、クリオネが僅かに片膝を崩したその瞬間、斑鳩が刀の握りを持ち替え、再びクリオネの胴体を分断する。
ザンッ!!!
しかし、斬ったのは水の塊。今度はクリオネが斑鳩を僅かに上回る立ち回りを見せる。
そのまま背後を取ったクリオネが斑鳩に斬り掛かる。……僅かに耳が斬られる斑鳩。しかし、瞬時に後方に突き出した鞘がクリオネの腹部を捕らえ、その隙に間合いを取り直す。
一進一退の展開。正に互角。
しかし、本気以上の力を駆使して闘っているクリオネが長期戦になれば不利だった。
……が、ここで斑鳩にも異変が。目の前のクリオネだけに向けられていた意識が突然乱れた。
「(なんだ!? この胸騒ぎは……ジャネクサス様の身に何か……)」
その瞬間、クリオネの鋭い突きが斑鳩を襲った。
ドっ!!!
「っうぐ!!」
辛うじて刀身で防ぐも、その威力で吹き飛ばられる斑鳩。
見かねたリゼルグが斑鳩をフォローする。
「どうした、姉さん。らしくねえぜ」
「すまんな、リゼルグ。……切り替える。世話を掛けた」
「姉さんが戦闘中に乱すなんざ、ジャネクサス様の事かい? ここは、請け負うぜ?」
そこへ、新と蛍の二人も駆け付けた。
「リゼルグさん、あなたは壁の破壊をお願いします。クリオネは俺ら二人で何とかします!」
「斑鳩さん、あなたに鍛えてもらった恩、ここで必ず返します。どうか、行ってください!」
「待て……。ダメだ。貴様らが敵う相手では無い。下がれ!」
「……そうやって罵声を浴びせては、何度俺らの命を救ってくれたんですか!? あなたは!」
「僕らだって戦士です。ここが命の使いどころだと分かってますよ。……最後くらい意地見せさせて下さいよ」
「……たわけ者たちめ。……約束しろ。死なぬと」
「あなたも……、どうか」
「まだ、褒めてもらわなきゃいけないですからね」
「だとよ、姉さん」
「……揃いも揃ってバカばかりだな。……だが、一番の大バカ者は私の様だな。……感謝するぞ、お前たち」
そして斑鳩は、ジャネクサスとカルマの下へ向かった――。
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