第百七十二話 腹が減っては戦は出来ぬ
ザクッザクッザクッ――
雪原を歩くロキ。ジャネクサスの居る地、ソートリオールを目指すが道のりは果てしない。
「……遠いな」
歩いて間もなくして、聞き覚えのある声が……
「おい、クソガキ」
そこに居たのはレイチェル。
「……」
ザクッザクッザクッ
無視して進むロキ。
「止まれ、たわけ者」
流石に止まるロキ。
「何の用だ」
「……記憶が戻ったのかい。気配が随分と違う様だが?」
「……少なくともあんたの飯炊きではない。悪いが先を急ぐ」
「ほう。ロキのやつの記憶はあるようじゃな」
「……あんた、あいつをここで待っていたのか? ひと月近く経っているぞ」
「なんだい。献身的だとでも言ってくれるのかい?」
「ふん……。物好きな。……じゃあな」
「随分と飯を食っとらん。腹が減って死にそうじゃ。帰って直ぐ飯の支度をしろ」
「聞こえなかったか? 俺は先を急ぐ。それにお前の飯炊きじゃないと言った」
「わしの拠点からならお主でもハザマを使えるぞ。わしから盗んだ方法でな。まあ、歩いて行きたいなら好きにしな」
「性質の悪い……」
「ふん。お互い様じゃ」
――そして二人は、レイチェルの拠点に戻った。
室内に入ると、レイチェルに言われる間も無くロキは食事の支度に入った。
一時間後、テーブルの上にはレイチェルの好物ばかりがずらりと並んだ。
「これで満足か? 長居する気は無い」
……ぐぅぅ
ロキのハラが鳴る。
「……ふん。体は正直じゃな。腹が減っては戦もできん。座れ」
そう言うと、ロキの拘束具の類を一瞬で外すレイチェル。
大人しく座るロキ。
「……い、いただきます」
「ふっ……。食材への感謝の念はあるようじゃな」
そして、
「何があったかは知らぬが、お主、記憶が戻ったようじゃな」
「まあな」
「……可愛げの無い奴じゃ。……まあ、よい。お主、ロキの事を“あいつ”と言っておったな。以前の記憶があるだけではなく、別人格としての認識でもある物の言い方に聞こえたが?」
「関係無い事だ」
「……そうか。では、質問を変えよう。……あやつの人格は何処へ行った?」
「……消えた。あいつは元々、存在しないはずの人格だ。これが自然の摂理」
「…………」
会話が途切れた。
しかし、LoKiは、ロキの記憶を頼りにレイチェルが言いたいであろう事を想像し、答えた。
「俺の本来の目的を果たせば、必然的にレンは解放される。それでいいか」
「…………」
依然として応答しないレイチェル。
「……用は済んだか? なら俺は行く」
「……待て」
「なんだ?」
「……どこに向かう?」
「何を今更……。ハザマを使ってソートリオールに行く。その為にここに来た」
「……もう、遅い」
「どういう事だ?」
「三日前、ジュヴェルビークが滅んだ。……カルマが、……死んだよ」
「なっ!!!」
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