第百七十一話 ロキ
「ごめんなさい! あなたに感情が芽生えるとは私も……――」
「いや……。いいんだ、母さん。ごめん、ちょっと驚いただけだ」
「……ロキ」
「大丈夫。人間だろうがヒューマライズだろうが一緒だ。俺だって事には変わり無い。……ははっ、言われてみれば納得だ。傷だって早く回復するし、血の目覚めだって……。……それよりさ、俺が母さんの作ったヒューマライズってんなら母さんは俺の主で、俺に何か命じたんでしょ? 教えてくれ。それが俺が忘れてしまっている本来の役目なんだろ?」
「……ロキ、私もマルクスと同じだよ。あなたを作った責任としてここまでは話したけど、この先はあなたの人生。……だから、記憶が無いならそのままあなたが納得する人生を歩んでほしい。それが親として……」
「ダメだよ。それじゃあ」
「え?」
「母さん。成し遂げたい事の為に苦労して俺を作ったんじゃないのか? だったら、そんなんでいいはずないだろ? 教えてくれよ! 俺の役目を!」
「ロキ…………」
ロキの言葉を聞いても、尚戸惑うノア。
しかし、実際には居ない目の前に強い眼差しを感じ、静かに口を開く。
「……“Lost Kind Humalies” 通称“LoKi” この名前には、“人が失ってしまった本質”という意味を込めた。人がもう一度、かつてのような“心”を取り戻し、ヒューマライズと共存出来る世界を作りたい。あなたはその希望。そしてあなたには、ジャネクサスを救ってもらいたい。……これが私の想いだよ」
「そうか……。だから“ジャネクサスの所に”……て。……ねえ母さん、俺の知ってるジャネクサスは政府のトップで、感情を持ったヒューマライズ達を根絶やしにしようと企んでる奴だ。そんな奴を救うって……」
「……彼は、人とヒューマライズの最終形。人とヒューマライズの間に生まれた生命……」
「っ!!……それって」
「そう……。人とヒューマライズのハーフ。そして、私が今いる時代。つまり、未来人よ」
「っ!!」
「私は、彼と入れ替わるようにしてこの時代に来た。それが、彼に隠れて研究を続ける唯一であり最良の手段だった。……だけどその代償に、……もうその時代には戻れない」
「そんなっ!!」
「最初はただ、お姉ちゃんの人格をもう一度戻してお父さんと三人でまた暮らしたい。そんな想いで研究所に入った。……だけど、私にはやっぱりお母さんの血が流れていた。最終的には、人とヒューマライズが共に生きれる世界を夢見てしまった。その希望があなたであり、そしてジャネクサスなの」
「……」
「でもひとつだけ……」
「え?」
「もうひとつだけ、あなたには言っておかないといけない事がある……」
「……なに?」
「……ジャネクサスを救う事で、恐らく……あなたの人格は消えてしまう……」
「…………そっか」
「っ!! “そっか”って……。それでもあなたは……っ!!」
「……なあ、母さん。母さんのお姉ちゃんなんだけどさ。俺……、会ってるんだ」
「……え?」
「何の巡り合わせだろう。俺さ、この世界で最初にり知り合ったのがソアラさんなんだ」
「……うそ」
「まあ、正確にはかつてソアラさんだったヒューマライズの女性。俺が主になってさ。名前は“レン”っていうんだけど、めちゃくちゃ頼りになるんだよ。俺、主のくせに頼りなくってさ、あいつがいつも助けてくれて、俺あいつがいなきゃ全然ダメで……それで……」
思い出して泣きそうになるロキ。
「……ロキ」
ノアも涙を堪える。
「それでさ、ゴローじいの所でレンと二人で修行したんだ」
「え? 二人でお父さんの道場に……。こんな事って……」
「でさ、俺、レンを守りたくて強くなった。……強くなったんだよ」
「うん……うん……」
記憶を無くしたロキがソアラを見つけて守ろうとしていた事を知ったノア。それが、偶然なのか必然なのかは分からない……。ただ、その奇跡に涙が溢れていた。
「でも俺……、レンを守れなかった……。守ってやれなかった……」
「……ロキ」
「レンは今、ジャネクサスの下で、かつての仲間と闘う事を命じられてる。でもそんなのあいつが望むはずない!……もし、ジャネクサスを救う事であいつがカルマたちと闘わなくても済むなら、俺はジャネクサスを救う。それが俺の本来の役目だったって言うんなら……本望だよ」
「ごめん……、ごめんねロキ……、私は……私は……」
ロキに人格が芽生えた事で起きた奇跡。そしてそれ故に、残酷な運命を背負わせる事になってしまった事実に涙が止まらないノア。
「……母さん。あなただって同じ決意だったはずだ。……もう戻って来れないって分かってたんだろ? あなたの決意こそとてつもなく凄い事だ。“大切な誰か”じゃなくて出会った事もない人たちの事も憂い、それに命を賭けるなんて……。その決意を無駄にする事なんて、俺にはできない。……俺は大丈夫。それでレンを救えるんだ。それだけで十分だよ。……だからもう泣かないでくれ」
「ロキ……、あなた……」
「それにさ、俺、レンと約束したんだ。俺の記憶が戻ったら……その時は、必ずまたゴローじいのところに一緒に戻ろうって!」
とびっきりの笑顔で笑うロキ。それは、ノアにも伝わった。
「……情けないところを見せて悪かったね。……必ず、お父さんのところに二人で戻りなさい!」
「ああ、当たり前だ!……母さん、話してくれてありがとう。……どうか元気で――」
そして、ノアの気配は消えた――
――
「ううっ……。(なんだ……? 夢を見ていたのか?)」
目を覚ますロキ。長い夢を見ていたような感覚に襲われる。
しかし、
「……ロストカインドヒューマライズ。……記憶が……戻ってる」
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
もし少しでも、面白い! 続きが読みたい! と思っていただけましたら、
ブックマーク、評価をお願できましたら幸いです。
とても励みになります。