第十七話 はじめてのお買い物
数日後、リトルリヴェールから少し離れた大きな町に吾郎の姿があった。
人間のお姉ちゃんが無理でも、ヒューマライズなら……と考え、買いに来たのである。
本来ヒューマライズは、最初の一体目が政府から与えられ、それ以降は持ち主の任意でショップで買い替えができるのだが、リトルリヴェールの住民はヒューマライズを便利な道具のように扱う世界では当たり前とされる風習に馴染めず、与えられたものを返還している者がほとんどで、所有している者も、彼らを道具のように扱う事は無く、家族の一員として暮らしている。
吾郎もヒューマライズを返還した一人である。
「ここがヒューマライズショップか……。まさか世話になる日が来ようとはな……」
店に入るとそこには何も無く、ただ何人かの店員がいるだけだった。
「あの……」
吾郎が店員と目を合わせた瞬間に店員の目が赤くなった。目を合わせて色が変わるのはヒューマライズの特徴の一つである。
逆に言えばそれ以外に外見の違いはほとんどない。それどころか細胞を構成する仕組みも遺伝子と脳の構造以外は人間と変わりはない。
それ故、食事や睡眠といった生活習慣も人間と同じなのだ。ただし、食事も睡眠も人間の10分の1程度で支障はない。
しかし、彼らには感情はない。痛みも感じない。だが、感情を疑似的に表現する機能が充実しているタイプが一般的である為、会話もごく自然にこなす。
道具でありながら人間と見分けがつかない。それが革新を遂げたヒューマライズの最大の特徴だ。
「いらっしゃいませ」
「あ、あの……初めてでよく分からないのですが、できたら人間の方にお話ししたい事もありまして……、取り合っていただけると助かるのですが」
ヒューマライズを信用していない訳ではないが、彼らに感情が無い事を知っている吾郎は、人間の店員のほうがノアの希望をより理解してもらえると思い、願い出た。
しかし意外な回答が返ってきた。
「当店には人間の従業員はおりません」
「え? それでお店は大丈夫なんですか?」
「はい、不備が出た事は過去一度もございません。それに私のデータにある限り、この町で働く者の9割以上はヒューマライズです」
「そ、そうなんですか……」
リトルリヴェール以外の町で買い物をした事が無かった吾郎は、文化の違いに困惑した。
「あの……でしたら店員さん。娘がお姉ちゃんがほしいと言い出しまして……、その……、どう選んだらよいものかと」
「それでしたら、こちらのリストからお選び下さい」
ディスプレイシートを渡される吾郎。おもむろにページをめくり始めた。
「う~ん、どう選んだらいいものか……。ノアがアヤちゃんみたいなお姉ちゃんと言うならやっぱり、アヤちゃんに似た子……? いや、その子がアヤちゃんと遊ぶ事もあると想定するとそれはないな……」
ぶつぶつ呟きながら探していた吾郎だったが、突然手が止まった。
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