第百六十九話 デュワロウェスク
――現在
「ここは……? そっか、俺、レンに負けて……」
レンに破れたロキは、何もない広い荒野に倒れていた。
ここは、デュワロウェスクの中央付近。ドラグレスク研究所があった辺りからは離れた場所である。
「ん?……相変わらず、マウスピースにプロテクター……、それに腕輪に栄養剤?……そうか、強制的に栄養だけが注入される生活……もう飯も食えないわけか……。それに……」
周りを見渡すロキ。
「壁なんて無い……。壊せば出られるなんて事さえできない。……空。……野外か」
暫く時間が経過しており、戦闘で負った怪我は概ね回復しているものの、精神的なダメージも大きく、ロキは暫く動こうとはしなかった。
「……どうすりゃいいんだ俺は。……あいつを……、レンを止めなきゃ、あいつはカルマと……ジュヴェルビークのみんなと闘う事になっちまう……。でも……、どうすれば止められる?……俺に記憶が戻ったところであいつを止められるのか?……そもそも今の力ではあいつを止められたかった……」
思いと現在地の距離の遠さを感じざるを得ないロキ……。しかしそれでも歩こうと決める。
「……いや、ここで諦めたら修行した意味が無い。とにかく進もう」
歩き出したロキ。ふと、ソートリオールで抜け道を見つけた時のような感覚に陥る。
「……まただ。あの時と同じ……。俺、ここを知ってる?……たぶんあっちに行くと大きな木が一本だけ立っているはずだ……」
その通りだった。暫く歩いた先には大きな槍のような形の木がそびえ立っていた。
「……ここが何処なのか分からないけど、俺、この辺りの出身なのか?
……この木、懐かしい。子供の頃、母さんと……。え? 俺、今母さんって……」
朧げな記憶を感じるロキ。
「……いや、待て。俺は幽閉されている身だ。ならここは監獄と言っていい場所だぞ。……だとしたら俺、子供の頃、母親と一緒にここに幽閉されていた?……ダメだ。考えても思い出せない。今はとにかく先へ進もう」
ロキは只管歩き続けた。三日、四日、五日……、そして十日が経とうとしていた頃には吹雪の中を歩いていた。
「すごい。薄々感じてはいたけどこのプロテクター、血液を温めて体温調整をしてくれるんだ。こんな吹雪の中でも全然寒くない。だけど、流石にこんなところで寝て雪だるまになったら窒息死するだろうな。……いや待てよ。俺は死ぬ事を許されていない。て事は、恐らくこの腕輪とかから血液中に酸素が投与されて死なないなんて仕組みか?」
試しに息を止めるロキ。……すると、5分経っても耐えられ、尚も息が続く。
「……すごいぞ。息をしていないのに比べれば苦しいけど、コレたぶん無限に息を止めていられるぞ」
なにやら拘束具を楽しみ始めたロキ。
そんな風に只管と歩いて来たが、暫くすると今までとは違った気配が漂い始めた――。
「……なんだろう。空気が重い……。誰かの意志みたいなのを感じる……。これ……吐きそうだ……」
吐きそうと言いながらもそのまま進み続けるロキ。……まるで、何かに導かれるかのように……。
進み続けた先は、かつてドラグレスク研究所があった土地……。やがてロキは、その怨念に満ちた空気に晒され、そのまま気を失ってしまった――。
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