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第百六十八話  トラウマ

 極寒の地デュワロウェスク――


 ここにはかつて、最大規模のヒューマライズ製造工場が存在した……。その中でも異彩放った区画がある。新暦の幕開けと時を同じくし、アレクセイ・ドラグレスク博士によって設立された“ドラグレスク研究所”ヒューマライズを現在のような革新的な存在に作り上げるという偉大な功績を残した研究所である。

 しかし、ヒューマライズの人格化という禁断の研究が行われたのち、その存在は闇に葬ら入れた。

 この地には今でも志半ばで散っていった研究員たちの怨霊が漂っている。


 10日前――


「見つけたぞ、時朗(ときあきら)


「……」


「こんな気色の悪い場所に身を隠しおって。わしを怒らせ、よほど怯えていた様じゃのう」


「……師よ。真面な対峙で我では敵う相手ではないのは承知。出来ればお引き取り願いたいところ……」


「案ずるな。わしは殺しは趣味ではない。話をしに来ただけじゃ。……だが、その前に――」 


 話し終えようとしたその刹那……


 ザンッ――


 時朗がレイチェルの隙を突き、斬り掛かった。斬った手ごたえは十分……


「……っがは!!」


 ……だが、倒れたのは時朗の方だった。


「一発ぶん殴りに来た」


「ばかな……、手ごたえはあった……」


「お主にわしの斬り方など100年経っても分からんじゃろう。……まあ、よい。話は二つじゃ。まず一つ。ジャネクサスはお主にわしを殺せと命じた……という事でよいかの?」


「……そうだ」


「ほう。素直に答えるとは意外じゃな。では二つ目。お前が連れ去ったガキはどこじゃ?」


「……答えられぬ」


「分かった。では話は済んだ。わしはこれからジャネクサスに会いに行く事にする」


「ま、待て……。師よ、どうか我が(あるじ)の道を阻む存在にはならないで貰えぬか!」


「ほう。隊長様とも有ろう者が、“見逃して下さい”と懇願とは落ちぶれたもんさね」


「……恥など承知の上。我に在るのは、我が主のみ」


「愛されとるのう、ジャネクサスの奴は。……じゃが、奴はわしの命を狙った。そんな相手を見逃せとは、全く持って筋が通らん話じゃ」


「師の命を取る事は本来の目的ではない。師が連れ去った少年に明らかな力の向上を確認した。得体の知れぬ者が短期間で大きな力を付けた。我が主は、師の言葉とは裏腹な行動を危険視し、早々に少年を師から遠ざけるよう命じられた」


「同じ事じゃ。その最たる方法は、わしを亡き者にする事。故にお主は無謀にも二度もわしの首を狙いおった。……しかしまあ、そんな無謀な任務を課されるとは……捨て駒かの? お主は」


「っ!! 我が主はその様なお方ではない!!」


「じゃったら何か? 自分が期待されて抜擢されたとでも思うておるのか? えらい自信じゃの?」


「……可能性など考えぬ。(あるじ)に命ぜられれば執行するのみ」


「……まるでヒューマライズじゃな。……ふん、まあよいわ。ロキの奴は、お主が口を割らずとも勝手に探す。それから、その忠誠心に免じてジャネクサスの首は人質くらいにしといてやる。万が一ロキの奴を殺すような真似をすれば、わしもジャネクサスの首を狙う」


「……承知」


「……それからな、時朗。……お主はぬるい」


「は?」


「羅刹遊戯……【虚空】――」


「え?」


 パァァッッン!!


 一瞬の出来事。時朗の上半身が塵と化した……。


 しかし、次の一瞬でその上半身が元に戻った。


「一回死んだぞ」


「……はぁはぁ――(何も見えなかった……)」


「カルマはこのわしでも底は知れん。何が目的かは知らんが、そんな者を相手にするのは時間の無駄じゃとジャネクサスの奴に言っておけ。まあ、そんな忠告は無意味じゃろうがな」


 そして最後に腹が減ったと言い捨ててレイチェルは去って行った。


 残された時朗は圧倒的な敗北感を感じていた――。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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