第百四十九話 お礼
――ロザンヌ
「マルクス……」
「え? ソフィア、連日来るなんて珍しいじゃないか」
「昨日の幹部定例会であんたが危惧していた事が起きた……」
「……そういう事か。……覚悟はしていた。だが、ひとつだけ……。僕がいなくなった後もこの町のみんなの生活を保証してくれないだろうか」
「あんたの望みは叶わないわ。……下された沙汰は恒久的な報酬額の50%減。恐らく払い切れない税額分のヒューマライズが回収される事になるわ」
「待ってくれ! キミはあの時、モーゼスさんを止めてくれたじゃないか!」
「……諦めなさい。あんたは、それだけの事をしたのよ。死罪が言い渡されていたとしてもおかしくない。今のあんたの命は、町の住民の生活を保証する交渉材料にはならない。命が助かっただけでも奇跡よ」
「……っく!」
うなだれるマルクスを他所に振り返り、去ろうとするソフィア。
するとそこに一人の老人が訪ねてきた。
「おーい、マルクスー。……おや、取込み中だったかのう」
「町長……」
「どうしたんじゃ? 珍しく元気が無いようじゃが……。ん?……マ、マルクス、そちらのお方はまさかっ!!」
「あんた誰? 私、用が済んだから今から帰るとこなんだけど」
「覚えておられませんか? 以前、モーゼスさんの横暴なやり方から救っていただいた……」
「ああ、あの時のおじいさん。……ごめんね。でも今回は……――」
「ソフィアっ!……すまない。どうか今の話は……」
途中まで言いかけたところでマルクスが止めた。
「は?……まあ、いいわ」
「……ん? そうじゃ、お帰りのところ恐縮ですが、あの時助けていだたいたお礼をさせていただけませぬか? 町の者たちも皆、あなたに礼がしたいと願っておったんです。どうか少々お時間いただけませぬでしょうか」
「え?……でも……」
「ソフィア、僕からも頼む」
頭を下げるマルクス。
「はあ……、分かったわ」
「あ、ありがとうございます!」
そしてソフィアは町長に町を案内される事となった――
「へー、改めて町を散策した事なんて無かったから初めてだけど、活気があるわね。活気といってもなんか他の町の娯楽街みたいなのとはちょっと違う感じね」
「はい、ワシどもは人間もヒューマライズもみんな同じように働いとります。この町独自のコミュニティーの中で、それぞれ助け合いながら生きとります」
「ふーん、変わってるね。ははっ、でもこういうの悪くない感じだよ。なんて言うのかな。明るい? 合ってる?」
「え、ええ……、ありがとうございます」
すると商店街の住民達が三人に気づき、声を掛けてきた。
「おーい、マルクスさんじゃないか! いい魚入ってるよ! 刺身なんてどうだい?」
「マルクスさん、いつもありがとうね。あとでいつもの届けるからね!」
その後も町の住民たちはみな、マルクスマルクスと声を掛けてくる。
「マルクス、あんたえらく人気みたいね」
「はは、皆大切な友人ばかりさ」
そして町の中心の広場に辿り着くと町長が拡声器で住民に声を掛けた。
「えー、皆の者、少々よいかな? 今、この町に先日モーゼスさんから町を救っていただいたお方がいらしておる。ワシは今、彼女と共に町のセンター広場におる。この機会に是非、集まってほしい」
「ははっ! そんななんの得も無い呼び掛けで人が集まるもん?」
しかしソフィアの疑問を他所に多くの住民がぞくぞくと押し寄せた。
「え、えー!? 何? 私、何もあげないわよ」
そして――
「皆の衆、こちらが、ソフィア様じゃ!」
「ちょ、おじいさん!! 私は……」
「ソフィア様ー、ありがとうございますー!」
「ソフィア様ー、うちのレストランでごちそうさせてくださーい!」
「ソフィア様ー、うちのケーキも食べに来てー!」
大勢の住民がソフィアに感謝の気持ちを次々に告げる。
「う、うそでしょ? なんで私こんな人気なの?」
そんな中、一人の小さな男の子がソフィアに歩み寄った。
「おねーちゃん、これ、僕の宝物だよ。ママを助けてくれたお礼」
男の子は、大切そうに抱えたキリンのぬいぐるみをソフィアに渡そうとする。
それは、あの時モーゼスが回収しようとしたヒューマライズと居た子だった。
「あんた、宝物って……、だったら何で私になんか……。それに私はあんたのママを助けた覚えは……」
「ううん、おねーちゃんが来てからあの怖いおじさんが来なくなったから。あの日、怖いおじさんがママの手を無理やり引張って僕、泣いちゃって……」
「ママって……(あ、この人か……。ヒューマライズ?……そっか……)」
「あんた、パパは?」
「前はね、パパとママと三人だったんだけど。パパが死んじゃって、今はママと二人」
「……そう。……ねえ、その宝物はあんたが大事にしなさい」
「え? でも……」
「次は私も守ってあげられないかもしれない。だから、今度はあんたが自分でママを守れるくらい強くなりなさい。それがあんたにできる私へのお礼よ」
「うん! 僕、強くなる!」
「じゃあ、これあんたにあげるわ」
そう言って、ポケットからお守りを出すソフィア。
「え? 僕がお姉ちゃんからお礼もらうの?」
「これは、お礼じゃない。私が友達にもらったお守りってやつ。持ってるとなんか頑張れる。私はあんたよりは強いから、今度は私があんたにあげる」
「わーい! 僕、大事にするね!」
「ねえ、おじいさん。……あ、ありがとう。こういうの初めてだったわ」
「いえ、そんな。こちらこそお引止めしてしまい……。そろそろお時間で?」
「うん、ごめんね。……じゃあ、マルクス」
「ああ……」
「……あんたさ、よく頑張ったよ。お母さんがいたらきっと、褒めてくれたと思う」
「え?……はは、そうだといいな」
そしてソフィアは上空に消え去った。
一方、町のヒューマライズの回収を免れる術を失ったマルクスだったが、それでも町の住民の為、今まで通り働く意外に道は無く、出来る限りの事をしようと決意する……。
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