第百四十七話 第二部ソートリオール幹部集会 その2
リゼルグに育成師の資質を賞賛されるソフィア。しかしその言葉に、友人であるマルクスの立場が頭を過っていた。育成師が特別なものでなくなってしまえば、政府に抗ったマルクスの存在価値は一気に地に落ち、最悪は極刑だからだ。リゼルグの賞賛は素直にその意で無い事くらいソフィアには分かっていた。
「先日の抗争の直前の話だ。やり方はどうあれ、リュシオルの旦那はカルマを相当追い詰めた。あの時ヤツを葬れていれば、終わりだっただろう。それを邪魔した上、その後の抗争でもカルマたちに加担したマルクスはこのまま不問でいいんかい?やり方が気に入らないと駄々をこねたお嬢は、それなりの罰は受けたのにな」
「……リゼルグ、あんた、ねちっこいわよ。……でも、そうね。あいつにもそれなりの罰は必要ね。どう? パパ」
「……葬れと申すか?」
「っ!! わ、私はそこまで……」
「ああ、俺はあんたがそう言うなら構わんぜ」
「リゼっ……!! あんたっ!……パパ、待って!」
慌てるソフィアの様子に斑鳩が冷静に割って入る。
「ジャネクサス様、お言葉ですが、このタイミングでの極刑は些か勇み足かと。確かに、ジュヴェルビークの悪魔への加担だけを見れば、極刑に値するでしょう。しかし、奴は育成師の中で最も成果を上げております。ソフィア様の資質を考慮しても、直ぐに奴ほどの力が発揮できるか不確定の状態で今ヤツを失えば、戦闘特化型の戦力が著しく低下し、多少勢力の大きい族風情にさえ、抑止力として対応できなくなる恐れもあります。それに、奴がカルマと密に繋がりがあるのであれば、ヤツを葬る事がカルマの怒りに触れる事にもなりかねません。ここは、報酬額の減額程度の執行が宜しいかと」
「おい、斑鳩! お前が決める事じゃないだろ! 判断を下すのはジャネクサス様だ!」
「よい、リュシオル。……斑鳩、最もな意見じゃ。では、マルクスの報酬額を恒久的に50%減。これに従わねば、討つとしよう。通達は、ソフィア、お前の管轄区画だ。任せる」
「……分かったわ」
「わしからは以上じゃ。他に何かある者は……?」
「……」
「では、終わりにしよう」
こうして、ジュヴェルビーク攻防戦後初の定例会は終わった。
――
「斑鳩ちゃん!」
「ソフィア様……」
「さっきは、ありがとう」
「いえ、あれはあくまで私の見解です。……ソフィア様のお力を侮るような言い方をし、失礼致しました」
「いいのよ。そんな事。……ねえ、斑鳩ちゃん、変な事聞いていい?」
「……なんでしょう?」
「……“希望”って何?……その……、言葉の意味くらいは分かるよ。でも具体的じゃないじゃん。だから……」
「……希望は常に、可能性でしかないです。それが大きければ大きいほど、敵わなかった時の絶望は大きい。……“希望”とはそういうものです。信じる程危険だと、私は思います」
「そう……だよね。危険なんだよね。……ごめんね。変な事聞いて」
「……いえ」
「じゃあ、部屋戻るね」
そう言ってソフィアは部屋へ戻った。
――
「ソフィア様、おかえりなさい」
「ただいま。三人とも、今日の訓練もご苦労様。明日は私も加わるわね。……って、レン、あんたボロボロじゃない」
「申し訳ございません。もう少し経験が必要のようです」
「大丈夫よ、レン。私があんたを誰にも負けないくらい強くしてみせるから。……もし、ダメだったとしても、その時は……。今度は私があなたを守る。私は、こどおにとは違うからね」
「ふふっ! ソフィア様のお話には、こどおにがよく登場しますね」
「そんな事……。ははっ! そうかもね!」
――斑鳩、自室
ドンっ!!
「(……私は、……何をしているんだ! 迷いなど、とうの昔に捨てたはずだろ?)」
斑鳩は苛立った。困惑した。マルクスの罪を擁護し、レンの破棄直前に見せたロキの異常な変化も報告せぬまま情けをかけるような自分に……。
それでも彼女に頼る場所は無い。そこにあるのはただ只管の孤独だけだった……――
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