第百四十三話 ハザマ
「……それにしても一度しかハザマに干渉していない俺は、たまたま見つからなかったのかもしれませんけど、以前からずっとハザマに干渉していたレイチェルさんは何で政府に気づかれていないんですか?」
「そんなのは、当然じゃ。ハザマを作ったのは、わしじゃからな」
「え?……えーーー!!」
「ジャネクサスはハザマを宇宙の理からなる別次元の一種を発見したと思っておる。それ故、その存在を知りうる者は自らが共有した幹部とその一部の適正のある部下のみだと。そしてその管理者は自分だと。……じゃが、実際はわしが移動手段として人工的に作った異空間に過ぎん。真の管理者はわしじゃ。わしは、管理者しか使えぬバックドアから侵入し、管理者専用通路のみを利用して移動と監視をしておる。やつはただの利用者じゃ。故に管理者であるわしの存在には気づきようがない」
「……驚きました。まさか、ハザマにそんな真相があったなんて……」
「いや、驚いたのはこっちじゃ。何の目的があってかは知らんが、わざわざハザマからあのヒューマライズを奪取しておいて、政府が疑いを掛けているジュヴェルビークにみすみす向かうなど……飛んで火に入るなんとやらじゃ」
「それは……、あとから知った事で……。ジュヴェルビークに向かったのは、マルクスさんに会う為だったんです。血の目覚めがあった事で俺を知っている唯一の手掛かりだと思っていた育成師という血筋を辿ったんです。結局マルクスさんも俺の過去を知る人ではなかったんですけど……」
「……」
「でも、不思議な事を言っていました。ジュヴェルビークに俺が来る事を聞いて待っていたと。そして、それを伝えたのはノアさんだと……」
「ノア……吾郎の娘のか?」
「そうです! 知ってるんですか?」
「ああ、政府で研究員をやってたな」
「どこかでわしの能力を知ったんじゃろう。昔、ソートリオールで偶然会った時に吾郎の娘だと知った。育成師の娘が政府で研究……。面白い話が聞ける思っておったら、向こうもわしの能力を見たいと言い出した。これは面白い娘だと思い、一度ここへ連れてきてやった事があるわ」
「ちょっ……ノアさんは政府の研究員なんですか?」
「ん? お前が驚く事かい?」
「いえ……、俺も聞いた話ですけど、その昔、ゴローじいはノアさんともう一人、ソアラさんっていう二人の娘さんと暮らしていたそうです。ソアラさんはヒューマライズで、ニアだったそうで……。それで政府に破棄を強要され、最後はゴローじいとノアさんを守る為に自ら破棄を選んだって……。そんな事があったのに、政府下で研究なんて……ってちょっと思いました」
「なるほど。わざわざ恨みがある組織の配下に入ったという訳じゃな。それは少々不可解ではあるのう。まあ、わしの知った事では無いがの」
「じゃあ、政府の研究所に行けばノアさんに会えるって事ですよね? それならちょっと光が見えて来たかもしれません」
「いや、そうとも限らんぞ」
「え?」
「マルクスも居場所は分からんと言っておったんじゃないか?」
「え?……どうしてそれを?」
「わしがノアに会ったのは20年以上も前の話。……かつては政府も研究員という存在を認めておった。いや、正確には、研究欲を持て余す者を全て管理下に置き、自分たちの目の行き届くところに置くのが目的だったんじゃろう。じゃが、人も衰退の途を辿っておる。今や研究欲を持て余す者もほとんどおらんくなった。……研究所は今はもう無い」
「そんな……。じゃあノアさんはどこに……」
「……お主、目的がズレておるぞ。自分の記憶の事よりも、破棄したヒューマライズをもう一度奪還する為に力を付けたいんじゃないのかい?」
「……そうですね。レイチェルさん、食べ終えたら特訓宜しくお願いします!」
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