第百三十八話 新たな生活の始まり
20代程にしか見えないレイチェルの年齢を聞いて驚くロキ。
「そう驚く事でもなかろう? ヒューマライズを見てみ。幼い姿で成長を止めたり、年齢を逆行したりしおる。それに比べたら、成熟しきってからのアンチエイジングなど年寄りの趣味みたいなもんじゃ」
「いや……、アンチエイジングってレベルじゃ……」
「それよりお主、あのヒューマライズは、十中八九兵器として使われるぞ? 破棄しておいて、責任とれるのか?」
「……レンはレヴェイになってました……。知ってますよね? 感情を持つ事を政府の奴らが“罪”だとしている事を。そのヒューマライズの末路を。あいつは、もういないんです……」
「……なんだい。随分と諦めが早いねぇ」
「え?」
「焼却するつもりだったのなら、お前さんに奪られる以前にとっくにそうしとるじゃろうて。そうはせず、高セキュリティ下で保管しておったのなら、利用目的が有り、その機を待っていた。もしくは、その他の材料が揃っておらず、それを模索中だったと考えるのが筋じゃろう。奴が実際に政府の最大戦力であるグローサ隊長を遥かに凌ぐ力を発揮していたのなら、その力を手に入れるのがその目的だった。大方その力をカルマにぶつけるつもり……そんなところじゃろう。……それに、代わりの立たない大切な存在だったんじゃないのかい? だったら自分の目で確かめるまで諦め……――」
「うぅぅ~~~~……、レイチェルさん!!」
「“レイチェルさん!!”じゃないよ、全く……」
「レイチェルさん! 俺に稽古をつけてください! レンとカルマが戦うなんて絶対ダメだ! 俺が止める!……でも今のままじゃ、政府の連中と真面に戦えない。だから……」
「お前はバカか。素性の分からないガキを鍛えて、わしに何の得がある。言っただろう。仕置きをしようと思って連れてきたと。殺してくれなどと言うもんだからもうその気も失せたわ。今日にでもカルマんとこに送りかえすつもりだよ。わしも暇じゃあないんだ」
「待ってくれ! それじゃあ、レンを助けに行けない!」
「知った事かい。それこそ、カルマやマルクスだっておるじゃろう? なんなら、吾郎のところでもう一度鍛えてもらえばいいじゃないか」
「カルマやマルクスさんは、俺たちを守る事しか考えてない。……それに、ゴローじいのところには、一人じゃ戻れない……記憶を取り戻してレンと二人で戻るって約束したんだ……」
「自分の都合ばかり言いおって。わしは、報酬に見合った仕事しかせん主義じゃ。報酬も無しじゃ、交渉にもならんぞ」
「だったら、今日から炊事・洗濯・掃除は俺がやります! 見る限り生活支援型のヒューマライズもいないみたいだし」
「ほう。じゃあ、まず飯でも作ってもらおうか。不味かったら直ぐ送り返すからな」
「わかりました。任せてください!」
そんなこんなで食事の支度をするロキ。吾郎に料理を教わっているので、それなりに自信はあった。
――そして
「(うっっっま!!! あんな残り物の材料でどうやってこんな味が)……うむ、まあまあじゃな」
「鍛えてもらえますか?」
「まあ……、いいじゃろう。朝昼晩、三食作るんじゃぞ」
「よっしゃーー!!」
「……殺してくれとしょげてた奴の元気とは思えん。ネガティブなのかポジティブなのか……。ところで、お主の名をまだ聞いてなかったな。聞くつもりなどなかったが、しばらく面倒見てやるんだ。名くらい聞いておこうか」
「あ、そっか。俺、ロキっていいます。年は、18です」
「て事はだ。お主とわしの年の差が10歳ほどという事は……わしは28歳くらいには見えるという事じゃな」
「(え? そこ?)……は、はあ、まあ」
「うむ。良い心がえじゃ。ロキ! おかわり! 早よ!」
「は、はい!」
こうしてレイチェルの弟子になったロキ。ここから想像を絶する厳しい修行の日々が始まるのであった。
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