第百二十話 ドラグレスク研究所
その晩、マルクスは、一人クリオネの元を訪れた。
「クリオネ……。カルマの事だけど、“心配ない”は本音ではないよね」
「……ふっ、流石に鋭いな。ドラグレスク研究所跡地。カルマは、そこに向かった」
「なるほど。因縁の場所か……。それは少し嫌な予感がするね」
「ああ……、だが現状ではカルマに任せるのが最良だと判断した。カルマなら仮に政府の奴らが総出で来ようが戦闘力では圧倒する。私や負傷中のノイがついて行ったところで足を引っ張りかねん」
「政府から場所以外に条件は?」
「二人の前では伏せたが、ロキとレンの引き渡しという形ではなく、二人だけを寄越せと要求されている」
「……要求を無視した訳か。人質が危険になるが……大丈夫かい?」
「それは百も承知だが、要望通り二人だけを行かせるのはリスクが高すぎる。気配を偽装し接近する事くらいカルマなら容易にできる。……だが危険な賭けである事には変わりない」
「……分かった。0時だったね。機を見て僕も向かうよ」
「……大丈夫なのか?」
「ああ、万が一カルマに何かあったとしても、カルマとトトニスさん二人を抱えて脱出するくらいはできると思う。逃げ足だけならカルマといい勝負ができる自信あるからね」
「……恩に着る」
「ふふっ。用心棒のおじさんに任せなさい!」
――そして時刻は0時を迎えようとしていた。
ここは、かつてヒューマライズの人格化という禁断の研究が行われた研究所、ドラグレスク。政府により壊滅させれられたその場所に今はただ広い平原が広がっている。志半ばで闇に葬られるという形で散っていった研究員たちの怨念が漂う地でもある。
コツ……コツ……
「……ほう。まだ制限時間まで随分と時間があるが、奇襲でも仕掛けに来たのか?」
「素直に要求を呑むとは言っていない」
「要求に答えるつもりは無いと?」
「ああ」
「ふっ、……交渉決裂」
そう言い残すとリュシオルは気を失ったままのトトニスを抱え、飛び去った。
しかし、カルマがその後を追った。
「掛かったな!」
「なっ!?」
その行動はフェイクだった。
「ピエージェ・ド・アラーニャ!」
追ってきたカルマの前に蜘蛛の巣状の巨大な黒い光が張り巡らされた。
勢いのまま蜘蛛の糸に絡まるカルマ。瞬時に振り切るも、その一瞬を稼ぐ事がリュシオルの狙いだった。その一瞬で間合いを詰め、追撃を加える。
「ホリックスペリオ・ジエンド!」
その攻撃を真面に受けるカルマ。
「くっ!……ぬああぁぁぁぁーーー!!!!!」
カルマの脳内に研究所中に漂う全ての怨念が流れ込む、カルマほど戦闘スキルであれば振り切れるはずの技だが、カルマ自身が抱える罪悪の念、背負った責任の重さに呼応するかのように激しく膨れ上がったその闇は、逃れる事を許さぬかの如く襲い掛かった。
物理的な戦闘では太刀打ちできないならば、精神を崩壊させる事がカルマを打ち破る唯一の策。リュシオルは、カルマと交渉をした時点でカルマがここにやってくる可能性を想定し、この場所を選んでいたのだ。
「フハハハッ! 予想以上の効果だ!……ついにこの時が来たぞ。カルマ・アステロイドを破る時が!」
「あ……ああぁぁ……ぐっ、き、貴様……」
「……さて、トドメだ。最後は案外呆気なかったな。……さらばだ」
リュシオルの手に黒い光が収束する。
ドッッッ!!!
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