第十二話 破棄の意味
30年前にレンは死んでいるという事実を聞き言葉を失っているロキの様子を見て吾郎は一つ質問をした。
「破棄……。これについてレンちゃんと取り決めは?」
「と、取り決め……ですか? いえ、俺はレンを破棄するつもりはありません。だから何も取り決める事なんて無いです」
「もしキミが死んだら?」
「それは……。その時はレンが思うように生きてくれれば……」
「残念だが、それは無理じゃ」
「なんで!? 俺なんかいなくたって……」
「主が死ねば、ヒューマライズは破棄される」
「そんな! じゃあ、あの時俺が賊に殺されていたらレンは……」
「破棄されていた。……いや、彼女の場合それでは済まんかったはずじゃ」
「そんな……」
「“力無き者の優しさは、時として最悪の結果をもたらす”」
「!!」
「ワシ自身、身をもって知った事じゃ。単に力と言っても戦闘能力の事だけを指す訳じゃない。勇気・知識・判断力、これらも力じゃ。時には、知る事に恐怖を抱く事もあるかもしれん。だが、知る勇気も大切なんじゃ」
「(ゴローじいの言うとおりだ……俺は……)」
後悔し、下を向いたまま青ざめるロキ。
それを見た吾郎が静かに語り始めた。
「ロキ君、よいか。……破棄とは、ヒューマライズの初期化の事を指す。記憶が消され、最初の状態に戻す事じゃ。そして、生産された工場に転送される。その後、検査を受け、異常がなければ洗浄され、また売り出される。その後は二度と同じ人間を主とする事は無い。次の人生を歩むという訳じゃ」
「……」
「だが、異常が見つかれば焼却処分される。……加えて稼働中に“ヒューマライズ法”を犯した者も、機能上正常であっても焼却処分される」
「そんな……」
「重要なのはここからじゃ。良いかな」
吾郎の問いかけに唾を飲み込み頷くロキ。
「“破棄の宣告”……。破棄をするには宣告をせねばならん。主が亡くなった場合もヒューマライズは破棄されるとは言ったが、この“宣告”を意味する行動を取り決めているかいないか、ここが大きな分岐点になる」
分岐点という重い言葉を聞いて頷くロキ。
「取り決めをしていない場合、主人が死んでもヒューマライズは破棄されない」
「そ、それじゃあ……」
一瞬希望を持つロキだが次言葉がその希望を絶望に変える。
「……初期化不能の欠陥品となり、そのまま焼却処分となる」
「そんな……」
それを聞いたロキは、破棄の意味を知ろうともせず、危うくレンにヒューマライズとして最悪の結末を辿らせかけた自分の愚かさに苛立ちと恐怖を感じた。
「……俺は、愚かでした」
「いや、キミは優しい。それ故に少々酷な言い方をした。すまん。許してくれ」
「いえ……。ゴローじい、取り決めについてはどうやれば……」
「そうじゃのう……。いや、それはレンちゃんから説明を受けたほうがいい。それも含めて経験じゃ」
「はい。……俺、あなたに出会えて助かりました」
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