第百十八話 ロキを知る人物
――その日の夜ソフィアはロキとレンをマルクスの下に送り届けた。
「じゃあ私は行くから」
「ああ、あとは任せてくれ」
そしてソフィアは、去っていった。
「……」
「さて、二人の気持ちは察している。咎めるつもりは無い。……けど、もうこんな危険な事はしないと約束してほしい」
「……勝手な事をした事は、本当に申し訳ないと思っています。……けど、俺たちが居たせいで防衛班のみんなが傷ついて……。ノイさんだって腕が……」
「……だったら尚更戻ってはくれないか」
「え?」
「そうまでして守ろうとした君たちが政府に捕らえられてしまっては、彼らも浮かばれない」
「それは……。でも、今更どんな顔して会えばいいか……」
「はじめに言っただろう。気持ちは察していると。カルマたちだって同じだよ」
「……ごめんなさい。一晩……、今日はここに停めて泊めてもらえませんか? もう少し冷静に考えさせてください」
「……分かった。一方的にこちらの考えを押し付けるようですまない。ただ、カルマたちもきっと君達を探している事だろう。一先ず、君たちの無事だけでも伝えさせてほしい」
「……はい」
その晩ロキは、できる事なら主である自分がレンを守りたい事、その為に吾郎に鍛えてもらったはずなのに、政府の強者たち相手では全く力が及ばない事への歯がゆさを語った。
それを聞いたマルクスは、吾郎がロキをそこまで鍛えなかった理由を推測し、話した。
マルクスの推測はこうだ。
ロキの性格上、仮に政府の強者たちに並ぶ力を得れば、レヴェイ達の権利を主張し政府に立ち向かう可能性がある。しかし、力の差が明らかであればレンを守る為に行動し、自ら命を投げ出すような事は避けるだろうと。なぜなら、主の死はヒューマライズの死と同意なのだから。
それを聞いたロキは、吾郎から貰ったおまもりをマルクスに見せた。
するとマルクスは合点がいった顔を見せ、吾郎の優しさを感じ微笑んだ。
やはりこのおまもりがあったからこそ、ロキたちは旅を続けられていたのだった。加えてもう一つ、レンには政府管理下にあるヒューマライズなら必ずあるはずの識別コードが無いという事も政府がレンに辿り着けない理由でもある事を話した。
キロとマルクスの話はその後も続き、ロキは吾郎やカルマの心配を知った上でも尚、強くなりたい事、更には記憶を取り戻したい事などを伝えた。それを求め、レイチェルに会うべくジュヴェルビークを出た事も。
やがてレンはうとうとしはじめ、先に寝た。
そしてロキは、以前マルクスが語った“ハザマ”について、なぜ自分がそれに干渉できたのかマルクスの推測を煽った。
するとマルクスは、意外な名前を口にした。
「ロキ君、僕が最初に君に会った時、君を待っていた理由を古い友人からの伝言を伝える為だと話したのを覚えているかい?」
「はい。その時、マルクスさんは昔の俺を知っているんだと思いました。でも俺が記憶喪失である事が想定外だという事で、それ以上は知る意味が無いって……。それで、俺が大きな決断をする時に、俺自身が納得する決断をって……」
「ああ。覚えててくれてありがとう。結論から言うと、僕はキミの過去を知らない。僕はだた君に伝言を頼まれただけの存在だ。そして、その友人の名は……“ノア”。彼女こそ、恐らく君のすべてを知る存在だ」
「え……! ノアって……あのノアさんですか!?」
「ああ、そうだ」
「……そんな偶然って……いや、俺がマルクスさんに会いに来る事を知っていたなら、もしかしたらゴローじいに会う事も分かっていたんじゃ? ゴローじいは聞かされてなかっただけで……。ノアさんに会えばすべてが分かる! マルクスさん! ノアさんは今どこに居るんですか? 俺、会って話を聞きたいです!」
「……彼女がどこに居るかは僕にも分からない。どこに行くかも教えてはくれなかった」
「……そうですか(いや、待てよ……でも、だったとしたら……)」
ロキは、吾郎に出会った時に別に星から来たのかと言われた事を思い出していた。吾郎もマルクスと同じく自分の事をノアから聞いていた。言葉にはしなかったが、やはり自分に記憶が無い事が想定外で、その事実をロキには伏せていた。つまり、ノアは別の星にいて自分は何らかの目的でこの星に送られてきた。そんな想像が頭を駆け巡った。
そしてその仮説が正しければ、自分の存在を知るノアに会う事は雲を掴むような話にもなるという落胆に近い思いもまた……。
「さて、今日はもう遅いし、このくらいにして寝ようか」
「……はい」
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