第百十六話 二人の危機に
ロキたちがジュヴェルビークを出た翌朝、その情報はカルマの耳にも届いていた。
伝えたのは、二人の手紙を読んだ牧場のトトニスだった。
レンの事情を知らないトトニスは、二人の突然の行動に困惑していた。
そして事情を知る為、カルマを頼った。
「カルマ! 今朝、うちの牧場にこんな手紙が……」
「んのバカ共が!!」
「ねえ、なんで?……なんで突然こんな事……」
「心配しなくていい。お前は牧場に戻れ」
「……もしかして、このところ政府の襲撃が急に増えた事に関係……ある?」
「……詮索するな。知る必要は無い。早く戻れ」
「……そう。……だったら私、二人を探しに行く」
そう言ってトトニスは部屋を出た。
しかし、カルマが瞬時に追いつき、トトニスを止めた。
「待て。事情も知らぬ奴が闇雲に動いて何になる? 聞き分けろ」
「……カルマ、いつもそうだよね。……優しさから言ってくれてる事は百も承知。でもさ、私は……私たちは守られるだけなの?……そりゃ私ではカルマのようには戦えない。……けど、私だって大切だって思う気持ちはあるんだよ。二人が心配だし、力になりたい! 教えてよ! 二人の事を!」
「……約束しろ。知った上で、自分の力が及ぶ事ではないと判断したら、何もしないと」
「……ありがとう」
そしてカルマは、政府の襲撃の理由がレン奪還の可能性が高い事、ロキとレンがその事を理由にここから去ったと推測される事を語った。
「……レンちゃんが……、そんな」
「分かったら、お前は牧場へ戻れ」
「……カルマは、どうする気?」
「一晩で行ける範囲など知れている。周囲を探す」
「……分かった。……二人の事、お願いね」
「ああ」
こうしてトトニスは、牧場に戻った。
しかし、内心では何もしないつもりではなかった。牧場に戻った後も、二人が誰にも気づかれずにジュヴェルビークを出られた事に違和感を感じていた。
「(ここを出たって……、一体どうやって? たとえ夜であっても各門には門番が居るはず……。そこを通って外へ出る事は、許可がなければ不可能……。まだ敷地内に居て、混乱に乗じて抜け出すつもり?……ううん、そんなのカルマに気配で気づかれる。……他に方法が?)」
色々と考察しながら、ふと空を見ると、回遊しているガルーダが一頭少ない事に気がついた。
それは、カルマでは気が付かないであろう動物使いのトトニスならではの気づきであった。
「ガルーダが一頭少ない?……まさか……。でも、ロキ君あの口笛吹けるようになってたし、もしガルーダを従える事ができたら、万が一にもここを出られる。しかも夜なら昼間より目立たず行動できる……」
ガルーダが少ない事から、通常なら有り得ないような事を考察するトトニスだったが、この可能性に賭けてみる事に決めた。
「……可能性は無い訳ではない。もしそうだとしたら、一晩でもかなり遠くまで行ってるはず。カルマが言う通り、レンちゃんが政府に追われているならかなり危険だ。……私が行かなきゃ。ガルーダを操れるのは、恐らく私だけだ」
こうしてトトニスは、ロキとレンを探す為、ジュヴェルビークを出る決断をした。
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