第百十一話 強制破棄
定吉の話を聞いたレンは、その意志を尊重したいと思った。
「……サダじい、長くルカさんの破棄を拒み続けてきたあなたが、刑の執行を受け入れたのは、本意ですか?」
「……わしはルカに、自由に……思うがままに生きてほしいと思うておった。だから、こんなところで理不尽に自由を奪われたあの子を開放してやりたいと。じゃがそれは、押し付けだった。あの子の望みはわしとニーナの三人で暮らす事。ただそれだけじゃったんじゃ。……しかし、それすら叶えてやれん。ならば、もう……。ただ、あの子一人を逝かせるのは親としてできんかった。それだけじゃ。……これが最後にわしができる事だと思う」
「……ごめんなさい。私にサダじいを止める権利は無い。……だけど私は、サダじいやニーナさんの想いは好き。とっても素敵って思った。……それだけは言ってもいいよね」
「最高の言葉じゃ。……ありがとう」
――翌日、定吉は別室に連れて行かれた。看守が定吉を連れ出す際、ロキが立ち上がろうとするのをレンが制止した。
「レン! なんで止めるんだ!」
「ここで騒ぎを起こしたら、わざわざ大人しく捕まった意味が無くなるよ。私たちだって目的はあるんだから見誤ってはダメ」
「……くっ! でも、このままじゃ……」
「じゃあ、助けてその後はどうするの? 今逃られたとしても、すぐに捕まる。そしたら同じ事だよ」
「それはその時になって考えればいい! 今助けなきゃ、それこそ結果は明白だ!」
「命は大事。それは分かる。だけど、全ての人にそれが当てはまる訳じゃない。そうじゃない人だっているんだよ」
「なんだよ、その言い方! だったらサダじいの命はそうじゃないとでも言うのか!」
「そういう意味じゃないよ! サダじいの思いとロキの思いは違う! 私が言いたいのはそういう事だよ! 昨日ロキを突き放すような態度だったサダじいの気持ち、分かるでしょ! 助けたいのはロキのエゴ。時にはそれを押し付けちゃダメな時だってあると思う」
「だからって……、だからって、それを受け入れたらサダじいは死んでしまうんだぞ! それが正しい事なのか!」
「それは……」
「もういい! 俺は助けに行く!」
「ロキ!!」
レンの制止を振り切って駆け出すロキ。空気を圧縮し小さな刃のような形状を作ると、鉄格子の一部を切断し、外に出た。
「サダじいの気配は……、くっ! ジャミングか! 邪魔で、気配が分からない……」
定吉の居場所が分からず、一旦定吉が連れていかれた方向に走りだしたロキだったが、角を曲がろうとしたところで、後ろから声がした。
「おい! 貴様! 何故牢の外にいる!」
「うっ! まずいっ!」
「逃がすかっ……! っうぐ……」
ドサっ……
「え?」
「そこ曲がった先、まっすぐ行って! 階段下りたら二番目の左の部屋! 牢に連れて来られる時に通った道、“安楽”って書いてあった部屋があった。たぶん、サダじいはそこにいる!」
助太刀に入ったのはレンだった。
「また直ぐ見回りが来るかもしれない! ここは何とかするから、早く行って!」
「……レン……分かった! すまん!」
安楽室――
「さあ、時間だ。最後に言い残した事はあるか」
「……」
「なら、これまでだ。お疲れさん」
そう言うと看守は、注射器を取り出した。
ドガッ!!!
その瞬間、扉を突き破り、ロキが部屋にやってきた。
「サダじい!!!」
「っ!! ロキ君!?」
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