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宜しくお願いします。

「ローザアネット様!!誰か!ローザアネット様が倒れたわっ!!早く、部屋へお連れして」


 そう叫んだのは侍女のターナ。王宮の王太子妃の執務室での出来事だった。いつも冷静沈着な彼女が慌てている様子が見えたけれど、そのまま私の視界は暗転したみたい。




「ここは、私の部屋かしら?」


 気が付くとベッドの上で寝かされていた。さっきまで、私は執務室で執務をしていたはずよね。確か朝からふらついていたけれど、いつものように執務をしていたら突然気分が悪くなって、私ったらそのまま倒れてしまったのね。


「王太子妃様、気が付かれましたか」


 心配そうに聞いてきたのはターナ。


「ターナ、ごめんなさいね。心配かけてしまったわ。まだそんなに時間が経っていないでしょう?すぐに執務室へ戻って仕事をするわ」


 ターナは今にも泣き出しそうな顔をしている。


 どうしたのかしら。


「ローザアネット様、倒れてから丸2日経っております。勤勉なのも良いですが、今はお休み下さい。医者を呼びますのでそのままお待ちください」


 そう言ってターナは部屋を出て行った。丸2日寝ていたの?まさか。私の中では30分程気を失った程度だと思っていたのに。


 すぐにターナは王宮医師を連れて部屋へと戻ってきた。私の部屋は王族スペースの中でも一番奥まった部屋に1人住んでいるのでかなり遠い。ターナは医師を走らせてきたのかしら。医師に早速診察をしてもらう。


「ローザアネット様、長年の過労と心労が重なったのでしょう。腰を据え、じっくりと療養する必要があると思われます」


「・・・そうね。もう疲れてしまったわ。休みたい。お医者様、これ以上業務を遂行する事は難しく静養の必要があると書いて下さらないかしら」



 重い体を起き上がらせて医師の方に体を向ける。ターナは傍でさっと私の体勢が辛くならないようにとクッションを背に当てたり、お水を用意してくれたりと甲斐甲斐しく世話をしてくれている。


「承知致しました。診断書にはそう書いておきます。あまり無理をなさいませんように。では私はこれで」


 医師は薬を処方した後、静かに部屋を出て行った。


「ターナ、宰相を呼んでくれるかしら。次から次へと用事を言ってごめんなさいね」


「私にとっては些細な事です。宰相様をすぐに呼んでまいります」


 待っている間にソファに掛かっているストールを取ろうと思ったけれど、体が石のように重く、動く事もままならない。


 精神的なものか肉体的なものか分からないけれど、辛く苦しいと体は悲鳴をあげている。



「王太子妃様、目を覚まされましたか」


 しばらくすると宰相はターナに案内され心配そうに部屋に入ってきた。私は力なく口を開いた。


「宰相、いえ、お父様。・・・私、もう疲れました。・・・来週は陛下の引退、アロイスは陛下になり、ザイルの立太子の儀もあります。


病に倒れた私では国母としてアロイスを支えていけません。私を緑の離宮へ向かわせて下さい。そして側妃を正妃に上げる手続きをなさって下さい。私は誰が正妃になっても構いません」


 もう、疲れた。


 何も考えたくない。


 きっと私は心が壊れる限界ぎりぎりまで来てしまったのだろう。心の内を吐露するように宰相である父に話す。


「娘よ、無理をさせたな。よく頑張った。緑の離宮に下がれるように手続きをする。誰も文句は言わないだろうし、文句を言うやつは私が黙らせてやる」


「ふふっ、お父様、有難う御座います」


 父は今までの事を思い返しているのか辛そうな顔をしている。私がここで泣いてはいけない。父に心配を掛けてしまうもの。父の優しさに涙が出そうになるのをぐっと堪える。


「何も心配しなくていい。さぁ、とりあえず休みなさい」


「お父様、有難うございます」


 私はベッドに横になった。父は昔のように布団を掛けてくれ、頭を撫でてくれたわ。


「お父様、もう子供ではありませんわ。ふふっ。でも嬉しい。何年振りかしら・・・」


「さぁ、もう寝なさい。起きたらまたやる事があるのだから。引継ぎとか忙しくなるぞ」


「そうね。おやすみなさい」


 私はすっとまた眠りに落ちた。

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