第八話 少年の決意
「動くと切る」
「!」
「ここを切ればどうなるか知ってるか?喉が裂けて、血が吹き出して、お前は死ぬんだ」
「よせ、クロテツ」
「大好きなおっちゃんのところに行けるぜェ?なぁ、クソガキ」
「〜〜〜っ」
どこから出したのか、中型の剣がモナネルの喉に充てがわれている。切れ味がいいそれは、うっすらモナネルの喉の皮を切り裂いていた。血が、流れ落ちる。
「よさないか」
「しかし、許せません」
「俺の命令が聞けないのか」
「…失礼いたしました」
剣を下ろしたクロテツは、左胸に手をあててルカに跪く。
安心したモナネルは、腰が抜けたようで、椅子からずり落ちた。ルカはその様子をみて、モナネルに言葉を投げかける。
「戦争から程遠い、平和な暮らしをしていたのだな」
「…」
「お前が生きた15年間は、どうだった」
「…どうって、」
ペンキを塗って、叱られて、一生懸命練習して、ご飯を食べて、くだらない話で盛り上がって、街の人は親切で…
「最高だった、幸せだったよ…。戦争してるなんて、実感ないくらい平和で、毎日楽しかった」
「そうか」
「…ここにいる、ルカさんのおかげだぞ、てめえ」
「え?」
「俺たちがどれだけ民を想ってるか。ルカさんがどんな想いで戦争に挑むか、考えてみろ」
「クロテツ、よせ」
苦しそうな顔で、でも。と続けるクロテツを、ルカが手で制する。
その瞳はやはり落ち着いていて、どこか冷めていた。
「空と海と山、昔は1つの国だった」
「…15年前の戦争で分裂したんでしょ」
「そうだ。あの時も、たくさんの犠牲が出た」
たくさんの血と涙が降り注いだ、地獄のような1日。
たった1日で国は3つに分かれ、そこから領土争いが勃発した。まだ幼かったルカは、なす術もなく戦争に巻き込まれていった。
「なぜ、戦争が終わらないと思う?」
「…領土争いが、続いているから?」
「それもある。だが、大きな原因は違う場所にある」
「違う場所…?どこなの?」
「それはお前が探すんだ」
「え?」
「見つけてみろ、負の連鎖を止める方法を」
じっと交差するブルーの瞳。
期待を含めたような、意志の強いそれは、モナネルの心を強く動かした。
「それを見つければ、戦争は終わるの?」
「…そうだ」
「僕に、できるのかな」
「お前ならやれる。そして、俺たちがいる」
「僕は誰も殺したくない」
「それがお前の志なら、お前が守れ」
その瞬間、ふっと空が明るくなる。
差した光は、モナネルの顔を明るく照らした。
「やるよ僕。おっちゃんのために」
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