第七話 心の叫び
「座れ」
「失礼します」
「…」
「お前もだ、クソガキ」
「あ、はい…」
一人掛けの椅子にルカが、3人掛けの椅子にモナネルとクロテツが腰掛ける。
どこに控えていたのか、突如2人の使用人が現れて、3人分のティーカップを並べ始める。
「モナネル様はこちらもお召し上がりください」
「え?」
そう言ってモナネルの前に差し出されたのは、小ぶりな焼き菓子。マドレーヌにマフィン。砂糖で縁取られた丸いクッキーが皿に盛られていた。
「ありがとう…でもどうして僕だけ?」
「おめえが子どもだからだろ。ルカさんのご厚意を無駄にするなよ」
「…嫌いだったか?」
「〜〜っ、モナネル!」
「えっ、いや、す、好きです!」
「ならいい。子どもと女とクマは、甘味が好きだと聞いた」
「(クマ…?)」
表情の変化に乏しいルカは、感情が読み取りにくい。しかし、怒ってはいないようだ。
モナネルがクッキーを1枚かじると、ルカは満足したようにティーカップを置く。いよいよ暗闇に目が慣れてきたのか、周りの様子が見えてきた。出入り口には2人の使用人が控えていて、右手には暗闇へ続く別の通路。左手には窓があった。壁に掛けられた大きな時計は、2を指している。つまり今は深夜2時を回っているらしい。
「さて、モナネル」
「はい、」
「まずはこの度の件を詫びよう」
「?」
「俺の隊の失態で、お前を危険に晒し、お前の大事な人の命を奪ってしまった」
「…っ!」
(っ青いの!逃げろ!)
頭にこだまする兵士の声。フラッシュバックする景色。
僕はおっちゃんの顔も見れずに、声も聞けずに、ここにいる。本当におっちゃんは死んだのか?わからないまま、僕は、僕だけは生きてる。
手に汗がじんわりと滲む。憎い、憎い。誰にぶつけたらいいかわからない感情が心を支配する。それを隠すようにグッと力を込めれば、ルカは僕を見つめて言葉を紡いだ。
「お前が憎しみを抱く必要はない」
「っ…どうして、」
「お前の大事な人を殺したのは、山軍の兵士だ。あの2人は俺が殺した」
「!!」
「一般人を戦争に巻き込むわけには行かない。それを防げずに申し訳ない」
「どうして、その人たちを殺したの…?」
「お前の大事な人を殺した、復讐相手だからだろう。我が空界の民を殺した、俺の復讐相手でもある」
「だからって…!」
「モナネル」
制するように僕の名前を呼ぶルカ。
その瞳は相変わらず落ち着いていて、光を持たない。
「戦争で犠牲など出したくない。しかし、守らねばならぬ志もある」
「志…?そんなことのために人を殺すの?」
「おい、口を慎め」
「おっちゃんが殺されたのだって、あんたらがやってる戦争のせいだろ?それがなかったら、おっちゃんは今だって元気にしてたはずだ!」
おっちゃん、と口にしただけで、涙が溢れる。僕にとっては、本当の親みたいな存在だった。
「僕の家族を返せよ!戦争を正当化して、ただ殺し合いを楽しんでるだけじゃないのか?この…人殺し!」
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