第六話 知った瞳を持つ少将
(お前も戦争に参加するんだ)
「なんで?僕子どもだし、戦えないよ」
「は?お前15だろ?俺も同じくらいの歳で戦争に参加したぜ」
「喧嘩強くもないし…」
「これから訓練すればいい」
「怖いし、いやだよ」
「恐怖は乗り越えられる」
「なんで僕なの?孤児だから!?」
「…はぁ、面倒くせえな」
「え、わ、ちょっと!」
突然の浮遊感。気がつけばモナネルは、クロテツに片腕で担ぎ上げられていた。
そのままスタスタと部屋を出ると、大股で歩き始めるクロテツ。
「おろして!誰か、助けて!」
「なんつー女々しい反応だよ…。いいか、今から会う方は、お前みてぇなクソガキが拝める方じゃねぇ。行儀よくしろよ。さもないと」
俺がお前を殺す。
バタバタと暴れていたモナネルが、その言葉を聞いて瞬時に固まる。背中がツーっと寒くなるのが分かった。これが殺気というものだろうか。
(殺される…?そんな恐ろしい相手に、今から会うの…?)
延々と続く、暗くて長い廊下。
担がれていて前は見えないけれど、この広くて硬い背中からは逃れる術はなかった。
「ルカさん、連れてきました」
「…入れ」
部屋の中から聞こえるのは、落ち着いた男の声。
ギィ…と音を立てて広がる扉は、先ほど自分がいた部屋よりも遥かに大きいのだろう。見える景色が広くなっていく。それにつれて、どくん、どくんと、鼓動が早くなる。
(どうしよう、どうしよう)
殺されてしまうかもしれない。そう考えるだけで体はびくびくと震え、手足が冷たくなっていく。モナネルはもはや目を瞑り、クロテツの体にギュッと抱きついていた。
「お前…っ」
「離さない離さない離さない!」
「大人しくしろって!す、すみませんルカさん」
「…いい。顔を見せてくれ」
クロテツは、ルカに背を向けてモナネルの顔が見えるよう移動する。
薄暗い照明に照らされたモナネルと、ルカの目があった。
「久しいな、モナネル」
「え…?」
「寄れ」
薄暗さでよくわからないけど、男はとても若かった。
30代…?いや、20代後半か。もしかしたらもっと…。
腰まである長い髪。クロテツと同じコートを身に纏っている。
この人には従わないといけない。
そんな空気に包まれて抵抗をやめた。するとクロテツに落とされるように肩から下される。
震える足で男に近寄れば、僕より遥かに背が高い男の、深いブルーの瞳と視線が交わった。
(この瞳、どこかで…)
「俺はルカ・アルベルティ。階級は少将だ。お前の名を教えてくれ」
「僕は…モナネル・バークレー、です」
差し出された手を恐る恐る握り返す。
その手は大きくて、細くて、冷たかった。
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