第五話 カボチャのポタージュ
「……ん……」
どれくらい時間が経ったのだろう。むくりと起き上がれば、いくらかスッキリした頭。そして先ほどと同じソファとガラスの窓が目に入った。しかし、先ほどと違って部屋全体が暗い。
「お目覚めですか」
「!」
「何も口にしていないのでしょう。お食事はいかがですか?」
「…僕は、どのくらい寝てたの?」
「12時間くらいです」
「12時間…」
あかりをつけますね、と言われて、うんとも言わないままパチリと照明が灯る。
ぶわっと眩しい光に目を細めれば、ベッドのそばに近寄ってきたおばあさんがニッコリ笑った。
「お腹は空いてますか?」
「…」
「まずは食事をなさい。悩むのはそれからでいい」
「…うん」
差し出されたのは、温かいカボチャのポタージュと硬いパン。匂いにつられて流し込むように頬張れば、なぜか涙が溢れてきた。
「…うまい」
「それはよかった」
「うまい、うまいよ」
「泣くか食べるか、どっちかにしなさいな」
泣きながら食べる僕を見て、おばあさんは呆れたように笑う。
スープの底が見えてきた頃には、僕の気持ちも落ち着いていた。
すると、コツコツと靴の音が聞こえてくる。
僕とおばあさんは同時に部屋の入り口に目を向けた。
「なんだ、平気そうじゃねえか」
「クロテツ様」
「ルカさんに言われたからこの俺が見にきてやったのに、ばあちゃんに丸め込まれたのかよ」
男は、さすがガキだなと不敵に笑うと、着ていたコートの首元を緩めてソファに腰掛けた。
「クロテツ様、私は外しますので、ごゆっくり」
「おう」
「あ…ご馳走様でした」
「ふふ、偉いわね」
空になった食器を持って下がるおばあさん。
この人も使用人なのかな?昼に見た人とは、多分違う人だと思うけど。
「お前、名前は?」
「…」
「なんだよ。取ってくうわけじゃねぇから」
「…モナネル・バークレー。あなたは?」
「俺はクロテツ。名字はねえよ。階級は少尉だ。少尉殿と呼べ」
「クロテツ」
「ああ?てめー殴られてえのか?」
「クロテツ、僕はどうしてここにいるの?」
「少尉殿って呼べ」
「クロテツ」
「少尉殿」
「クロテツ」
「こんのクソガキ…」
怒ると分かっててわざとやってるのか、子どもだからか。
これ以上言っても無駄だと察したクロテツは、大きくため息をついて口を開いた。
「モナネル、先に言っとくがお前に拒否権はねぇ」
「え?」
「15年前から戦争をしていることは聞いてるだろう」
「うん」
「ここは、空軍兵士が集う宮殿だ。お前も兵士の一人として明日から民のために働くことになった」
「うん…え?」
「お前も戦争に参加するんだ」
「!?」
.