第四話 青い髪と大佐の記憶
「しんだ…え、おっちゃんが…?」
「おいクロテツ」
「事実なんだから隠したって無駄だろ?」
「ハァ…」
「残念だったな、クソガキ。あそこの旦那は死んだってよ」
おっちゃんが死んだ、おっちゃんが死んだ?
そう小さく呟く少年は、大きい瞳をさらに大きくして、人目を憚らず泣き喚いて、またプツリと意識を飛ばした。ベッドから落ちそうになる瞬間、そばにいたクロテツがその小さな体を支えて静かにベッドに寝かせた。クロテツの顔は驚きを超えて呆れている。
「身内が1人死ぬくらいで、どうしてこんなになっちまうんだ?」
「それは、こいつが子どもだからだろう」
「俺がこのくらいの時はもっと平気だった」
「育った環境が違うんだ。一般人とお前を比べるな、クロテツ」
どこか冷めた目で少年を見つめるクロテツ。少年に触れようと片手を伸ばして、その体には触れずに、踵を返した。
「どこへいく」
「あの力を持ってるって聞いたから覗きに来たけどよ、期待外れだったぜ。俺は先に戻る」
あとは任せた。
そう残して部屋を後にしたクロテツに、お前もまだまだ子どもだなと含み笑いを浮かべる。
(どれ…)
腰を上げてベッドに近寄れば、目元を濡らして眠る少年の姿。
鮮やかな青い髪に、どこぞの民族を思い浮かべる模様が刻まれた頬の刺青。
白い作業着を着ているのだろうか?少年の胸元にはペンキ屋の名前だと思われる文字が編み込まれていた。
(見れば見るほどに、懐かしい青髪だ)
遥か昔、この国を支えていた偉大なあの方と同じ、青い髪。
まさかと期待する一方で、あの方は生涯孤独だったことを思い出す。
「ウィング大佐殿」
「どうした」
「アルベルティ少将殿より伝言を仰せつかりました。日暮れより上位会合を開かれるとのことです」
「承知した」
小一時間で開かれる会合。いわずもがな、この少年が議題に上がるのだろう。
(この国を救う未来か否か、)
大佐はモナネルの青い髪をそっと撫でて、笑みを浮かべた。
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