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第三話 宮殿


「いいか。ペンキはたっぷりつければいいってもんじゃない。程よい量をハケにとって、一定のリズムでムラができないように塗るのが基本だ」

「それが難しいんだよ〜」

「練習しないからだろ?練習すれば上手くなる」

「本当に?僕もおっちゃんみたいなペンキ屋になれる?」

「当たり前だろ、お前は俺の子だからな」


(お前は俺の子だからな)


おっちゃんの恥ずかしそうな、照れたような顔が頭をかすめる。

本当の家族じゃないことは分かっていたけれど、本物の愛情を与えてくれた。僕はそんなおっちゃんが大好きだった。


(ここは、どこだ…?)


温かくも冷たくもない空間。動かない四肢は重くて、まぶたでさえも開けることができない。

どこからか男たちの話し声が聞こえてくるが、内容までは入ってこない。心地よくて、夢にいるような感覚だ。不思議と警戒心は生まれなくて、むしろどこか遠い昔に同じ経験をしたような、そんな気がしたんだ。


「おい」


男の1人が僕を呼ぶ。その声は冷徹で、どこか暴力的で。


(どうせ夢なら、優しい姉ちゃんがいいのに)


そう。どうせ夢なら・・・。ニヤリと笑みを浮かべた瞬間、強烈な音と痛覚が僕を襲った。


「!?!?!?」

「悪かったなァ、優しい姉ちゃんじゃなくてよォ」


「クロテツ、暴力はやめるんだ」

「このクソガキが起きねーから起こしてやったんだろう?」

「もっと優しくしろってんだ。そんなんだから女の1人もできねーんだ」

「こいつは女じゃねぇだろ!」

「子どもは女と一緒だ。子どもにも優しくするんだクロテツ」


え?なに?いま、頭を叩かれたの?

ぐわんぐわん回る目が、段々と正常に戻っていく。


(模様…)


意識が戻った僕の目に最初に入ったのは、うす茶色の模様。

これ、どこかで見たことがあるような…


「っ…」

「おい、無理矢理起きるな。手を貸してやれクロテツ」

「なんで俺が!」

「ルカに言いつけるぞ」

「クソガキ、立てるか?手貸したろか?」

「(単純だな)」


クロテツと呼ばれた長身の若い男が、モナネルの右腕と背中を支える。


「ここは…」


起き上がったことで目に飛び込んできたのは、壮大な景色だった。

180度ガラス張りの丸い部屋。その先には、延々と広がる空と雲と、遠くに小さく見える街並みしか見えない。


「ここは、空界に君臨する最高司令官の居住地であり、我ら空軍兵士が集う宮殿でもある」

「宮殿…?」

「まずは水を飲め。喉が渇いただろう」

「…」


(宮殿?なんでそんなところに僕が?そもそも宮殿ってどこにあるんだ?)


次々と浮かぶ疑問に、頭が付いていかない。

渡された水は、透き通っていて濁りがなかった。


恐る恐るあたりを見渡すと、入り口付近には使用人と思われる女性が1人控えていて、大きすぎるベッドの真横にはクロテツが。そして少し離れたソファには、おっちゃんくらいの大人の男が腰掛けていた。2人とも、意識をなくす直前に出会った、あの兵士と同じ服装をしていた。


(っ青いの!逃げろ!)

(え…?)


必死の形相で、逃げろと言ったあの兵士。

次の瞬間には、甲高い悲鳴と爆音が鳴り響いて、僕の意識が途切れたんだ。

そうだ、あの時、確かミサイルが…


「っ!ペンキ屋…おっちゃんは!?無事なのか!?」

「ペンキ屋?ああ、あの襲撃にあった店か」

「おっちゃんが…僕の親がそこにいるんだ!そこに帰してくれよ!」

「帰すも何も…」


クロテツはモナネルの視線を浴びながら、罰が悪そうに口を開いた。

そんな顔をするくらいなら、真実を言わないでくれればよかったのに。


「あそこの旦那、死んだって聞いたけど」




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