第二話 襲撃
(なんだこいつらは)
打てども打てども屈しない山軍の兵士に頭を抱えるのは、空軍の若い兵士。
自分が手にしているのは小型の銃で、空中戦には不向きだ。圧倒的に戦力が不足している。
(襲撃に遭うとは思っても見なかった…"戦争は両者承諾のもと"じゃねえのかよ!)
「こちらフェルセン、フェルセン!空と山の国境、R-155地点で山軍からの襲撃が認められた!至急応援を求める!」
<了解、耐えろ>
耐えろ、とだけ残し虚しく切れた無線。フェルセンは苦虫を噛み潰したようなカオで銃を握り直した。
(すでに耐えてるっつーの!)
自分が乗る見廻り用の小さな戦闘機に対し、相手は大型戦闘機。
挑発するように声をかけてくる山軍の兵士は2名で、どちらも俺より些か幼い印象を受けた。
「空軍は1人で見廻りするのか〜!?そんな小さい戦闘機でよく俺たち山軍の領域に入れたもんだ!」
「3国で戦力下位!兵士の数が足りてないって噂は本当みたいね〜?」
馬鹿にするように笑う2人に、自然ときつく握る拳。
その間もミサイルのようにデカい弾が自分を追いかけてきていた。
(ハァ、ハァ、畜生…応援はいつくるんだ!)
はらりとかわして、いなす度に削られる体力。それでも、地上にいる民間人を守るために引くわけには行かなかった。
「しぶといやつだな。ならこれでどうだ…!」
「!!」
男の兵士がニヤリと笑って銃を真下へむける。その先にあるのは、小さなペイントハウスだ。
「お前!民間人に銃を向けるな!戦争違反だぞ!」
「指図すんじゃねえ!てめえが守ればいい話だろうが!」
ドン、という鈍い音と共に鉄の塊が飛んでいく。
本当に撃ちやがった、クソ野郎…!
小型機をひるがえしてハイスピードで地上へ迫る。しかし、
(くそ、間に合わない!)
ペイントハウスに直撃するまで、あと5秒。
その瞬間、運悪く、住民が顔をのぞかせた。
青い頭の少年が…。
「っ青いの!逃げろ!」
「え…?」
少年がポカンとした顔で空を見上げた。その青い瞳と目があった瞬間、爆音が鳴り響いた。
あたりが煙に包まれ、どこからか女の甲高い叫び声が聞こえてくる。
(やっちまった…)
追撃を気にして振り返るも、青空が広がるだけ。山軍の兵士らは、早々に切り上げたようだ。
もくもくと立ち込める煙が徐々にあけていく。ペイントハウスだった建物は瓦礫と化し、奥の方では瓦礫に埋もれる男の姿が目視できた。
(青い坊主は…)
あのミサイルのようなデカい弾が直撃したのなら、小さい少年の体は、四方八方に分裂したのかもしれない。無慈悲な考えに嫌気がさして、足元の瓦礫を蹴飛ばした。すると見える、白い肌。
「…これは、」
「フェルセン」
「!ルカ様」
音も立てずに現れた、よく知った声に振り返る。顔の半分を仮面で隠し、美しく長い黒髪は後ろで1つに結われている。白いロングコートには、空軍上位の証であるいくつものバッジが。よく見れば、上空には複数の空軍戦闘機が配備されているではないか。
「ルカ様、」
「みなまで言うな。俺はこれから山軍へ向かう」
「申し訳ありません、1人で対応もできず、民間人を巻き込んでしまいました」
「この子どもは?」
「この家の子かと…」
「…」
ルカと呼ばれた男は、フェルセンが蹴飛ばした瓦礫の下に埋もれていた少年を見つめる。
青い髪に、赤い頬の模様。瞳は、閉じられている。
「…まさか、あの力でしょうか」
「…」
「あの爆撃で傷ひとつ付いていないなんて、あり得ません」
建物は全壊。しかし、この少年は失神してはいるものの、無傷だった。
ルカと呼ばれた男は、少年の体をそっと起こして、その広い胸に閉じ込めた。
「見つけた」
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