8 最後の攻略対象は誰?
この学園は全寮制で、一人につき一部屋が与えられている。
「改めて見ると、広すぎますねこの部屋…!馬房の5倍くらいあります!」
『貴族が通う学園だからな。ちなみに、サラを引き取ったのは侯爵家なのでもっとすごいぞ』
サラがこの世界で目覚めたときには、すでに学園の寮にいた。自分を引き取ってくれたらしい侯爵の顔は知らない。
それどころか、つい最近亡くなったばかりという設定であるらしい両親の顔も知らないのである。
もっと言うと、サラには爵位が分からない。侯爵家と言われても、どのくらいの地位なのか全く分からなかった。
「爵位って要は、G1、G2、G3…みたいな感じですか?王はG1、公爵はG2、侯爵はG3みたいな…」
『なんか違う気もするけど…まあいいや、それで』
G3一族と思えば、確かにすごい。いや、G3一族って自分で言いながらよく分からないけれど。
「侯爵との”イベント”もあるんですか?」
『いや、ない。侯爵はサラの父の弟だからな』
「まあ確かに血が濃すぎる気はしますね…でも、それほど問題はないのでは?ダビサイでは”危険な配合”ではないですよね」
競馬ゲーム・ダビサイにおける”危険な配合”とは、血量50%以上の組み合わせのことを言う。血量50%というのは、親のうちのどちらかが同じであった場合が該当する。
つまり、ゲームの世界においてサラブレッドの交配は兄弟や親子でない限り”危険な配合”ではないのだ。
これには現実のサラブレッドの血統観がかかわっている。
サラブレッドには近親交配の馬が多い。三代前の祖先と四代前の祖先が同じであった場合、それは「奇跡の血量」と呼ばれる素晴らしい配合ということになる。
つまり、サラブレッドの世界では近親交配が推奨されているような状態なのだ。とはいえさすがに侯爵とサラの関係では血が濃すぎてリスクが高い。
『サラブレッド的にはセーフでも人間的には結構アウトなのよ…叔父姪はなんていうか…特殊性癖に近くなっちゃうかな』
「ほほう…人間って難しいですね」
『代わりに、侯爵の養子とのイベントがあるから安心してくれ』
侯爵には養子がいるらしい。ということは、私とは義理の兄弟ということになるのかな?
サラは義理の兄弟という概念を知らなかった。それでも頭の中にすっとその言葉が浮かんできたので、やはり神様パワーはすごい。
「義理の兄とのイベントですか?」
『いや、弟だ。名前は…出会ってから説明しよう』
弟キャラの八代スタリオンステーションの種牡馬なんていたかな…と、サラは思いを巡らせる。まあ、正直別に誰でもいいのだけれど。
「寮で暮らしてるということはしばらく会う機会ありませんよね?」
『いや、ヤンデレ系のシスコン弟なので学園に乗り込んでくる』
ヤンデレもシスコンも初めて聞く言葉だ。神様パワーで大体の言葉の意味は分かるけれど、概念そのものが意味不明な場合はすんなりと理解することができない。
「ヤンデレもシスコンもあまりよく理解できていませんが、乗り込んでくるということはなかなか骨のありそうな牡馬…じゃなくて男子ですね。常に勝利を目指す必要がある競走馬の父としてはアリかもしれません!」
『ヤンデレのシスコン弟に骨があるかどうかは分からないけど…ま、とりあえず明日もまた”イベント”があるからゆっくり休むといい。ちなみに、初日に気になった男はいたか?』
神様の言葉に、サラはベッドにごろんと横たわってから考える。
「うーん…確かにみんな素晴らしい種牡馬なんですけど、何かが足りないんですよね」
特にプロフォーンド王子はとてもいい筋肉を持っていた。彼との子はきっと強くなるだろう。
それなのに、どうしてだろう。足りないものなんてないはずなのに。
―「君にピッタリのお婿さんが見つかった。君を名馬の母にしてくれるはずだ」―
誰かの言葉が頭に響く。
彼が選んでくれたらいいのに。彼の言うことならば、全て信じられる。
胸が痛くなったのは、思い出せないせいだろうか。それとも、彼自身が私の相手になることが絶対にないと分かっているからだろうか。
静かに目を閉じたサラは、そのまま深い眠りに落ちたのであった。




