5 種付け料、おいくらですか?!
「やあ、アフィシャージュ。おはよう」
王子がそう言うと、周りの女子たちが息をのんだ。アフィシャージュは挨拶をされただけなのに顔を真っ赤に染めてうつむいている。
サラはというと、王子の身体のバランスを細かに分析していた。
「胴と手足のバランスが良いですね…服が邪魔でよく見えませんが、コンパクトな身体にしっかりと筋肉がついていると見受けられます。パワー系というよりはしなやかな肉質で、走るにあたって前に進む力をしっかり出せそうです」
『みんな聞いてるからちょっと黙って!』
神様に言われてはっとする。沈黙の中、サラがぶつぶつとつぶやく声が響いていたようだ。
逆に今ならプロフォーンド様に話しかけることができる。
「プロフォーンド殿下…!ずばり!種付け料は、一体おいくらですか?!」
『わーーーーーーーーっ!やめて!黙って!!!』
神様が何やらわめいているが、もう遅い。周りにいた人々はぽかんとした顔でサラを見る。
プロフォーンド王子も大きな瞳をぱちくりさせていた。その隣では、黄色いカチューシャのアフィシャージュが先ほどとは違う意味で顔を真っ赤にしている。
「あなた…!不敬、不敬すぎますわ…!」
わなわなと唇を震わせ、吊り上がった目をさらに吊り上げてアフィシャージュは言う。
サラはなぜ自分が怒られているのか全く分からなかった。あ、「しばく」ってこういうことなのかな?
『違う!今回のは違う!まっとうな怒りだ!!』
「え…?どうして?交配相手の種付け料を聞くのは当然でしょう?予算の問題もありますし…」
『交配とか言わないで!今は!』
サラには何も分からない。人間の常識など、一切持ち合わせていないのだ。
『あわわわ…いくら私が作ったデタラメ乙女ゲーム風の世界とはいえ、一応彼らは人間としての倫理観を持ってる生き物なのだよ…』
それのどこが問題なのか、サラには分からない。
『王子…大丈夫かなあ。神様パワーでヒロインに絶対に惚れるからなんとかなるとは思うけど…』
神様は何やらぶつぶつとつぶやいている。
「あなた、この学園には相応しくないのではなくて…?!社交界でもお見掛けしたことがありませんし」
「あ、私、平民出身らしいので…」
「へ、平民…?!」
アフィシャージュの言葉に答えると、彼女はサラの言葉を聞き今度は顔を真っ青にした。周りにいた女子生徒が、倒れかけたその体を支える。
「ありえませんわ…どうしてこのような者がこの学園に…」
「アフィシャージュをこちらに」
プロフォーンド王子は、ぐったりしているアフィシャージュの身体を軽々と抱き上げた。
「や、やはり素晴らしい筋肉…体幹がぶれない!さすが名馬…さすが三冠馬…!」
『いまそういうこと言っていい場面じゃないの分かるでしょ?!』
またもや意味不明なつぶやきをしたサラに、王子は優しく声をかける。
「君、面白いね。また会おう。今度はゆっくり話をしようじゃないか」
予想していなかった王子の言葉に、誰一人として身動きをとることができずにいた。
アフィシャージュは心理的なキャパを大幅に超え、意識を失っている。
「その時に種付け料のお話しもしてくださるということですね…?!」
「さあ、それはどうだろう」
王子はそう言って笑って、颯爽と保健室に向かって去っていった。