到着と作戦
森が開けた中にある村。
畑や家が立ち並ぶ姿を想像していたが、そこには村と呼べる村はなかった。
冷静に考えればそれもそのはず、なんせ魔物によって攻撃を受けているから僕らはやってきたわけなのだから。
デイルが森の様子を見ただけでそろそろ着くという判断ができた理由が分かった。
無理が開けた場所に村があったのではない。
魔物がやったと思われる更地の一部が村だったのだ。
家があったであろう残骸、畑があったであろう跡、すべてが焼けた後のようだった。
魔物は炎を使うのかと安易に考えた。
「生き残っている人たちはいないのかな?」
村の様子を見て、僕と同じく愕然としているデイルに近づきながら僕は聞いた。
「こういうときは、騎士基地に避難するはずだからそこに向かえば、いると思うわ」
デイルもかなり、ショックを受けているようだった。
この世界でもこの村の様子は尋常ではないようだ。
馬車と一部の騎士を置いて、デイル、ルア、僕と数人の騎士で騎士基地と呼ばれる場所。正確には騎士基地があるであろう場所に向かった。
一か所だけ建物の形を保った場所があった。
それが騎士基地とわかるまでそう時間はかからなかった。
教会を思わせるような建物。
その周りだけ明らかにダメージが少ないのがわかる。結界に守られていたような感じだ。
「結界がまだ、かかっているわ」
騎士基地に近づいていく途中で戦闘の騎士、デイルが立ち止まり言った。
「まだ、生きているようね。話を聞けるみたいで安心したわ。それにしても、すでに魔物はいないみたいなのに、まだ結界を張り続けたり、立て籠ってたり、元アース国の村人はビビり屋さんなのね」
僕とデイルの後ろから、ルアのそんな無神経かつ挑発的な発言に、デイルの目が曇った。
その目には悔しさと悲しさ、なによりそんな場合じゃないだろうという怒りを感じられた。
ルアはそんなのをお構いなしに結界と思われる場所まで近づき、左手を突き出した。
「解!」
その一言で結界らしきものが解放された。
初めて魔法とよばれるものを目にした。
話では何度もでてきたけど、目の前で見るのは初めてだった。
本当にあるんだ。不謹慎だが僕は感心した。
ってか結界事態を僕が見えていたことにもびっくり。
いや、ちょっと待てよ。
デイルの回復魔法ってのをしてもらったのを忘れていた。
だからこの結界を解いたのは初ではなく正確には二度目の魔法体験だった。
ま、厳密にそんなこと気にする必要はないけど。物事きっちり報告しないとね。
ルアとマイーズ国の騎士団を先頭に騎士基地に向かう。僕とデイルもそれに続いた。
「デイルも結界とか突破できるの?」
「今の結界は、騎士が作った攻撃を守るものだから、魔法の術式を知っている人なら簡単に外せるものよ。もちろん私も知っている術式だったわ」
「へー、術式ってもんがあるのかー」
デイルにも僕の声は聞こえたはずだが、今魔法や術式について聞いても教えてくれるつもりはないらしい。
それもそうか。今は村人の無事を確認することが大事だ。
マイーズ国の騎士の一人が騎士基地の扉を叩いた。
「マイーズ国の者です。助太刀にまいりました」
しばらくの沈黙ののち、ゆっくりと大きな扉が開いた。
中からぼろぼろの鎧をきた騎士らしき人物がおそるおそる出てきた。常駐騎士は全滅したと思っていたが、そうでもないみたいだ。
「現状報告をしてもらえるか?」
「あ、ああああああああああああああ」
出てきたぼろぼろな騎士が急に泣き叫びだした。
いい大人の男の本気泣き。驚きとともに若干引いてしまう僕。
ただこれはどこかただの悲しくて泣いているというより、なにかにおびえ恐ろしさに対してようやく、安心できた時のような泣き叫びに感じた。
「落ち着け、大丈夫だ。援軍が来た。落ち着いて現状を報告せよ」
「おん、おんんんん」
パニックている人に対して落ち着けって言ったところで暖簾に腕押し、余計泣き叫ぶ。
「この人は置いといて、他の騎士はいないの?」
見限りが早いのか、判断が早いのかルアがそう言って、騎士に中に入るよう指示を出した。
「誰かいないのかー!」
騎士の一人が呼び掛けた。
僕とデイルもその騎士に続いて中に入ることにした。
中は本当に教会という形をしていた。思ったよりもきれいだった。
一見、人がいないようだったが、そうではなく椅子の陰に相当に人数の人が隠れていた。
どうやら先程の騎士の他には騎士はいないようだ。
「そこの者、他の騎士はどうしたのだ?」
騎士の一人が近くに隠れていた女の人に話しかけた。
女の人はおびえた様子で、何かを言おうとするも声が出ない様子だった。
「大丈夫よ、魔物はもう近くにはいないわ。私たちはあなたたちを助けに来たの。安心して、とりあえず深呼吸してゆっくりでいいから話して」
デイルがおびえていた女の人に優しく微笑みながら元気づけた。
さすがデイル。
ゆっくり深呼吸する内に女の人は落ち着きを取り戻しつつあった。
デイルの声は優しく本当に安心するし、なにより敵意の一切ない言葉、そりゃぁ、話しやすい空気を生み出せる。王女としても褒められるものだろう。
まっ僕が言ったところでの話だけど。
「ま、まものが突然現れて、ほのおを使って、騎士様も戦ってくださったのですが、私たちもなんとか非難はできたんですが、まものはあの一人の騎士を残してすべてをなぎはらったんです・・・」
おおむねは想像していた通りだった。デイルも同じ感想を持ったに違いない。
だが、一か所だけ気になった。
そう、騎士が全滅したという点。
村の様子は散々だったから想定できることだが、それでもあの一人の騎士を残して全滅なんて、そこまでの強さをもった魔物なのか・・・?
「デイル、ここの騎士って何人いたんだ?」
「少なくとも20、いや、マイーズ国からも派遣されているはずだから30はいたはずよ」
デイルも騎士全滅に関しては驚きがあるようだ。
30はいたであろう騎士が全滅ってよっぽどのことなんだな。
もしかしてそんなとんでもないのとこれから戦うの?
いやいや、そんなやつにかなうわけなくね?
「デイル、どうするんだ?」
「もちろん、魔物は倒しに行かなきゃいけない。今はどこかでおとなしくしているんだろうけど、とりあえずはこの人たちの治療しなきゃ」
デイルの話によると、倒しに行くって!・・・マジ?
「いい加減にしなさいよ!」
ルアの怒りがこもった声と何かをたたいた乾いた大きな音がした。
大きな音がした方に向かう。
ドアから出たすぐ隣がその場所だった。
倒れているのは先ほど泣き叫びながら出てきた唯一の生き残りの騎士、そばにはルアの側近の騎士ユーリ、ルアが立っていた。
「騎士が泣くなどなにごとよ!いい加減、現状報告しなさい」
ルアはデイルとは違い明らかに気性は荒く、短期ではっきり物事を言うタイプなのだろう。
殴ったのはさすがにユーリなのかな?そう信じたい。
「う、ううう」
殴ったのはユーリじゃないみたいだ。ルアが鬼の形相で胸倉をつかんみかかった。
そしてもう一発グーパンチを食らわせた。
女の子のグーパンチを初めて見た。えぐい、えぐすぎる。
ユーリはまた殴ろうとするルアを止めようとしていた。普通逆だろ・・・
「ルア、もういいだろう。殴っては話ができない」
「ふん、早くしてちょうだい」
ルアが生き残りの騎士から離れた。ユーリがしゃがみ生き残った騎士に話しかけた。
「二つ質問をする。それに答えるだけでいい。一、魔物の特徴。二、他の騎士たちの状態だ。それだけ根性で答えろ。騎士だろ」
「ああ、はあ、はぁ、ふぅ、・・・、ま、まものは、ほのおをつかい、ま、す。。が、何より、ちからが強大で、、騎士長も一切相手にならず、、私は、私は、・・・わ・・・たしは、皆をおいて結界をはりました・・・う、う、う」
なんとか質問には答えた形で生き残りの騎士は泣き崩れた。
ユーリも情報を得られたので、これ以上のことは求めず、ほっとくことにしたようだ。
「ルア、騎士は全滅した。魔物は炎属性だが、肉体型らしい。」
「聞こえてたわよ。お兄様は甘いわ、騎士たるもの隊の全滅程度でうろたえるなんて、ありえない。騎士学校からやり直すべきだわ。これだから元アース国の騎士は嫌なのよ。マイーズ国でこんなことになったら即刻断首よ。ま、今は私の国の騎士だからそれ相応の罰を彼には与えるけど」
ルアは血も涙もない王様らしい。って王様はそのくらいでちょうどいいのかもしれない。
騎士団が全滅したのを目の前にしていた騎士に対してまだ罰を与えるなんて正気とは思えない。
他人なんてどうでもいいと考えている僕ですら、さすがにそれはかわいそうだって思う。
しかも、騎士に対するハードルもかなり高い、
まったくマイーズ国はどんだけ騎士という生き物に厳しいのか。アース国の騎士はそこまでを求められないから、本当によかった。
とりあえず、魔跡がなにかわからんし、ルアも怖いし、僕はデイルのところに戻ることにした。
騎士基地に戻るとデイルが必死に生き残っていた者たちの治療をしているのが目に入ってきた。
アース国の騎士たちも治療の手伝いをしているようだ。
僕は何をすればいいのかわからず、ドアの横で立っていることしかできない。
マイーズ騎士団は外でなにやら調査をしているし、僕だけ全く仕事をしてない感が否めない。
ま、実際に仕事をしていないのだけれど。
半日ほど経って、ようやく状況が落ち着いてきた。
結局僕はなにをするでもなく、突っ立ってデイルのがんばる横顔を眺めているだけで終わった。
デイルとアース国の騎士団の献身により、騎士基地にいた村人たち全員の治療を行うことができた。
生き残った騎士についてもデイルはルアの反対を押し切って治療した。
デイルやっさしい!
マイーズ国は、どうやら魔跡を追うことができたらしい。
デイルに聞いた話によると、魔跡とは、魔法を使うことで発せられる魔力の残りのことで、それを追うことで魔物の居場所を特定することができるそうだ。
マイーズ国はいつでも討伐にいける準備をしていたのだ。
マイーズ国ってのは好戦的な国らしい。討伐を今にでも行きそうな勢いだ。
魔物が騎士団全滅させたほどの実力というのを忘れているのではないか。
今はもう、討伐の作戦会議をしている。
作戦なんかでどうにかなるかとは思えないが。
絶賛、僕もその会議に参加させられそうな勢いなのだが、なんとかデイルのサポートという体で参加を拒否している。
デイルの手が空いた今、いつ参加しなければならないかわからない状態だ。
「デイル、大丈夫なのか? 魔法での治療って結構疲れたりするのか?、・・・わからないけど」
「大丈夫よ。治癒にはかなりの魔力を消化するけど、このくらいならまだ半分以上魔力量も残っているから」
「そうなのか」
まだ元気そうなら、一安心だ。
「アース国の皆さまも作戦会議に参加していただけますか?」
僕とデイルが話している中に、マイーズ国の騎士がやってきた。
最悪だ。デイルももちろん参加するし僕も参加しなければならない。
絶対作戦、討伐に僕も参加しなければならないだろう。
「この討伐戦僕には荷が重すぎると思うんだけど、何とかならないかな」
「十選の騎士がいるんなら大丈夫ってマイーズ国も判断しているに違いないわ。十選の騎士ってのはこのくらいのこと一人でも解決できる力を持っているから。でも、今は・・・、これを言うわけには行かないから、なんとか前線は避けるようにサポートに回れるようには動いてみるわ。でも、不参加はさすがにできないと思うの。だから、トリス、お願い。なんとかしてほしい」
無茶な!?
というかほぼ僕に丸投げじゃないか。
なんとかしてほしいって。完全に逃げ道をふさがれてるじゃないか。
「やっぱり、難しいよね。ひどすぎるよね。・・・」
デイルが落ち込んでいる、悲しんでいる。上目遣いをやめてくれ。
その顔で見られて断れる男は絶対にいないだろう。いるならそいつを殴り倒してやる。
「なんとかやってみるよ」
「ほんと!、ありがとう。でも、絶対に死なないでね」
おい、めっちゃフラグ。
戦い前に絶対とか使っちゃだめ。
結婚の約束じゃないだけましだけどそれでも、いかにも死ぬ前にするやりとりじゃないか。
「うん、なんとか頑張るよ」
僕は本当に馬鹿だ。
デイルの頼みごとを断れないなんて、確実に自分の首をさらに絞めている。
「つまり、アース国はサポートに回りたいと?」
「ええ、そうよ、トリス一人でも十分なのは皆さんもわかっていると思うけど、それでは合同討伐にはならない、あくまでマイーズ国が倒せなかったときにトリスが出るというのが一番平等で、確実ではないかしら?」
作戦会議で、デイルがうまいことアース国がサポートに回れるように頑張ってくれている。
挑発気味なのがちょっとドキドキしているものの、なんとかなりそうか?
「それでは、さすがにアース国がなにもしてないことに・・・」
ユーリがデイルに意見を入れようとするのをルアが制した。
「ふ、それでいいわ。けど、私たちが魔物を倒したらその成果はすべて私たちのものにするってことでいいのよね?」
「ええ、アース国が手を出さないのであれば倒した成果はアース国はいらないわ」
成果なんかよりデイルは魔物を倒すことに重きを置いているのだから、そう回答するだろう。
もちろん、僕が全力ではないのもうまくサポートしての発言。考えられたアイデア。完璧すぎるよデイルさん!
ルアも納得している様子だし。
しかしユーリは違っていた。
「アース国ならば、余裕というのは信じられませんな。十選の騎士といえど、本当にそこまでの力をこのトリスが持っているとは思えません」
完全に僕に敵意むき出し。
初めて会った時も挑発してきてたし、僕も敵意で挑発で返したから余計関係は悪化しているのだけれど。
それにしても、ユーリはすごい僕をにらみつけてくる。
デイルに聞いた話だが、アース国から選ばれた十選の騎士のトリスにシンプルに嫉妬しているらしい。
実力ではかなりの開きがあるのだが、ユーリ自体にはその自覚がないのだ。「実力を自覚できないほど弱い」って、当時のトリスは言っていたらしい。
だからこそ、僕は
「はっきり言おう。俺なら一人で十秒もかからん。だがそれではお前らが頑張る機会がないだろう? これはむしろお前らのための提案なんだぞ? 弱い魔物をくれてやるっていってんだから」
火に油を注ぐ行為をあえてする。
トリスだったらこうするに違いないだろうし。こう言うことでよりサポートに回りやすくなるだろう。
相手を怒らせることでじゃあやってやるよ!みたいになるはずだ。
「は! 生意気すぎんだよ。アース国程度が、十選に選ばれたからってえらそうなんだよ」
デイルがユーリをにらむ。怒りが込められている。
珍しい。流石に行き過ぎた発言だったのがデイルの気に障ったのだろう。
ルアは笑っている。
「お兄様、熱くなりすぎです。提案を受けましょう。そして、私たちで倒して、その程度の魔物に逃げたアース国軍を笑ってやりましょうよ」
ルアは短気な割に冷静だったりもするようだ。
ちょっと挑発気味なのは相変わらずだが、まぁ提案を受け入れてくれるのであればそれでいい。
デイルも挑発に乗る様子はないようでこれで最終決定になりそうだ。
ルアの発言に気に食わない顔をしているものの、落ち着いた雰囲気をデイルは取り戻した。
一安心、マイーズ国が魔物を倒してくれるのなら万々歳。
今日はゆっくり眠れそうだ。
「では、明日、日の出前に作戦実行としましょう。みな、仮眠をとって再集合でいいですね」
おい、デイルそれじゃ、ゆっくり眠れない時間を設定するな。