表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死んではじまる物語  作者: 幸本勇作
8/18

討伐と危うさ

「わしがそこまで運んで、あとはぶん投げったってわけじゃ」

とりあえず、今日のところは解散し、明日再度集合、魔物の討伐戦が決まった。というか決められた。

僕はまったく議論に参加する隙間はなく、デイルとマイーズ国の王女ルアの間で決められた。


今は、デイルとセンバを含めたメンバーで夜ご飯兼ここまでのいきさつを話している。

センバの話によると、僕は山賊に殴られたあと気絶したらしい。


残っていた山賊はセンバが倒し、僕を城まで運んできて、最後に投げ飛ばしてなんとか間に合ったのだ。

感謝をするにはするが、シンプルに僕を投げた事への謝罪は欲しいところ。

普通、けが人を投げるか?


「なるほど、とにかく間に合ってよかった。修行の方はうまくいったのかしら?」

「んん、まぁあと一週間あったら、じいさんに一発入れるくらいにはなってただろうね」

「なぁにをいっておる。まだまだ、わしにも本来の力にも到底及びはせんわい。そんなこと百年早いわ」

百年後にはお前死んでるよ。

なんて不謹慎なことはさすがに言えない。というか言わない。

余計に殴られるのは嫌だから。


「ふふふ、なんだかうれしいわ。センバさんとトリスが仲良くやっていたみたいで」

「仲がいいわけない」

「仲なんかよくないわい」

似たようなこと同時に言う。

ちっ、心の中で舌打ちをする。

なんだかんだ良い関係なのは否定しない。

殴ってくるけど、俺の無礼を気にしない点が良い関係を作っているのだろう。

 

否定はできないが、肯定はしたくない関係、ってのが正解かもしれない。

こんなじいさんと仲良くなることなんて僕の目標なんかじゃないんだ。

僕が仲良くなりたいのはデイルただ一人。


「三週間だったけど修行としては成功といっていいのかな? さっきも完璧な対応だったし」

「まぁまぁ、って感じじゃの。騎士としてまだ未熟だが、とりあえずは大丈夫といったところじゃ」

「だそうです。」


「それならよかったわ。明日もなんとかなりそうね」

「その話なんだけどさ、魔物って一体何なんだ? 強さとか形とか」

「こやつ、本当に記憶喪失なんじゃな、態度ばっかりそのまんまのくせして。きれいさっぱり忘れておるのか」

センバが僕を馬鹿にしてくる。

しょうがねぇじゃねぇか、僕はこの世界の人間ではなく転生してきたんだ。

まぁこれを言ったところで分かってはもらえないのだが。


「そうね、魔物とかについてはまだ、話してなかったわね」

デイルはやっぱり、やさしい。

僕の疑問に嫌な顔一つせずにやさしく教えてくれる。

この爺さん早くどっか行ってくれないかな。

僕とデイルを二人っきりにしてあげるくらいの気をまわしてほしいものだ。


「魔物っていうのはね。一言で言うなら魔力を持った生物のことを言うわ。形も強さも様々よ。魔力の大きさで強さは表されるんだけど、形を説明するとなると、ちょっと待ってね。紙とペンがたしかここにあったはず」

デイルは説明をしながら、立ち上がり、引き出しから紙とペンを取り出してなにやら絵を描きだした。


「えっと、私が読んだことのある本だとこんなのや、こんなの、こんなのがあったと思うわ。センバさんは実際に見たこともあるんじゃないかしら?」

ドラゴンに似たようなもの、クマやトラ猛獣のようなのが魔物なのか、僕のイメージする魔獣とイコールと考えていいのかもしれない。


「わしは、姫さんが描いた魔物は全部討伐したことあるそい。強さは本当に魔物ごとの総魔力量によってまちまちじゃが、わしにかかれば、どうってことないじゃろな」

あっそ。


センバの爺さんが言うことは話半分で聞くことにしている。


「なんか、騎士何人分とかでわかったりしないの?」

僕は具体的にどのくらいの強さかを知りたいのだ。

戦闘力なんかがわかればうれしいけど。まぁ、戦闘力3と言われてももちろんピンとこないんだけど。

 

強ささえわかれば心の準備ができる。

数さえそろえれば勝てるかどうかも大事だ。

とにかく安全に楽して頑張るが僕の人生の目標だ。

まぁ忘れがちだが、僕は自殺を選んだような人間。

楽して生きることすらあきらめてさらなる楽を目指して死を選ぶほどなのだ! 

 

「うーん、どのくらいかぁ、センバさん、今までで苦戦とかしたときって、どのくらいの人数で戦ったの?」

「クマダイヤと戦った時が一番苦戦したかのぉ、あのときはアース騎士団百人くらいで挑んだかのぉ、まぁあんま覚えとらんな。なんせ、何十年も前の話じゃ、まぁ今回のようにマイーズ国と合同というのはわしのときはなかったなぁ」

うわぁ、参考になんねー、けど、とりあえず、マイーズ国が協力を求めるほどの相手ってことなのはわかった。


「じゃあ、率直にじいさん、今の僕でも大丈夫そう?」

「さぁのぉ、実際に魔力量でも測らんとなんとも言えないな。じゃが、マイーズ国と合同の必要があるってことは結構な魔物なんじゃろな。姫さん、魔力量とかの情報は言われとらんのか?」

「それが、詳しくはわからないって言われちゃって。でも、噂だと村の常駐騎士がやられてしまっているらしいから、魔力量は推定500はあると思うわ」

500・・・は高いのか低いのか、常駐騎士ってのも強いのか弱いのか、判断材料にはなりようもない。


「まぁ、どっちにしろ行くんじゃろ、聞いたところで戦うのは変わらんからの」

ぐうの音も出ない。

そうなんだけどさ、やっぱり気になるやん。

僕は強くないから怖いんだよ。

こんなこと言ったって、また殴られるのがオチ。

僕はその説明で納得することにした。

というかもう、この話にも飽きてきたし、疲れてきた。

なにより考えるだけで逃げ出したくなってしまう。

「そうね。今のトリスなら大丈夫よ。本当に今日の姿を見たら頼もしくなっちゃって。私うれしくて。センバさん、本当にありがとう。」

「まだまだ、じゃが、お姫さんにそう言われるならやったかいはあったかの」

 なんで、こんな爺さんのテレ顔なんて見なきゃいけないんだ。


 まったく、爺さんは僕を殴ってただけだというのに。


 それにしても、デイルの笑顔はやっぱり最高だ。




アース国とマイーズ国の国境は、センバが住んでいる山を越えた先にあった。

僕たちはアース国の馬車5台、マイーズ国馬車15台で移動している。


「わしはこの辺で降ろさせてもらうかのぉ」

 ボケっと外を見ながら、これから向かう魔物と呼ばれるものが大したことなくて、楽に終わることを願っていると唐突にセンバが言った。


「は? 爺さん行かないの?」


耳を疑った。

デイルも同じ表情。デイル、僕、センバは同じ馬車に乗っていた。

同じ空間に爺さんが入るだけでテンションが下がっていたところだったけど、センバが言い出したことに驚いた。


「わし、行くなんて言ったか?」

 いや、確かに言ってなかったけど、完全に行く流れだったじゃん。


ここまでの道のりでも、途中で降りる雰囲気なんて一ミリも出していなかったじゃないか。

デイルも驚いているようだったが、すぐに納得した様子で馬車の運転手に止まるよう指示を出した。


「センバさん、ありがとう。くれぐれも体に気を付けて」

「ほほほ、またこうして無事会えることを祈っておくよ。坊主も元気でな。また叩き直されたかったらいつでも叩き直してやるからの」

まだ納得いかないけど、別に止める気もそこまでしない。

こんな爺さんでも頼もしさはあるんだけど、僕が言って止まる気なんてありえないってのを三週間という期間だけど知っているから。


「今度会ったときは、一発入れてやるから楽しみにしとけよな」

「ふ、記憶をなくしてもトリスじゃの」

いや、記憶はないけど僕はトリスじゃない。

そこは絶対に否定したい。

僕は忘れがちだが、黒田。記憶喪失ではなく、あくまで転生してきたのだ。


「とりあえず、わしが教えたことをやってれば、死にはせんからがんばれよい」

そう言い残して、センバは馬車を降りて行った。


教えられた記憶は全くなかったけど、センバに言われたことで、不本意ながら、少し自信になった。


「まさか、降りるとは思わなった」

「そうね、センバさんがいれば、今回の討伐戦も安心だと思ってたんだけど、引退した人に頼りすぎるのもダメってことかしらね」

デイルの表情は少しはかなげな感じがした。

これまでも見ていた景色もざわめきが一層増したような気がした。


「国境って言ってたけどさ、そこってアース、マイーズどっちの領域なの? 襲われた村ってのもマイーズ国の村?」

「まだ、国境について話してなかったわね。マイーズ国とアース国の国境は結構複雑なの。アース国をマイーズ国が囲っているのは知っているわよね?」

僕はうなずく。


初日に目覚めた部屋に飾ってあった地図に対して質問した時にデイルが答えてくれたのだ。

カラフルで不思議な世界地図の青い島がアース国、赤い島がマイーズ国というのを教わった。

明らかに不自然な地図。

のちに聞いた経緯によって納得したが、アース国は明らかにマイーズ国によって狭められているのがわかる地図となっていた。アース国を囲うようにマイーズ国領がある。


「領域としては分けられているけど、国境のほとんどの村の管理はマイーズ国がやっているのよ。常駐騎士もマイーズ国の人たちよ。今はだけどね。アース国には騎士自体も少ないから仕方ないけれどね。」

「今は」という言葉に込められたデイルの思いを察した。

悔しそうな感情が乗っていた。


「だから、今から行こうとしているところも正確にはマイーズ国が管理している場所と言えるわ。一応領域的にはアース国だから合同でって話になったの」

「そうなのか。断ろうとはしたなかったのはなんでなの?」

不思議そうな顔をするデイル。

僕、おかしなことを言ったか?


「困っている人がいるんだもの。断る理由なんてないでしょ?」


なんて僕は自分勝手なのだろう。

いや、デイルが眩しすぎるせいだ。

僕には全くなかった考え。

別に困っている人がいたところで関係ないのに。デイルは誰かが困ってるだけで、自分もつらくなってしまうたちなのだろう。


でもそれは、実に損をし、危うい考えだ。


所詮困ってる奴は、困るべくして困ってるんだ。

苦しんでいる奴は、苦しむべくして苦しんでいるんだから。


「そっか。」

 そっけない態度で僕はこの話を強制的に終わらせることにした。


「そろそろ、着くわ」

 しばらくの沈黙の中、デイルが外の様子からそう言った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ