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死んではじまる物語  作者: 幸本勇作
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第一関門


僕が転生してから一週間が経った。


体も大分動くようになってきて、今では城の中を普通に歩き回ることができるようになっていた。

城の中にもずいぶん慣れてきた。


歩き回るようになって改めて、この城、アース城の大きさに感服する。


長い廊下に部屋が多数、全6階建て。これぞ、西洋の城って感じ。廊下に敷かれた赤い絨毯も高級感がたっぷりだ。


この一週間、さまざまなことをデイルから教わった。城の名前から、軽い世界情勢まで、ある程度この世界についてだいたいわかった。

まぁ、まだまだ、魔法についてとかは教われてないけど。


今日からはいよいよ、騎士としての特訓が始まる。

今はとりあえず、何度食べても飽きないアース城自慢の豪華朝ごはんのため、食堂に向かっている。


「トリス、おはよう」

「あ、デイルさん、おはようございます」

「ん!」

 デイルは僕の挨拶を聞くと少し不機嫌そうに近づいてきた。


「何度言わせるの?トリスはね。絶対に敬語は使わないの!ましてや「さん」なんて王様にだって使わないわ」

「あっと。そうで・・・そうだったなぁ、わ、わるかった・・・」


 僕がそう言うと、デイルは満足したように笑ってから、先に食堂へと続く廊下を歩いて行った。


 慣れない。


 この世界に転生してから一週間も過ぎたが、とにかく敬語を抜くってのが一番慣れない。

幸い言葉の違いは口語に関してはほとんどなく通じる。文字に関しては独自のものらしく読み書きはできないけど。


 王様にも敬語を使わない、トリスって一体なんてやつだったんだろう。


 デイルを呼び捨てで呼んでいいというのを公認されているので良しとしているが、まだまだ慣れない。

僕は元々、誰にでも敬語を使う礼儀正しい真面目少年なのだ。


朝食が終わる。

今日も今日でおいしかった。よくわからん生き物の目玉焼きとたぶんパンであろうフランスパン。サラダにスープ、ホテルでの食事って感じで幸せすぎる。


「今日は、訓練場に行くけどわかっているかしら」

「はい!今日からいよいよ騎士として体を動かし始めるんですよね?」

 デイルの目がなにかを訝しんでいる。答えはもちろん僕の口調。

「は、始めるんだよな?」

 ちゃんと、言い直す僕、えらい。

「そう、まぁどれだけ動けるのかも確認したいからね」


こんこん、食堂の扉が叩かれる。


「来たみたいね。どうぞ入ってください」

 扉が開かれる。同時にデイルは座り直し、もともと姿勢がいいのにもかかわらず、さらに背筋がピンとなり、先ほどより威厳が増したように見える。


「副騎士団長、ヤマト、参上いたしました!」

 ぴしっとしたYシャツに茶色いチノパン、ブーツのようだが長年履きなれたような使いこんでいる靴。なにより腰に付けた剣が目立つヤマトと名乗る青年が入ってきた。


 僕よりも10歳ほど上に見える。

 けれど、僕よりはるかに覇気に満ち溢れ、未来に希望をもっているような目をしていた。

 ヤマトはその青い目を、僕の方に向けた。

 その目は喜びと歓喜、安堵の様子だった。


「トリス団長、ご無事でなによりです。またご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。」

さらさらの金髪をなびかせながら、ヤマトは僕に深々と頭を下げた。

「ああ、よろしくなっ」

 僕は、軽く右手を挙げて返した。


 トリスになりきるためのお約束第一条!

 トリスは偉そう、常に上から目線!


「うんうん、いい感じ」

 デイルが声を潜めて僕に言う。


 こそこそ笑う彼女の顔が近い、一週間経つがやはり照れてしまう。


 僕がトリスを演じきるためにデイルとの間で、約束事項を作った。まずは第一条。

 ちなみに、僕が実は黒田ということはデイルと僕だけの秘密。秘密・・・二人だけの秘密・・・いい響きだ。


 あ、目覚めた時に来たサリリンっていうメイドのおばさんも僕の正体を知りかけていたが、絶対秘密を約束で給料プラスでボーナスをあげていた。


 今後出会う人には絶対に秘密。だからこのヤマトっていう副騎士団長にもばれないように接する。

 正体がばれちゃいけないわけについては、またあとで話すことにしよう。


「ヤマト、さっそくだけどトリスの相手をしてもらえる?半年も寝てたせいでかなりなまっているらしいから、叩き直してあげて」

「めっそうもございません。なまっているとはいえ、私が相手になればいいのですが」

 頭を掻きながら、ヤマトが僕の方をちらりと見る。

 僕は片眉をあげて、にたりと笑う。いかにも自信満々な表情ができていることだろう。

「じゃあ、行くか」


 僕とヤマトは、訓練場へと向かう。


 

 訓練場というから、すごいスタジアムみたいのを想像していたが、屋外とは思わなかった。

 高校生活を思い出させるようなグラウンド。

 一面芝生っていうのは学校じゃありえない贅沢だが。


「トリスさん、さっそくですけど、模擬戦でいいですか?」


 ヤマトがどこから取ってきたかわからない木刀二本の一本を、僕に向けて投げて渡してきた。


 けど、もちろん、僕は掴みそこなう。あわてて拾う。


「大丈夫ですか?トリスさん」

「ああ、問題ない」


 強がって見せたが、問題大有り。何を隠そう。僕は運動が大の苦手。


 剣道なんてもってのほか、万年帰宅部の僕には縁のない話。でも今度ばっかりはそんなことを言っている場合じゃない。


「じゃあ、お願いします」

 一礼してから、ヤマトは木刀を構えた。


 おいおい、いきなりかよ!

 僕も真似して木刀を構えてみる。手が震える。うまくやれるのか僕に。

 トリスの代わりなんて。

 しゃべったりの立ち振る舞いならなんとかなっても、いざ戦うなんて、僕には不可能としか思えない。


「大丈夫よ!あなたはトリスなんだから」

 デイルは肝心なとこは楽観主義者なのだ。

 記憶を失っているだけだとデイルは思っているわけだからしょうがないところはあるが。

 いくら肉体はトリスでも中身はどんくさい日本代表の僕なんだぞ!


「まいります!」

 ヤマトが向かってくる。


 僕の右側にななめに走る。

 同時に木刀を左腰にまで下げて構える。

 居合のような構えだ。

 とりあえず、僕も反撃をするべく左側に向けて木刀を振りかぶる。


 僕の方が先だ。振りかぶった木刀をそのままヤマトに向けて振るう。


 うそ、当たる? 当たってしまう?

 木刀とはいえ、当たったら痛いだろうなぁ・・・


 ヤマトの頭にぶつかる寸前・・・


 

「まずは、はっきり言っておくわ。今アース領は危機的状況にあるの。トリスを失うわけには絶対にいかないのよ」


 

 目が覚める。空が見える。ここまで綺麗な空なんて見たことがない。

 

 って、目が覚める? 僕は起き上がった。

 

 いてて、顎が痛い。というか、ここはどこだ?


 僕はさっきまで、訓練場でヤマトと模擬戦を行っていたはず・・・


「団長!大丈夫ですか」

 ヤマトの焦った様子が僕の視界に入ってくる。

 そうか、ヤマトの攻撃の方が早く僕に当たったのか。


 やれやれ、やっぱり僕に戦闘なんて無理なんだって。


「ああ、問題ない」

「よかった・・・あの、団長さっきの模擬戦、」

 ヤマトにばれてしまったのかもしれない。情けない団長にがっかりしているのかもしれない。

 けど、しょうがないでしょう。僕は本当はトリスじゃないんだから。

 僕にしては頑張っている方だ。


「どうして、・・・どうして手を抜いたんですか?」

「え?」


「さっき、僕に当たる瞬間に剣の勢いが止めたじゃありませんか」

「あ、ああ、まぁな、久々にお前さんの実力を確かめたくてな。いい一撃だったぜ」

 自分ながら、とんでもない言い訳、

 よくこんなことが言えたもんだなって感心する。

 デイルとの約束第二項、トリスは自信たっぷり余裕しかない!が身に染みている。


「やっぱりそうですよね。半年も眠っていたからもしかしたら、腕が鈍っているかもと思ったんですが。さすがです。まだまだかないません」

 相手をたたくのに躊躇したのが功を奏した。手を抜いていると思われた。

 結果オーライなんとか正体はばれずにすんだらしい。


「ところで、俺はどのくらい寝てた?」

「えっと、一時間くらいですかね?ってまずいです。そろそろ全体集会の時間になりますね」

「ああ、そうだったな、急がないとな」

 一瞬、ヤマトが僕の方を見た。

「とりあえず、僕は木刀かたずけて正装しなくちゃなので、先に失礼します」

 僕はヤマトを見送った。


 デイルもうまいタイミングで訓練場での予定を組んでくれたものだ。

 目覚めたのにも関わらず、長い時間訓練場に出なければ怪しむ者も出てくる。

 それを防ぐために副騎士団長のヤマトを呼び、軽く訓練を行い騎士団長であるトリスの無事を披露する。

 万が一、正体がばれそうになっても、今日は、騎士団員が集められる全体集会が行われる日であるので、短い時間で接触が済む。

 

 今回はうまく、正体がばれずに、むしろ実力をそのままにトリス復活を印象付けることに成功したのは運がよかった。


 とりあえず、第一関門突破と言っていいだろう。

 

 おっと、僕も急がなければ、集会とやらに遅れてしまう。


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