はじまり
転生とは、死をきっかけに全く別の肉体に魂が宿ること。
まさに、今の僕の状況を説明している。僕は死に、このトリスと呼ばれる肉体に宿ったのだ。
それが一番僕の今の状況を説明してくれる。
僕が夢を見ているって場合もあるかもしれないが。
「わかってくれたかしら?あなたの肉体はトリスで間違いない。というか私たちがトリスをここまで運んだんだから、あなたはトリスで間違いないんだけどね」
「そう・・・みたいですね。 でも、これは記憶の上書きというより、転生だと思います」
「転生?・・・うそでしょ。そんなことあるはずがないわ。転生をさせるための魔法なんて物語の話。まして、トリスほどの人が誰かに肉体を奪われることなんて考えられないわ」
魔法?がこの世界にはあるのか。
窓からの景色でもわかっていたが、この世界は僕が生きていた世界とは全く別次元の世界。さらには魔法まである世界なんて、いよいよこれは苦労が増えそうだ。
「現状はわかってくれたようね」
転生という僕の結論が正しいはずだが、今はとりあえず、話を合わせておこう。
「そのうえで、あなたにはトリスとして生きていってもらいたいの」
「あの、その前に、僕って一体なに者なんでしょうか?」
見たこともない規模の城の主に心配されるトリス。おそらくかなりのキーマンなのだろうと予想できたが、はっきりさせておきたい。
「どこから説明すればいいかしら。えっと、騎士ってのはわかる?」
「はい、なんか剣とか盾とかもって戦う人ですよね?」
「まぁ、なにを持って戦うかは人によるけど、だいたいそうよ。国のために戦う人たちが騎士。そして、あなたも騎士。
中でも世界に十人の選ばれた騎士の一人、十選の騎士があなたよ」
想像のかなり上、僕が騎士?、正確には僕ではなくてトリスが、なのだけれど。
しかも世界でも十人に入る騎士だって。僕はとんでもない転生をしてしまったようだ。
僕はこれからトリスとして、騎士として生きていかなければならないのか・・・
いや、逃げよう。
そうだ、逃げよう!
転生してしまったからってその人生を生きる必要なんてないんだ。どこかでまた死ねばいい。超絶美少女にハグされたし、もう思い残すことはない。
また、転生してしまったらめんどくさいが、とりあえず僕には騎士なんて絶対無理、運動苦手の臆病者が僕なんだから。
うん、テキトーに流してここから逃げて、死ねばいいや。
「・・・」
「え?」
僕が逃げる算段を考えている間にデイルが涙を流し始めていた。
驚き、衝撃、ファンタジー。
僕が何かしたのか?
心を読まれていたとか?
いやいや、だとしてもなんで泣いているの?
初めて、生まれて初めて女の子を泣かしてしまった。しかもお姫様を。
「なんで、どうして、泣いて・・・いるんですか?」
罪悪感が押し殺せず、僕は聞いてしまった。
おそらくこの選択が一生後悔するであろう選択なのを薄々感じられたのにも関わらず。
「ごめんなさい、あなた・・・トリスが目覚めて、ようやく転機になると思ってたの。これから先どうやって国を守ればいいのか。想像したら、涙がでてしまったの。ごめんなさい。でも大丈夫。あなたはトリスなんだから!」
涙を拭きながら、でもまだ目には涙を浮かべながら、無理やり笑ったデイル。
僕はもう引くことなんてできない。
彼女は僕以上の重圧、苦労、心労の中懸命に生きている。そんな子を目の前に死ぬなんて許されないなんて思ってしまっている。
なにより、この子を守りたいなんて、柄にもないことを思ってしまっている。
この感情はトリスという肉体から生まれたのか。僕自身から生まれたものなのか。今はわからない。
「大丈夫ですよ。僕がちゃんとトリスとして頑張りますから」
なにを言っているんだ僕は。
「ありがとう。クロダ・・・。いいえ、トリス。」
「は、はい」
覚悟はできちゃいないが、しかたない。
自殺しようとした罰だと思って頑張るしかないか。こんなかわいい子と一緒にいられるならまぁ、我慢できるかな。
「じゃあ、色々話していくわね」
「まずは、ここがどういう世界なのか、からお願いします」