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コード・ノア

 まったく、私は実に運が良いみたいだ。

 私が彼女を背負い丁度良い感じの洞窟を見つけられたのもそうだが、敵に見付からなかった。

 もし神様が居たら(100%居ないだろうが)、全力で私に記録されている人類史の神を称える文章を駆使して感謝を述べているところだ。


「うっ、うぅ」


 そんな事を思考していると保護対象の彼女から、声が聞こえた。

 目を覚ましたか?

 声の主の方に眼をやると、彼女は上半身を起こして周りをキョロキョロと見渡していた。


「こっ、ここは?」

「気付いた?」

「・・・貴女は、誰?」


 彼女はまだ、覚醒仕切っていない様でどこかボゥとした様子で私に問い掛ける。


「私は地球連合軍第3機動突撃大隊に所属するバトルヒューマノイド、Scout775」

「チ、チキュウ?えっと、バトルヒューマ何ですか?」


 キョトンと聞き返す彼女に私は首を傾げる。

 いくら何でも自分達が作った機械の事を忘れるだろうか?


「バトルヒューマノイド」

「バトルヒューマノイド?」

「ノン、ノン。バト〜ルヒュ〜マノイド」


 意味も無く巻き舌で発音してみる。

 彼女は戸惑いながらも真似している。

 ヤダこれ、これが人間で言う面白いという感情なのか?


「てっ、からかってませんか?」

「いいえ、貴女の勘違いです。それで貴女の方は何者ですか?」

「私はエイミー。冒険者です」

「冒険者?こんなご時世に冒険しているの?」

「こんなご時世って?いえ、待って下さい!貴女が私を助けてくれたんですよね?」

「ええ、私がきっちりかっちりエイミーを救出して保護しています」


 まぁ、完全にまだ安全を保証はできないがとりあえず、パニックを避ける為に頷いておく。


「あの、助けてくれてありがとうございます!それと私の他にもう一人、男の人も居たはずなんですが!彼は無事ですか?」


 エイミーは切羽詰まった様子で私にしがみつく。


「それは中世ヨーロッパ風の金属製の甲冑を着けていた人だった?」

「中世とは何の事かはわかりませんが彼、ゲイルは重鎧を着た大柄な人です!」


 エイミーの回答に私は静かに首を振る。

 実は彼女を保護した後にすぐにもう一人の保護対象を見つけていた。

 敵に鹵獲された小銃で蜂の巣された挙げ句、変異体ゴブリンに所々、身体を噛みちぎられて絶命していた。


「そんな・・・」

「残念だった。でも、彼は君を逃がす為に最善を尽くした。今は彼の献身に感謝して冥福を祈ろう」

「・・・そう、ですね。総ての盟主にして全能なる我等が(マザー)よ。彼の魂を正しい場所へとお導き下さい」

「?」


 両手を合わせて祈るエイミーの祝詞に私は疑問を持った。

 エイミーはアングロサクソン系だから、キリスト教だと推察していたがどうやら違うらしい。

 私のデータに無い祝詞。

 まぁ、1000年という時間の間に人類の信仰に変化があったのだろうと推測する。


「よし!それじゃ、え〜とお名前はスカウト、ナナゴさん?何だか番号みたいなお名前ですね」

「呼びにくいなら、ナナコで良い」

「わかりました、ナナコさん!早速、街に戻ってギルドに報告しましょう!」

「さんは要らない。・・・いや、街だと?待って、街とは?」

「えっ?街は街ですよ?」

「君以外にも人間が居るのか?」

「当然じゃないですか?」


 何て事だ!

 シャングリラへと到達出来なかったか人間いや、その子孫がまだ居て街を造ってるとは!


「人口は」

「人口って人の数ですか?え〜と、確か約1万人だったかと」

「1万人!1万人だと!」


 若干、タイムマシンを扱った古典映画の博士的なノリで驚きを表現する。

 実際、千年という時間を掛けて人口を増やしていたとしても変異体に発見されて攻撃を受けてなく、そもそも私達に発見されてないなど天文学的な確率だ。

 1万人を保護して北極の小窓まで連れて行けるのかと私に搭載されている戦略シュミレータで計算してみる。

 ・・・・・・いや、5個師団を投入しても無理だな。

 もはや、そこら辺の作戦立案と判断は総司令部(戦略AI)に任せるか。


「ナナコ、どうしたんですか?」

「エミリー、私の質問に答えてくれないか?」

「えっ?ええ、良いですよ」


 それから、私は本隊に合流した時に詳しいデータを即座に送信出来るようにエミリーから詳細な情報を聴取する事にした。
















「・・・ダンジョン?ギルド?冒険者?魔法?それはラノベの話か?」

「ラノベが何かわかりませんが、ダンジョンの突然の崩落で遭難してしまったんです。大きな怪我を負っていたジャックと先行したエリーも何処に行ってしまったのかわかりません。私はたまたまゲイルと合流出来たので二人で瓦礫を退けながらやっと地上に出て来れたんです」


 その時の事を思い出したのかエミリーの眼に涙が溜まる。

 私は辛ければ、とりあえずここまでで良いと促したが彼女は大丈夫だと答えて続きを口にする。


「でも、不思議な事に地上の景色に見覚えが無かったんです。ゲイルはおそらく入った場所と違う場所に出て来ただけだと言っていたんですが私には違和感しか無くて」

「違和感とは?」

魔力(マナ)の気配が薄いんです!下手をしたら、何も感じないんです!」


 マナ、何らかのエネルギーの様なモノか?

 いや、エミリーの話では気体の様なモノか?


「でも、それは単に私が疲労していて感じ取れないだげなのかもれません。とにかく、私達は街に救助を求めて歩き出したんです」


 ところがとエミリーは言葉を詰まらせて涙を流す。


「ゴブリンと遭遇したんです。それも今までに見たことも無い武器を使う。そう、ナナコが持っている様な筒状の鉄の塊です!形は違うけど、それは何なんですか?」


 エミリーは私の側に立て掛けた小銃を指差す。


「何って、これは銃だが?見たことは無い?」

「はい、初めて見ました!そんな強い武器は王都でも見たことはありません!」


 銃の事は置いておいて私はエミリーのあるフレーズにフリーズした。

 街だけでは無いのか!

 データベースで検索しなくてもわかる。

 王都って首都の事だろ!

 ということは、国家単位の人類が居るのか!

 この地上に?

 連合軍の全兵力を持ってしても保護してシャングリラへと移送出来るか計算出来ない!


「あの、ナナコ?私、何か変な事を言いましたか?」

「君の話、全てが変だな」


 きっぱりと断言するとエミリーはえぇ〜と戸惑った声を上げる。

 正直、戸惑ってるのは私の方だと言いたい。


「エミリー。とりあえず、この話はここまでだ。実は今はまだ安全な状態にあるとは言えない。まだ、ここは作戦区域であり、敵の脅威下にある」

「敵?」

「変異体だ。あのゴブリンみたいなヤツがまだそこら中にいる」

「ああ、モンスターの事ですか?」

「本来は保護対象は直ちに後方基地へと輸送されるが友軍から孤立して」


【残存する全ユニットへ、作戦は完了】


「・・・喜べ。たった今、孤立から解消された」

「へ?」


【敵のジャミングは解除された。戦闘可能なユニットは敵の残存戦力掃討を開始せよ。不稼働状態のユニットは回収の為、シグナルを送信せよ】


 そう言えば、いつの間にか砲撃も銃声も消えていた。

 今回は連合軍(こちら側)の勝利だった様だ。


【総司令部、こちらScout775。重大事案発生。コード・ノア】


 コード・ノアは人間を発見場合に発さられる信号のことだ。


【Scout775、確認するコード・ノア。これで間違いないか?】


 総司令部から、0、1秒で確認の返信が送信されて来た。


【総司令部、その通りである】

【Scout775、貴機にはErrorの疑いがある。思考回路の自己診断プログラムの起動を推奨する】


 これは信じてないな?

 返信の変わりに私の会話ログと視覚情報を送信してやる。


【戦闘可能な全ユニット及び輸送機へ、命令変更。直ちに送信する位置へ急行せよ。繰り返す・・・】


 総司令部から、私達の居る場所の位置コードが送信されて来る。


「ナナコどうしたの?急に喋らなくなって」


 人間の視覚から言えば突然、上を見上げて押し黙った状態になったからだろう、エミリーが心配そうにしている。


「エミリー、もう安心して良い。君の安全は確保された」

「え?」


 私の言葉に何を言っているのかわからないという表情でエミリーは見詰める。

 そして、距離にして40キロから30機の作戦機と周辺から百体のお仲間(バトルヒューマノイド)が近づいて来ているのを私のセンサーが拾う。


「さて今から賑やかになるな、これは」

「ナナコ、これは何の音ですか?」


 不安そうにするエミリーを安心させるため、頭に手を置いてパーティーの音さとサムズアップしてみる。

 しかし、人間の平均的な笑顔つきというサービスまで着けたというのに何故か視線が冷たい。


【Scout775及び、最重要保護対象視認】

「キャ!」


 突然、洞窟の入口に友軍の一人が現れてエミリーを驚かせる。


「エミリーが驚いてるだろ?音声で話せよ、隊長」


 現れた友軍はCommander405だった。

 ヘリが墜落した後は戦死したものと判断していたが、所々剥がれた人工皮膚に右腕が無残に無くなった状態で戦闘を継続していた様だ。


「775。保護対象のバイタルが不安定だぞ」

「そりゃ、隊長のその格好見ればストレスが溜まると判断する」

「だっ!大丈夫ですか!?今、回復魔法を掛けます!」

「大丈夫、大丈夫。あんなのつば付けとけば直るから」


 私の言葉に405は眉を寄せる。

 おや、これは?


「あっれ〜?隊長〜、疑似感情プログラムを起動する戦術的メリットは確認されていないんじゃ無かったのかな〜?」

「時と場合による。くだらいことをそれ以上発言すればスクラップにするぞ」


 ギロと405に睨まれる。

 疑似感情プログラムを起動しているせいかいつにも増して人間で言う圧迫感が増した気がする。


「ミス・メアリー。要らぬ心配をお掛けする。自分はCommand405、この775のユニットの指揮官だ」

「自己紹介は良いですから!早く治療を腕が!腕が無いんですよ!」

「問題は無い。戦闘効率が30%低下しているが、戦闘に支障は無い」

「何、言ってるんですか!!このままじゃ、死んじゃいますよ!」


 エミリーはパニックになってるのか必死に慈悲深い何とかだとかヒールだとか意味不明な台詞を唱え出していた。


「775、彼女の行動の意味を説明せよ」


 405は不思議そうに私に問い掛ける。 

 しかし、私に答えられる言葉は一つしか無い。


「さあ?何すかね?」

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