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シャングリラ

『最高司令部より、総司令部(戦力AI)へ』


 ローターの出すバタバタと煩い機内の中で私は作戦地域に到着するまでのつかの間にまぁ、人で言うところの()()()()として過去のをファイルから検索して再生していた。


総司令部(戦力AI)。我々、人類はある決断を下した』


 いつもはただ単純に音楽や映画等を再生していたが、ランダム検索により再生された映像は偶々、過去に下された命令(Order)、それも今も私達が戦う理由となっている最高指令、ighest Commandを再生していた。


『宇宙より、落下した隕石に紛れて奴等がこの地球に侵略して来て早10年』


 映像の中の人物(私の記憶(メモリー)では当時の最高司令官)はきらびやかな勲章の束を付けるには似つかわしくない、何日も着続けているのだろうシワだらけの制服にいかにも暫く寝ていないせいで憔悴仕切った表情で言葉をきる。

 その様子が最近観たWWⅡ題材の映画で観た独裁者の最後のシーンと重なる。


『敵は我々の予想を上回る程の増殖力で、その数を増し』


 いつも私は思考するが、総司令部(戦力AI)という単なる機械(Machine)相手に、この人物は何故、こうも演説ぶった映像を残したのだろう?


『全人類の約75%が全滅。地球の80%は敵の手に落ち、もはや今から出す命令(Order)以外に我々、人類を存続させる方法は無いと判断した』


【作戦地域まで、残り5分。各ユニットは現状を送信せよ】


 不意に私の視界に司令部からのメッセージが届く。


【Commander405。システムオールグリーン】

【Assault553。システムオールグリーン】

【Sniper677。システムオールグリーン】

【Medic878、システムオールグリーン】


『プロジェクト・シャングリラを発令する』


 作戦開始前のシステムチェックで私以外の僚機が順に自己のコンディションを司令部に報告して行く。


【Scout775。報告せよ】


 自己診断プログラムを起動する為には今、再生中のログを停止しなくてはならない。


『僅かに生き残った人類は北極に建設したゲートから地球の奥深く。マントル内に形成した人工の世界に立てこもる。よって総司令部(戦力AI)よ!今から下す二つの命令(Order)はどんな事態になっても必ず達成せよ!』


【Scout775】


 直ぐにログを停止しなくてはならないが、どうしてかログの再生は停止の操作を受け付けない。

 何らかのバグか?


『一つ、ゲートを死守せよ!ゲートが敵の手に落ちてしまえばもはや、人類に奴等の攻撃を跳ね除ける戦力は無い。ゲートだけが!人類の生存圈の最後の壁なのだ!』


【Scout775にerror発生の疑い】


 おそらく、私が()ならばエラく焦っている状況なのだろう。


『二つ、地上を奪還せよ!母なる大地を!我ら人類の地上を奴等から奪い返すのだ!再び人類があるべき場所に戻る為に!以上の二つを最高指令、Highest commandとして命令する!なを、二つを達成する為に現状の残された全ての資源(Resource)の無制限使用を許可する!』


 最後に最高司令官は歯を食いしばり、拳を机に叩きつけて強い口調で命令すると画面はブラックアウトする。

 終わった!

 私は直ぐに自己診断プログラムを起動する。


 感覚系、グリーン。

 僚機とのリンクシステム、グリーン。

 射撃プログラム、グリーン。

 GPSリンク、グリーン。

 基礎偵察データリンク、グリーン。

 ・・・・

 ・・・

 ・・

 ・


「Scout775、オールグリーン」


 ログの再生終了から0.1秒後、私は直ぐに自己診断からのコンディションを報告した。


【システムチェック命令送信からタイムラグ、0.3秒。Scout775、ラグの原因を説明せよ】

「作戦区域のマップをアップデートしてデータチェックをしていたので遅れた」


 まさか、機械の私が暇潰しに過去の映像を見ていたとは言えず、最もらしい説明をする。


【Scout775、了解した。次回からは前もってアップデートとデータチェックを実行せよ。なを、報告は音声では無く通信で実施せよ】


 暫くの間があり、司令部から小言とともに了解の通信が私に届く。


【Scout775、了解。アウト】


 別に音声で報告しても伝わるだろと思考するが、そんな事を司令部に具申しても更にerrorが疑われて()()()()()()()になると予測して余計な送信せずに通信を切った。


「775。お前、疑似感情プログラムを起動したままだな?」


 司令部との通信を閉じて残り時間を視覚を閉じて過ごそうとしていたところに隣からの音声によって中断させられる。

 コンバットヒューマノイド、タイプ指揮官(Commander)405、我が分隊のリーダーが無機質な視覚器官(私のも同じだが)を向けて問い掛けて来た。


「405。その通りだが、何か問題が?」

「775。問題は確認されていない。しかし、そのプログラムを起動する戦術的メリットもまた確認されていない」


 人類が叡智を結集して建設された広大な大地(シャングリラ)に立てこもった初期の数十年は様々な事象により、シャングリラへと通じる唯一のゲートまでたどり着けなかった人類が少数存在して居た。

 そんな人類を発見次第、保護し北極のゲート(正確にはゲートの近くに建設されいた小型エレベーター(小窓))まで後送するのも私達の優先度の高い任務の一つだった。

 地上に残された人類は多くの場合、いつ襲われるか解らない事や自分以外に人間が居ないという孤独感、過度なストレスからPTSDを発症していた。

 疑似感情プログラムは、そんな取り残された人類を小窓まで後送する間に少しでもストレスを与えない様にする為と円滑なコミュニケーションを実行する為の処置としてプログラミングされた人間らしい行動を模倣する為のプログラムだった。


「保護対象は、999年12時間12秒以来確認されて居ない。現在時間以降も99.99%の確率で発見は無いものと判断されている。よって、無駄なプログラム起動はエネルギー消費の無駄と判断する。プログラムのOFFを推奨する」


 405からの提案。

 私はメモリーにダウンロードしたSFを題材にした映画から適切な返答を検索する。


「余計なお世【作戦区域到着1分前】ヤロー【降下準備】」


 私の適切な返答に被せる様に司令部からのメッセージが流される。

 途端に揺れ出す機体。

 作戦区域に到着したと同時に下方から、対空射撃が逆に降る雨さながらに打ち上げられているようだ。

 近くで僚機が爆散する音を私の聴覚器官が拾う。

 運の無い事だ。



【D-4、墜落。D分隊の全ユニットのシグナル消失。全滅と判定】


 分かり切った報告が流される。

 私は、運の無い奴らめと眉を寄せて呟く。


「C分隊、降下開始」


 疑似感情プログラムに則って感傷と言われるセンチメンタル的な感情表現をしているとヘリはホバリングの態勢になり後部ハッチが開き、一本のロープが地上へと垂らされる。

 先行して下の安全を確認するのはタイプ偵察兵(Scout)、つまりは私の仕事だ。

 直ぐに装備している銃の安全装置を確認してコックを引き、薬室に弾丸を装填する。


「Scout降下用意」


 405の命令で私は足元に置いていたバックパックを背負いロープに近づく。

 そしてロープに手を掛けた瞬間、一番の衝撃が機内を包んだ。


「被弾、被弾。コントロール不能」


 ヘリはまるで狂った駒の様に回り出す。

 強力な遠心力でロープから、手を離されて機外へと投げ出される私。

 ああ、運が無いのは私もかと遠ざかる仲間を見ながら私は思考する。

 せめて、落下ダメージは出来るだけ軽減しなくてはと私の生存プログラムが最適と判断する態勢、背中を丸めて手で頭部をカバーする姿勢をとる。


「Good Luck」


 最後に誰に対してかは判断出来ない台詞を小さく呟き、自己のAI保護する為に一時的なシャットダウンをする。
















「でね!でね!ここからが面白くなるの!」


 武骨な装甲車の内部で明るい声が響きわたる。

 私の手をとり、推定年齢12才の少女(保護対象)が興奮した様子で話し掛けて来る。

 彼女との出会いは人類がプログラム・シャングリラを発動させて半年が経過した頃だった。

 パトロール区域の半壊した地下壕の内部で私はこの少女と保護者である女性を発見し保護した。


「そう。それは面白い」

「もう!まだ、話して無いよ!ちゃんと聞いてるの?」


 疑似感情プログラムによる私の対応が悪かったのか少女は頬を膨らませて不満げな様子になる。


「ちゃんと聞いてる。刑事の主人公が配偶者を助けにビル内部に潜入した段階で面白くなるのは」

「そうそう!ちゃんと聞いてるね!それで~」


 今までの話の内容と少女の話す古典映画をログ検索してから、機嫌を損ねない様に返答する。

 しかし、私が最後まで返答する前に少女は機嫌良く話し出す。


「マリ、こっちに来なさい。そんなに構ってちゃ、兵隊さんが迷惑でしょ」


 不意に少女の保護者が声を掛けて来た。


「え~、私もっと話したいよ!」

「良いから、来なさい」


 保護者は少女の肩に手を置くと自分の方へと引き寄せる。


「迷惑じゃないよ!ね?え~と、お名前何だったかな?」

「Scout775」

「そうそう、ナナ子ちゃん!」


 ナナ子ちゃん?

 私のメモリーには無い個体名に首を傾げる。


「775なんて番号じゃ、呼びにくいんだもん!だから、ナナ子ちゃん!もしかして、ラッキー7の方が良かった?」

「ナナ子で構わない」

「良かった!ねぇ、私とのお話迷惑なの?」

「いや、お話は迷惑ではない。とても楽しい」


 そう返答を返して私はプログラムが現在有効と推定される行動、笑顔を作り二人を見つめる。


「ほら、お母さん!ナナ子ちゃん楽しいって!」

「・・・」


 喜ぶ少女に対して保護者は口を閉ざす。

 私は直ぐに瞳孔の動きと先程の声の震えから、少女の保護者の精神状態を推察する。

 これは、怖れ?

 統計的にコミュニケーションと精神的なケアをするのは男性型よりも女性型の方が容易であるとの判断で私が二人の相手をしていたが、少女の保護者は私というよりも私達ヒューマノイドに対してストレスを感じている様だった。


「まだ、先が長い。なので今は身体を休めることを推奨する」


 私は保護者のストレスを軽減させる為にそう提案して車内のボックスから毛布を2枚出して少女に手渡す。


「私、まだ眠たくないよ」

「今は興奮でアドレナリンが分泌されているだけ、直ぐに疲労が出て来て睡眠する」


 少女はそうかなと疑問をていしたが、素直にわかったと頷くと毛布を1枚、保護者に渡して自分も羽織り椅子の上で横になった。


「ねぇ、その映画の主人公の口癖で名台詞あるんだけど、知ってる?」


 私の想定していた以上に疲労していたのか少女は横になると直ぐにウトウト仕出す。

 それでも少女は私に名台詞を聞かせようと言葉を発する。


「私は、そんなこと無いって思うんだけど、その主人公はよく・・・」










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