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第9話 初陣

 スグル達エコー分隊は、シャトルに乗って宇宙で停泊中の艦隊を目指している。

 先日乗った時は離陸時のGに随分驚いたものだが、肉体改造の恩威か今回はそうでもなかった。あの女医さんに感謝しよう。

 ミカエル、ガブリエラの姉妹とは一旦お別れ。彼女達は普通の輸送船に乗るからだ。ちょっと寂しい。


「そら、見えてきたぞ。あれが私たちの乗る戦艦だ。」


 宇宙戦艦!! 男の子ならこの響きに心を弾ませないわけにはいかない。まさか本物の宇宙戦艦を直に見て乗れる日が来るとは! ウキウキしながら窓を除く。


「……………………………………………………………………………………何あれ?」

「何って、重装型宇宙戦艦6529247号だ。言いにくかったら247号でもいいぞ。」


 大尉の言葉が耳に入ってこない。目の前の戦艦と呼称される物をスグルは凝視していた。

 そこにあったのは、宇宙戦艦ヤ〇トみたいに水上艦艇の名残を残しているわけでもなければ、銀河英雄〇説に出てくる同盟の長方形を軸にした船でもない。まして帝国のような美しい流線型でもない。

 一言で言い表すならそれは円錐。

 円錐形の船がそこにはあった。底面に当たる部分にエンジンがいくつも付き、錐状部分に砲塔が四方八方に向けて幾つも付いている。台座は固定式ではなく錐状部分を横にスライド出来るようでそれによって火力を集中させたり死角を無くしている模様。

 他にも沢山浮かんでいるから、その船だけが特別と言うわけではなさそうだ。

 合理的と言えば合理的なのかもしれないが、想像していた宇宙戦艦とのあまりの違いに愕然とする。もしヤ〇トや英雄〇説に出てくる戦艦があんな形だったら、きっとあれほどの人気は出なかったに違いない。

 期待度100%ガッカリ度100%だよ、これじゃ。


 そんなことを考えているうちに船についた。


「しばらく我々の出番はないだろう。各自割り当てられた自室で待機するように。もちろん何時でも出撃できるよう装備の手入れを忘れるな。」

「「「「了解。」」」」


 スグルに割り当てられた部屋は、地上にいた時の宿舎と余り変りはなかった。ビジネスホテルみたいな簡素な作りと最低限の設備。最初は狭苦しいと思ったけど、今となっては慣れたものだ。荷物を整理すると艦内の散策に出かけることにした。いざという時に迷子になったらいけない。


「ひ、広い。」


 しばらく行ってみたが端が見えない。行けども行けども突き当らないのだ。

 スグルは、形の衝撃に気をとられてその大きさを失念していた。スグルの乗った重装型戦艦は全長3000m、全幅500mの超大型艦だったのだ。


「ここはどこ?」


 挙句の果てに迷子になった。端まで行くことを諦めて、せめて自室の周辺だけでもと思ったがこの戦艦。見た目だけではなく内部構造も想像とだいぶ違っていた。

 まず、上下がない。宇宙空間なので当たり前と言えば当たり前なのだが、普通艦内は重力制御とかで床に足を付けられると思っていた。しかし、昔TVでみたスペースシャトルやISS(国際宇宙ステーション)よろしく無重力だった。

 机や椅子、ベッドなどは流石に床に固定されている。着ている服には椅子に座ったりベッドで寝る際に体を固定するためのフックが付いており、これで体を固定するのだが移動は基本宙に浮く感じになる。そのため平衡感覚がおかしくなる。

 戦艦内の構造も厄介だった。通路はメインストリートと呼ばれる大きめの道が艦中央に走っており、そこから放射状に支道が伸びていた。支道どうしはバイパスと呼ばれているさらに細い道どうしで繋がれていた。バイパスと支道は円錐状である艦の形状に合わせて湾曲しているところもあるので、それがさらにややこしかった。

 この年で迷子なんて、と少し恥ずかしかったが諦めて分隊の誰かに助けを求めるべくシーバーを取り出したところで。


「む、君は?」

「っ!!? 失礼しました。どうぞ。」


 通路の死角からお偉いさんが現れたので慌てて道を譲る。

 階級章はまだ覚えていないが、胸に勲章が沢山付いているので、明らかに自分より階級は上だ。


「ふーむ、妙だね。」

「な、何か?」


 お偉いさんは何故か、スグルの胸をマジマジと見て首を捻っている。まさかそっちの気ではないですよね。


「少尉までくれば勲章が幾つかあってもおかしくないのに君には1つもない。どういうことかね?」

「ああ、いやそれは…。」


 お偉いさんの質問に答えることが出来ない。そりゃそうだ。まさか何の経験もなしにいきなり少尉になる人物なんて普通は信じられないだろう。


「スグル!! ここにいたのか。」


 答えに窮しているところに大尉が来てくれた。


「大尉!良かった。あの…この方が…。」

「部屋にいないから心配したぞ。っと、失礼いたしました艦隊司令官殿。うちの者が何か粗相をいたしましたでしょうか!」


 大尉が、お偉いさんに向かって背筋をピンと伸ばしビシッと敬礼する。ちょっと待って、今艦隊司令官て言わなかった? それってつまり。


「いやいやこの若者は何もしていないよ。ほら、少尉の階級章を付けているのに勲章が1つも付いてないから不思議に思ってね。」

「それにつきましては、話すと少々長くなってしまいますのでかいつまんでご説明いたしますと……記憶喪失になっているところを保護して、そのまま私の部隊に引き入れました。」


 えっ? そう言う設定。


「おや、それは大変だね。」

「記憶もそうですが、常識も忘れているのでそこに苦労はしております。しかし、それを補って余りある勇気を持っています。見どころはあります。」

「そうか、君がそう言うのならきっと問題はないだろう。」

「はっ! ありがとうございます!」

「そう堅苦しくしなくてもいい。私と君の仲じゃないか。聞いたよ、先日のナイアース防衛戦では大活躍だったそうじゃないか。」

「ありがとうございます。ただ防衛戦は私だけの活躍ではありません。現地の防衛隊はもちろん、遊撃隊のメンバーが頑張ってくれたからですよ。ブルトゥス将軍。」

「だが君の指示があったからこそ防衛できたと皆が口々に言っているぞ。謙遜は美徳だが少しは自慢してもいいんだよ。マグワイヤ大尉。」

「あはは、将軍にはかないませんね。」


 どうやら2人は知り合いらしい。大尉が将軍と呼んだことから、このお偉いさんが少将以上であることは間違いない。軍の階級には詳しくないけど、確か大尉の上が少佐で中佐、大佐と続いていくから、4階級以上の人とこれだけ砕けて話せるというのは相当懇意な間柄と見た。


「では私はこれで失礼する。君の記憶が戻ることを祈っているよ。」

「はっ、ありがとうございます。」

「将軍もお体を大切になさってください。とかく司令の任は激務ですゆえ。」

「うむ、ありがとう。」




「大尉、今の方は?」


 お偉いさんが去った後で大尉に聞いてみる。


「あのお方はブルトゥス将軍。この第1艦隊、通称本国艦隊の艦隊司令官殿だ。」


 艦隊司令!? それ、相当階級が上の人なんじゃ・・・。


「あの、ちなみに階級は?」

「大将だ。普通の艦隊なら中将、もしくは少将がその任に就くのだが、なにせ本国艦隊。人類存続機構最初の艦隊だからな。その上はもう、艦隊司令長官たるガイウス元帥しかおられない。」


 マジで!!? 大将て大尉より6階級も上の人じゃんよ。そんな人と話したのか俺。


「ところでスグルはこんな所で何をしていたんだ? 自室での待機を命じたはずだが。」

「申し訳ありません。艦内を把握しておこうかと思いまして、散策に出たら迷子になりました。」

「殊勝な心掛けだが、マップを使えば迷子になぞならないはずだぞ? 余程の方向音痴でない限りは。」

「マップ?」

「物流マップだ。説明したろうが。」


 シーバーを取り出して物流マップを開いてみると、確かに自分の位置がマーカーで表示されている。3D表示による艦内の案内もある。


「これ、宇宙でも使えるんですね。」

「当たり前だろう。何のためのマップだと思っているんだ?」


 地上での暮らししか経験していないため、宇宙でも地図が役に立つと思わなかったのだ。その発想自体がなかった。


「と、ところで大尉は何故私の部屋に?」


 話題をずらそう。


「おお、そうだった。少し早いかと思って訓練には組み込んでいなかったんだが、やっぱりグラディエーターの適性を見ておこうかと思って呼びに来た。」

「グラディエーター?」

「航宙マルチロールファイター「グラディエーター」。要は戦闘機だ。」


 おお!! 宇宙戦闘機!!。男ならこれにも憧れずにはいられない。

 しかし・・・


「我々は歩兵ですよね? なんで戦闘機に?」


 普通、戦闘機には英才教育をうけた一握りの選ばれたパイロットしかなれないのでは?


「確かに、専属の教育を受けたパイロット達はいる。しかし我々は遊撃隊。場所も武器も選ばずに戦場を駆け抜ける。それが任務だ。パイロットが不足した時に応援を頼まれることもある。適性を確認しておいて損はない。」

「しかし、戦闘機の操縦なんて自信ありませんよ。」


 車の免許すらAT限定なんだぞ。


「なに、操縦自体は簡単だ。要は平衡感覚の適性があるかないかだ。あと乗り物酔しないか。こちらはシャトルでの様子を見る限り大丈夫そうだな。」


 簡単と言われてもそのレベルがわからん。とはいえ命令なら断るわけにもいかない。


「わかりました。お願いいたします。」

「なら空母に移動しよう。シミュレーターは地上と空母にしかないんだ。」




「うわぁ…凄い。」


乗っている戦艦から空母に移動するため小型シャトルに乗り込んだスグルの目に宇宙を覆いつくさんばかりの大量の船が飛び込んできた。


「一体何隻集まっているんです?」

「護衛の本国艦隊3万隻とナイアースを母港とする第2艦隊の2万隻。それに周辺の星系に駐留している半個艦隊1万隻を幾つか臨時で組み込んだから優に10万隻はいるはずだ。護衛の輸送船に至っては100万隻は下らないはずだ。」


 そ、そんなに!?


「とんでもない数ですね。」

「そりゃ、ナイアースだけじゃなくてこのガガーリン星系在住の非戦闘員300億人全てを避難させるわけだからな。それくらいにはなるだろうよ。」


 300億人!!? 全人類の3割がこの星系にいるのか! それと今・・・


「ガガーリン星系?」

「この星系の名だ。知らなかったのか?」


 ガガーリンの名前は知っている。人類初の宇宙飛行士、「地球は青かった」で有名なその人だ。この世界にもガガーリンがいたのだろうか。もしそうなら、ある時間までは元の世界と共通の歴史があってもおかしくはない。

 でも、それなら尚更貨幣や家族という概念が存在しない理由がわからない。どちらも無くなるようなものではないはすだけど?


「あの、この世界の歴…。」

「出発します。シートベルトを締めて下さい。」


 スグルの言葉はパイロットに遮られた。

 慌ててシートベルトを締めたことを確認していると、もう出発した。

 ガコンと言う音と共に小型シャトルが船体から離れ、エンジンが唸って加速する。エンジンの音は宇宙空間のため聞こえないけど振動からそれがわかる。

 窓の外には無数の船。その中にマッチ箱みたいな船があった。


「大尉、あの四角い船も軍艦ですか?」

「あれこそが護衛の輸送船だ。もうちょっと一般常識に費やした方がよかったかな。」


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が一斉にプッと軽く吹き出している。そうかあれが輸送船か。言っちゃなんだけど本当にマッチ箱みたいな、大量生産前提の情緒も何もない形だな。それでもあの中のどれかにあの姉妹が乗っていると思うと一隻たりとて沈ませないという気持ちが沸いてくる。

 宇宙戦闘機の適性があるといいのだけど・・・。




「何ですかこれは?」


 空母に着いて、グラディエーターとやらを見た時のスグルの第1声はそれだった。

 無理もなかった。そこにあったのは、元の世界の空軍が使っている流線型の細く美しい機体でもなければ、スター〇ォーズに出てくる反乱軍のXウイングでもない。

 言うなれば機動戦士ガ〇ダムに出てくるボールだった。

 違いと言えば左右のアームが取り外され、上下左右全てにキャノン砲がついている。それくらいだった。


「ち、違う これは…ただのボールじゃ。」(ムスビ風)

「何を言っているんだお前は?」


 戦艦も戦闘機も、情緒もかっこよさの欠片もない。合理性を重んじ、大量生産に特化したそれを見てスグルは思わず叫ばすにはいられなかった。

 こ、これが憧れの宇宙戦艦と宇宙戦闘機とは…。アニメや漫画の主人公たちが羨ましくなってきた。


「早くシミュレーターに乗り込め。」

「…………はい(T_T)」。」


 しょんぼりしながらシミュレーターに乗り込む。

 中は狭いがシートはゆったりしていて座り心地は良い感じ。


「いいか、右足のペダルがアクセルだ。踏み込めばエンジンが始動して前に進む。踏み込むほどスピードが出る。停止させたい時はペダルから足を離す。左足のペダルで方向転換できる。ちなみに後進は出来ない。操縦桿にある赤いボタンで射撃。長押しするとチャージショットが打てるが、同じ戦闘機相手にはまず当たらない。固定目標か艦船を狙え。砲の向きは操縦桿で制御できる。どうだ、簡単だろう。」


 なるほど、複雑な計器類は極力省いて動かすだけならとりあえず誰でも出来るよう設計されているみたいだ。シート前面のキャノピーはそのままモニターになっている。色々データが表示されているけど今は意味まではわからない。


「もうアクセルを踏み込んでも?」

「いいぞ、しっかりな。」


 アクセルを踏み込むと機体が前に進んだ。初めて教習所で車を動かした時を思い出す。

 左足のペダルを右に動かすと機体も右に曲がった。さらに操縦桿を少し引くと砲が上向きになり、機体もそれに合わせて右斜め上に方向を変えた。おお! これは結構いけるかも。

 しばらく動かしてみる。上下左右がないため徐々に平衡感覚がおかしくなり始めた。機体がどこを向いているのかわからない。


「スグル、空間(くうかん)(しき)失調(しっちょう)に陥っているだろ。」

「…く、空間識失調?」

「機体の向きや進行方向がわからなくなることだ。宇宙空間は基本的に目印になるものがない。地上のように地面に激突する心配はないが、パニックに陥ってあらぬ方向に行き、燃料切れでそのまま宇宙葬になることもまれにおきるんだ。」


ええー!?(◎_◎;) やっぱり棺桶じゃないか!!


「だから落ち着いてモニターのレーダーを見ろ。そうすれば空間識失調に陥っても無事に母艦に戻れる。」


 言われた通りにモニターを凝視する。落ち着いて見るとこのモニター画面、昔遊んだエース〇ンバットの1人称視点によく似ているな。これなら!…。

 その後のスグルの成績は、初めて乗った人物としてはかなりの高成績だったと言える。流石に複数の敵に囲まれると撃墜されたが、1対1なら互角に渡り合えた。


「予想以上に良かったぞ。これなら出撃させても大丈夫だろう。」


 大尉はウキウキ顔だ。スグルにとっても意外な収穫だったし自信にも繋がった。


「急にシミュレーターを使いたいと言うから何事かと思いましたが、これは中々どうして有望そうな若者ですな。どうだ君、パイロットに転向しないか?」

「ちょっと、こいつは私が見つけたんですから奪われちゃ困りますよ。アデルバード大尉。」


 急に現れた無精ひげ生やしたこのおっさんは誰?


「アデルバード大尉。この大型空母74514号の戦闘機隊の隊長だ。」

「よろしく。君、中々見どころあるよ。よかったらうちに…。」

「だからダメだって言ってるでしょ。」


 年齢はアデルバード大尉の方が上そうだけど気軽に話せるのは同階級だからかな?


「お誘いは嬉しいですが自分はマグワイヤ大尉にお世話になっているのでそちらにはいけません。」

「そうか、義理堅いのは良いことだ。良い奴を見つけたなマグワイヤ。」

「まあな。っと、いけない。そろそろ出発の時間だ。急いで247に戻ろう。」




「へぇ! 戦闘機乗りの素質があるなんて凄いじゃないか!」


 母艦に帰り分隊の皆と合流するとジェイドさん、いやジェイド中尉は素直に褒めてくれた。


「優秀。」


 ギルダー中尉は表情を変えずに一言だけ。でも褒めてくれているのはわかる。


「シミュレーターで良い成績出して、初陣で張り切ってあっさり撃墜された奴は星の数より多いですぜ。そうならないようせいぜい気を付けな。」


 ダーム少尉は相変わらずか。でも言っていることは的を得ている。調子に乗っていたら本当に命取りになりかねない。


「スグル、基本は単騎で敵に当たることはまずない。最低限エレメント、つまり2機連携で事に当たる。エコー分隊だと今までは私とダーム少尉、ギルダー中尉とジェイド中尉が組んでいたんだがこれだと君が余ってしまう。」

「ならダーム少尉を単騎でやらせてみては?」

「何で俺なんですかい!? ジェイド中尉!」


 ダーム少尉が慌てるのもわかる気がする。シミュレーターでわかったが、ゲームやアニメのように単騎で大活躍なんてまず出来ない。無理だ。現に1対1なら何とかなったが、2機連携でこられたら逃げるのに精一杯で反撃する余裕は全くなく全敗した。これが現実だ。


「安心しろ、変則的に私とスグルとダームの3機編成で行く。」


 ダーム少尉、本気でホッとしている。良かったね。


「最も、我々が出撃することが無いのが一番だがな。」


 そう、自分たちは歩兵。本来は地上や宇宙基地と言った、地に足付けて戦うのが本業。もし出撃することがあればそれは危機的状況に陥った時のはず。そうなる前に何とかなる方がいいに決まっている。


「そろそろワープですね。」


 ジェイド中尉の言葉で再び胸がときめく。まさかこの身で人類の夢、21世紀では不可能なワープを体験できるとは!


「自室に戻って体とか固定しなくてもいいんですか?」


 皆ワープが始まるというのにのんびりしているな。


「ワープ時に体を固定って何時の時代だよ。」

「心配なら自室にいてもかまわないんじゃないかな。」


 ダーム少尉は呆れ顔、ジェイド中尉はなんか慣れたみたいな顔してません?

 そんなことを話しているとエンジンの振動が伝わってきた。船体が軽く震えている。


「おっ、いよいよだな。」

「エイアースまで無事に着けばよいのですが・・・。」

「なぁに、流石に何も起こらなんですよ。」


 大尉が時計を見、ジェイド中尉は道中の心配をしている。ダーム少尉、それフラグです。

 しかしそうか、いよいよか。ワープと聞いて身構えていたが、はっきり言って拍子抜けだ。まるで電車が走りだしたくらいの感覚である。これじゃ、シャトルのほうが余程緊張感がある。






 それから3日間は何事も起こらなかった。艦内にある射撃場で射撃訓練、空母にいってグラディエーターの訓練で1日はあっという間に過ぎていく。

 4日目のことだった。

 シミュレーターでグラディエーターの訓練をしていると突如モニターが真っ暗になり、直後にスピーカーから大音量で警告音が響いた。

 何事? と思っていると艦内放送にて


「緊急事態発生!緊急事態発生! 0.5光年先にダイナソーズの艦隊を発見! 戦闘態勢αを発令! 全グラディエーターは緊急発進! これは訓練ではない! 繰り返す、緊急事態発生!ダイナソーズの艦隊が接近中!!戦闘態勢αを発令、総員配置に着け!」


 ………え、マジ!??


「スグル、聞いた通りだ。いきなりだが初陣だ。シミュレーターから降りて本物に搭乗後、待機しろ。急げ!!」

「りょ、了解…!!」


 呆然としていると、モニターに大尉が映って指示を出してくれた。

 慌ててシミュレーターから降りて荷物を点検し、本物に乗ろうとするが…


「ど、どれに乗れば??」


 どれが自分の乗っていい機体かわからない。


「おや、君は確かマグワイヤのとこの。こんな所でどうした?」


 オロオロしているところにアデルバード大尉がやってきた。パイロットスーツに着替え、ヘルメットを持っているその姿は先日の飄々とした姿とは別の、歴戦の戦闘機乗りの顔に変化していた。


「アデルバード大尉、実は…」

「ふうむ、マグワイヤから聞いていたけど本当に変わっているんだな。いや、記憶喪失か。」

「? どういう意味でしょう。」

「1人のパイロットに専用の機体なんかないよ。皆それぞれ適当に、そこにあった機体に乗り込むんだ。要は早い者勝ちだ。」


 え!? そうなの。パイロットの癖に合わせて機体を調整するんじゃないのか?


「んなことやってたら機体がいくつあっても足りないよ。そもそも人に合わせていたら整備も大変じゃないか。機体に自分を合わせるんだ。」


 ガン〇ムとか見すぎたかな? てっきり専用の機体があるものとばかり。

 でもそれなら話は早い。アデルバード大尉にお礼を言って、本当に目の前の機体に乗り込んで機動させる。直後に大尉がきた。


「いいか、スグル。ギルダー達は母艦にいるため我々のみで出撃する。艦から離れたら接敵までは私の後ろにつけ。接敵後は自由に動いてみろ。それと出撃後は前言った通り、コールサインで呼び合う。いいな。」

「は、はい。了解です。それより接敵後は自由なんて…いいんですか?」

「色々考えたが、まだ編隊飛行も出来ない君に「私についてこい、離れるな」は、歩兵と違って流石に荷が重い。それよりもスグルが自由に動いて、私がそれを支援する方が生存確率は高くなる可能性が高い。」


 おいおいマジかよ。


「ここ3日間見てきたが動き自体は悪くない。自信を持て。」

「は、はい。」


 先に用意出来た機体がベルトコンベアみたいなのに運ばれて順次出撃していくのが見える。順番が近くなる事に心臓が早鐘を打つようになる。

 まさか、初陣を本業以外で経験することになるとは思わなかった。あくまでも念のための措置と思っていたのに。

 ついに自分の番が来た。ガコンと言う音と共に真空に投げ出される。アクセルペダルを踏み加速、方向転換して先に出撃した大尉に追いつく。この時点で一杯一杯だ。


『無事についてきているようだな。偉いぞエコー5。』

『あ、ありがとうございます。』


 なんとか大尉を見失わないようにしているとレーダーに反応が出た。


『くそっ! もう来たのか。エコー5、前方に敵機! 前に出て迎撃しろ!』

『りょ、了解…!!』


 アクセルペダルをさらに踏み込んで加速した直後に、向こうから光線が飛んできて敵機とすれ違った。一瞬見えただけだけど、敵機はどことなくティラノサウルスの頭みたいな形している。敵はダイナソーズと言っていたけどやっぱり姿も………。っと、いけないいけない。ボーとしている暇はない。一機たりとて艦隊にはいかせないし、まして輸送船には決して手を出させてはならない。

 Uターンして敵機を追いかける。照準に入れて射撃する。光線が綺麗な模様を宇宙に描くが、残念ながら外れた。もう一度と思って追いかけようとすると。


『エコー5、目の前の敵だけに捕らわれるな! 我々の目的は艦隊と輸送船の護衛。そっちに向かっている敵機を優先しろ!』

『っ! 了解です。申し訳ありません!』


 急いで艦隊の方に向かうとすでに対空砲火が始まっていた。いくつもの爆発が見える。

 既に損害が出ている模様だ。とりあえず敵機に群がられている味方艦を救うべくその中に突入、乱射する。撃墜できた機体はないけど敵機がばらけていくのがわかった。


『いいぞ! その調子だ!』

『大尉! でも、撃墜できたの1機もありませんよ。』

『それでいいんだ。撃墜できたかどうかは重要じゃない。さっき言っただろう、護衛が任務だと。何機撃墜しようと艦隊と輸送船が沈んだら意味がない。それでは本末転倒だ。それと大尉ではなくエコー1だ。』


 なるほど、ゲームでもいくら敵を倒しても目標を達成できなかったらゲームオーバーになる。それと同じか。

 その後、味方艦に取りつこうとする敵機を追い払うことに集中していると、向こうからなにやら巨大な影が見えてきた。


「何だありゃ? コモドドラゴン?」


 船の先端部分が、コモドドラゴンの頭部によく似た加工がされている船が多数接近してきている。


『エコー5、あれがトカゲ共の船だ。一発お見舞いしてみろ。』

『了解!』


 砲塔を敵艦にむけ、射撃ボタンを長押しする。砲の先っぽに光が集まり機体も僅かに震える。


「くらえ!!」


 アニメとかゲームだと、大きな音と共に威力の高いエネルギー弾が発射されるのだろうが、現実は音もなく光の玉が一直線に敵艦に向かい、当たって弾かれた。


「弾かれた!?」

『エコー5、シールドだ。人類の船も敵の船も基本シールドに守られている。1機の機体の1発のチャージショットだけじゃたいした効果は望めない。右前方に味方が攻撃している船がある。そちらに狙いをシフトしろ。』


 大尉の言われた通り、右前方に味方が群がっている敵艦がある。そちらに方向転換して同じように撃ってみると突如として敵艦が爆発し始めた。


『シールドさえ破れれば数機の機体だけでも十分なダメージを与えられる。次にいくぞ。』

『了解です。』


 崩壊していく敵艦を見ながら本当に今、宇宙戦争の中にいるんだといやでも思い知らされる。敵も味方もあの光の中でどれだけの命が散っているのか。考えたくない………。



 ガッシャン!!!!!


 ヴィーヴィーヴィーヴイーヴィー!!!!


 突如大轟音とと共に機体が揺れ、警告音がけたたましくなり始める。

 何が起こった!?? まさか、撃たれたのか!!???


『エコー5!! 大丈夫か! 応答しろ! エコー5! 応答しろ!!!』


 大尉の声が聞こえて少し安心する。どうやらまだ死んではいないらしい。


『エ、エコー1。こちらエコー5です。何が起こったんですか?? 俺どうなるんですか?』

『エコー5、落ち着け。流れ弾だ。狙われたわけじゃない。ただ、右の砲塔が吹っ飛んでいる。これ以上の継戦は危険だ。母艦に帰還しろ。大丈夫だ、俺が援護してやる。』

『エ、エコー5、了解。』


 ぼ、母艦。母艦はどこだ…。見つからない! い、いや落ち着け。訓練で言われた通りモニターのレーダーを…。あ、あった。意外と近い。これなら何とか……。

 心臓の音が警告音より大きく頭に響く。必死に母艦に向けて舵を切り、思いっきりアクセルを踏み込む。急加速して母艦に向かっていると、先のコモドドラゴンの形の船首をした船が味方艦に突っ込んでいくのが見えた。

 おいおい、艦船で特攻をする気かよ!!? とか思っていると。


「開いたぁ!!?」


 なんと船首のコモドドラゴンの口が開いてそのまま味方艦にかぶりつく様に突っ込んだ。


 なんちゅー戦法だよ…。呆然と見ていると後ろの大尉も驚いていたようで、


『信じられん、乗り込んでくるつもりか…。』

『乗り込んでくる?』

『トカゲ共の船は、相手に乗り移れるように見ての通り船首が特殊な形をしている。しかし、今まで宇宙基地といった固定目標への乗り移りは何度かあるが、船への直接侵攻は聞いたことが無いし経験もない。一体なぜ?……』

『よう、マグワイヤ。相方が被弾しているが大丈夫か?』


 突如として通信に割って入る声が聞こえてきた。この声は…アデルバード大尉?


『シルフィード1。見ての通りだ、今忙しい。相手をしている暇はない。』

『そう言うな。被弾しているのはあの坊やだろう。構いすぎて自分の後ろが疎かになってるぜ。援護してやるよ。』

『シルフィード1。そっちの僚機はどうした?』

『こっちの僚機も被弾したんで帰らせた。相方がいなくなってどうしたもんかと思ってたところだ。そこの坊やを送ったら組んでくれ。あんたは下手なパイロットより腕がいい。』

『シルフィード1。了解だ。少しの間後ろを頼む。』

『まかせろ。しっかしトカゲの奴ら、何考えてんだ? 流石にビックリしたぞ。』

『ああ、こっちもだ。』


 戦場を見渡すと他にもかぶりつかれている船が幾つか見える。そんな光景を見ていると。


『エコー5、聞こえるか? こちら空母74514管制。こちらの受け入れ態勢は整った。スピードが出すぎているぞ。減速せよ。』


 突如として声をかけられた。いつの間にか空母が目の前にある。


『空母74514管制、こちらエコー1。受け入れ態勢完了の旨了解。エコー5、聞いたとおりだ。減速しろ。』

『りょ、了解。』


 言われたとおりにスピードを落として空母に近づく。近づくにつれて緊張して腕が震えてくる。もし操縦を少しでも誤ったら………


『大丈夫。十分近づいたらシミュレーターと同じく艦の方が捕まえてくれる。落ち着いて操縦しろ。』

『俺の母艦に突っ込みやがったら、後で俺がお前に突っ込むぜ(^^♪』

『おい(# ゜Д゜)シルフィード1!!』

『………了解(-.-)』


 緊張していたのに一気に気が抜けた。でもそれがよかったのだろう。無事に母艦に着くことができた。


『エコー5。先ほどの通信を聞いていたと思うが、私はシルフィード1と空対空戦闘を継続する。戦闘が終わるまで空母74514で大人しくしているように。』

『エコー5、了解しました。』


 こうしてスグルの初の空戦は終わった。しかし戦闘が終わったわけではない。この後、さらなる試練が待ち受けていたのである。




 機体から降りてしばらくすると艦内が慌ただしくなってきた。皆が窓の近くにいるので何事かと思って見に行くと。


「おい! 突っ込んでくる! 突っ込んでくるぞ!!」

「ちくしょう! よけろよけろ!!」

「操舵手は、何やってんだよ!!」


 見ると敵艦がこの空母目掛けて一直線に突っ込んでくる! ぎょっとしている間にもう突っ込まれた。


ドッガン!!!


 先の被弾と同じくらいの轟音と共に、艦が震える。警告音が鳴り、艦内放送が敵が乗り込んできたことを知らせた。


「乗り込んできたぞ!!」

「どうすれば、どうすればいいんだ?」

「あほ! 迎撃するに決まっているだろうが! 銃を持ってこい!」


 まずい! この船は空母なため、乗組員はパイロットと機体の整備員とが大半だ。無論、戦闘は可能だろうが、基本乗り込まれることを想定しての訓練なんてしていないに違いない。

 スグルは慌てて自身の銃を取り立ち上がった。支給された遊撃隊の戦闘服がパイロットスーツとしての機能も持っていたので着替えなくてもいいのは正直助かった。


「迎撃します! 敵はどっちですか?」

「遊撃隊か! 助かる、向こうだ。」


 近くの人に声をかけて案内してもらう。

 現場に着くと既に銃撃戦が始まっていた。装甲服ではなく、簡易の宇宙服を着ている整備員たちは苦戦している。何名かは既にやられてしまったのか、ピクリともせず宙を漂っている。


「うぉぉぉぉぉぉ!!」


 訓練で習った通り銃のサイトを覗いて射撃する。無重力なので微妙に狙いがつけにくい。叫ぶ必要は特に無かったと思うが自然と声が出た。それは思わぬ効果を生んだ。


「遊撃隊? なぜこんなところに?」

「今はそんなことはどうでもいい! 助かった!遊撃隊だ!」

「遊撃隊がいる! トカゲ共と戦えるぞ!」

「ありがとう!ありがとう!」


「ど、どうも…。」


 そ、そんなに遊撃隊て人気なのか? いや、最初の講義で防衛隊から10人に1人しか選ばれない精鋭と聞いた。つまり、彼らから見れば戦闘のエースが来てくれたと思ったのだろう。どうしよう、ド素人なんて言い出せない。


「敵はどれくらい侵入していますか?」

「わかりません、希望的に見ても、数百体は優に乗り込んできているはずです。」

「ブリッジ(艦橋)は大丈夫ですか?」


 艦の心臓部たるブリッジが占領されたらお終いだ。


「隔壁を閉鎖していますから、直ぐにどうこうはないはずです。ですが、いつまでも持ちこたえられるかわかりません。艦の大半が占領されたらどの道お終いです。」

「わかりました、急ぎましょう。私が前に出ますから、後ろから援護してください。」

「了解です!! よろしくお願いします!」


 装甲服を着ている自分が前に出れば、少しは彼らの死亡率を減らせるはずだ。ここまで来たら腹をくくるしかない。通路の影を飛び出て敵のいる方に向かって射撃する。凄まじい銃撃戦が始まった。

 スグルは必死に戦った。敵を倒せたかどうかはよくわからなかったが、後ろの味方の援護もあって、しばらくすると敵が撤退していくのが見えた。しかし、まだ一部だ。

 整備班の面々を伴って艦内の各地を転戦する。途中で倒れている敵を見かけた。纏っている宇宙服を覗いてみると…


「…海イグアナ?」


 その頭部は海イグアナによく似ていた。無論、地球にいるそれとは大きさが違う。身長は2Mを優に超えている。まだ息があるのか口が僅かにパクパク動いていた。


「…………………母さん……」

「…えっ!!!??」

「どうかされましたか、少尉殿?」

「い、いえ…何でもありません。次へ急ぎましょう。」


 気のせい……だよな………。

 一体どれくらいの時間が経ったのかわからない。最後の予備の弾倉も使い切りかけた頃、艦内放送で敵が全面撤退したことを知らせてくれた。

 敵が撤退したと聞いた瞬間、全身から力が抜け、一気に疲労が押し寄せてきた。

 握っていた銃すら手から離れ、その場で無重力に身を任せるままになる。


「だ、大丈夫ですか! 少尉殿!」

「だ、大丈夫です。少し疲れただけです。」

「肩をお貸しください。休憩室までお連れ致します。」

「ありがとう、助かります。」


 休憩室に着き、水を一杯もらうと、そのままスグルは不覚にも寝てしまった。

 こうしてスグルの初陣は幕を閉じた。


主人公たちの着ている装甲服は、HALOのマスターチーフ、DOOMシリーズのドゥームスレイヤーみたいなものを想像して頂けたらいいです。

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