第3話 噛み合わない認識
「・・・・・・・・・何なのだ? と言われましても・・・。」
いや、実際「何なのだ」ってなによ「何なのだ」って。何者だ?とか何処から来た?という質問を想定していたし、嘘を言うつもりもなかったのに初っ端から面食らってしまった。
そんな優の様子を見て軍人は頭をボリボリかきながら次の言葉をかけてきた。
「困惑させる意図はなかったんだがね。実際君の素性が全く分からないからこう聞くしかない。現在と過去の国民表を照らし合わせてもヒットしない。これだけでも相当なのに遺伝子データベースにも存在しないなんて異常すぎる。敵の破壊工作員かと警戒して肉体を徹底的に調べ上げたら間違いなく人間で、それどころか遺伝子改造の形跡もない。この時点で君はあり得ない存在になった。だから何なのだ?と聞いたんだ。」
( ^ω^)・・・色々意味不明な単語が出てきたぞ。どう反応すればいいんだこれは? 国民表や遺伝子データベースは何となく想像がつくが、一番の問題は敵の工作員と疑われていることだ。そのために眠っている間に色々調べられたらしい。敵という単語が出てきた以上、彼らが何らかの勢力と戦っているのは間違いない。とすればここから先は迂闊な行動はとれない。下手したら銃殺なんてことになりかねない。
「聞きたいことや知りたいことがこちらも山ほどありますがとりあえず自己紹介からはじめますね。自分は銅優と言います。年齢は25。出身は東京で育ちも東京。実家は・・・で、家族は・・・地元の小中高校に充当に進学して・・・大学卒業後にIT関係の会社に就職・・・で、いつも通り寝て目が覚めたら急にあなた方とあの緑の化け物が戦争している場に放り出されていたんです。こちらとしても何が何だかさっぱりです。」
30分以上は話していただろうか。その間、軍人は腕組みしながら黙って聞いていた。話が終わってしばらくしても、口をへの字に曲げったまま黙っているので内心ビクビクしながら次の言葉を待つ。
「ここがどこだが知っているかね?」
唐突に話が飛んだ。
「ここですか? 窓から見た景色が日本のどこにもみられない荒野だったので海外、それも未来の地球じゃないかと想像しています。」
笑われることを覚悟で正直に自分の推理を話す。しかし軍人は笑わなかった。それどころか
「地球…ね。」
と一言呟いただけだった。何だってんだい一体。それならこちらも
「先ほど自分を敵の工作員と疑っているとおっしゃいましたよね。やはりあの緑の化け物とあなた達は戦争状態にあるということですよね? せめてその辺を詳しく教えてくださいませんか?」
一番気になっていることを聞く。
「ふむ…皆、ご苦労。下がっていいぞ。この銅優と名乗る人物は私が預かると上には伝えてくれ。あと車の手配を頼む。」
「「「はっ、了解であります。」」」
突如として軍人の後ろのカーテンがザッと開き、3人の新たな軍人が現れた。
気付かなかった。そう言えば病室を出る時、この部屋には自分以外に誰もおらず、どこのベッドのカーテンも全て空きっぱなしだった。しかし部屋に帰ってきた時、優が寝ていた隣のベッドのカーテンは閉まっていた。特に気にも留めていなかったが、そこには追加のメンバーが控えていたわけだ。迂闊な言動をせず正直に話したのはこの場合正解だったか。
「さて、優と言ったな。とりあえず退院しようか。」
こっちの質問を無視して話を進めるつもりらしい。さりとてこっちに選択肢があるわけでもない。だが問題が…。
「あの・・・退院したいのは山々なんですが自分は財布を持っていません。入院費はどうすればいいんでしょうか? 支払いは待っていただけるので?」
こちらの当然の質問に軍人は怪訝な顔をして首を傾げている。そんなに変な質問か?しかし次の言葉に優はいよいよ驚くことになる。
「入院費?支払い? 何だそれは?」
・・・・・・・・・は?
「え? いやいや、治療してもらって入院してさっきご飯も食べてるんだから、それ相応の費用が掛かっているでしょ!その支払い、えーとお金のことを言っているんですよ!?」
しかし、軍人には伝わらない。首を振りながら
「悪いが君の言っている意味が私にはわからない。人が病院で治療を受けて対価として何かを差し出すなんて聞いたことが無い。君がどこから来たのか知らないがここではそんな風習はない。とりあえずついてきてくれ。君の質問にも外でならいくつか答えられるだろう。今はほとんどいないが一応ここは病院なんでな。少なくとも肉体的に健康になった人間がいつまでもいていい場所ではない。」
・・・・・・・・・どういうこと? ( ゜Д゜)こんな顔になりながらも軍人の後をついていく。病院の玄関を出るとジープらしき車が待っていた。先の3人の内の一人だ。スキンヘッドが眩しい。乗り込んで腰かけると直ぐに出発した。
「うわぁ!何!浮いた!」
出発した瞬間車が浮いた。タイヤはついていたと思うが? いきなりのことに驚いて思わず大声を上げる。
「そんなに驚くことかね? 車に乗るのは初めてか?」
軍人が大声を上げる優に呆れるように声をかける。いや、車に乗るのは慣れてますよ。プライベートではともかく、仕事で社用車よく使ってますよ。運転だってそこそこ自信ありますけど。しかしまさか未来の乗り物である空飛ぶ車に乗れるとは。。。中々貴重な体験…じゃなくてやっぱりここは未来の地球なんだろうか? だけどそれならお金の意味が伝わらない理由がわからない。やっぱ異世界?
「そら見えてきたぞ。もうすぐ着く。」
そんなことを考えていると軍人から再び声をかけられた。外を見ると確かに荒野の中にいきなり都市が現れた。その様は華やかではないラスベガスみたいな感じか。
「ナイアース最大の都市、エンダーブルグだ。」
エンダーブルグ?聞いたことが無い都市だ。それよりも何ていった?ナイアース?まさか・・・。
「ナイアースって・・・国の名前ですよね?」
「そんな訳ないだろう。星の名前だ。今私たちのいるこの星の名だ。」
・・・! いやわかっていた。ナイアースなんて国聞いたことが無い。わかっていたんだ。それでも自分が地球上でもない完全な異世界に来たと信じたくなかった。体から急に力が抜けてくる。この先どうなるんだろう・・・。
「とりあえず宿舎に付いたら色々説明も出来るだろう。3日後にエイアースへの便が出る。そうしたら安全な後方だ。そこで良い医者に診てもらうことだ。」
軍人の後半の言葉を優はほとんど聞いていなかった。