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人類存続機構  作者: 青山
21/50

第21話 告白

 翌日の昼、スグルは独房から解放された。しかし、まだ完全な自由にはなれない。解放される際に監視が付くと聞いていたがその監視がまだこちらに着いていないとのことだった。

 

「まだですか? その監視とやらは?」

「今しがた戦艦に到着したそうだ。もうしばらく待て。…………座るんだ。」


 コーデル大佐がウズウズしているスグルをたしなめる。

 さらに待つこと5分。扉が開き、同時に元気な声が部屋に響く。


「失礼いたします! アグノーラ准尉! 監視対象2651463の監視のため本日着任いたしました!!」

「……………。」

「ご苦労。アグノーラ准尉、これより監視対象2651463の監視に当たれ。不審な動きや言動は全て報告せよ。以上だ。」

「はっ! 全力を尽くします!!」


 淡々と引き継ぎを行うコーデル大佐の横でスグルは唖然としていた。


「あの…、大佐殿。この方が私の監視担当ですか?」

「…そうだ。何か不都合でも。」

「不都合といいますか……。」


 もう一度アグノーラ准尉を見る。

 ………どう見ても………。いや、この世界では見た目に騙されてはいけないんだった。

 

「失礼ですが…お歳は? ちなみに私は25です。」

「むっ、レディに歳を聞くとは失礼な人ですね。ですが…自らの年齢を明かした以上はこちらも応えるべきでしょう。聞いて驚け、15です!」


 歳を聞いてさらに驚いた。冗談でしょ!? 自分より10歳年下に監視されるの!?? しかも…。


「何ですか? 耳がそんなに珍しいですか?」


 そりゃそうだよ! なんで…何で……なんで、でっかい猫耳着けているの、この子!???

 

 現れたスグルの監視任務に付くというアグノーラ准尉。彼女の頭には普通ではありえないものが。猫耳が付いていた。




「解放祝いに乾杯! ……とは…いかないようだな………。」


 釈放後に早速、エコー分隊のメンバーが祝いの宴会を開いてくれた。

 しかし、手放しで喜べる状況ではない。原因は無論…。


「何だってこんな監視に付くんで? 疑いは晴れたんじゃねえのかよ?」


 そう、監視のアグノーラ准尉の存在だ。


「お嬢さん、私と一晩どうですか?」

「……よせ、ジェイド。」


 ジェイド中尉が早くもお誘いをかけ、ギルダー中尉にたしなめられる。


「スグルさん! 監視が可愛いからって、篭絡しようなんて考えちゃ駄目ですからね」

「するか! てかミーモ! なんでまだここにいるんだよ?」

「…………騒がしい人達ですね。」


 なんで、さも当たり前のようにミーモがエコー分隊に混じっているんだ?

 

「解放されないんだからしょうがないじゃないですか。そう邪険にするもんじゃないですよ。ジャーナリストは特に。」


 脅迫かよ。いや、こいつの常套手段だったな。だが、この世界では浮気や不倫なんて概念はない。醜聞を書けるものなら書いてみろってんだ。


「【落ちた英雄。救世主は実は滅亡主義者だった!? もしくはエイリアンの端末か!? 不明すぎる経歴、その正体は!】実に民衆受けしそうなタイトルです。」


 あっ!? ずるい。こっちの痛い所を付いてきやがった。


「へいへい。どーもすみませんでしたね。」

「フフン、素直でよろしい。」


 今の反応のどこに素直要素を見出すのか!? いや、ニヤニヤ笑っているからわかってやっているな。まったく、どこまでも食えない兎だ。

 

 

 

 結局、その日は軽く一杯交わすだけで終わってしまった。皆が帰った後はPCに向かう。自分のために嘆願を行ってくれた人達にお礼の手紙を出すためだ。

 正直、一時任務で交わっただけの人達が自分のために嘆願を行ってくれるなんて思ってもみなかった。ほとんど接点がないのに動いてくれたのは、やっぱり大尉の影響も大きいのだろう。例えそうだったとしても、礼を欠くようなことをしてはならない。一人PCに向かいカタカタとキーボードを打つが…。


 じー。

 カタカタ。

 じー。

 カタカタカタ。

 じーー。

 カタカタカタカタ。

 じーーー。

 カタカタカ…


「ええーい。鬱陶しい!」

「なっ!? 鬱陶しいとはなんですか!」

「どうしたもこうしたもないよ! んな近くで見張る意味ないでしょ! 第一、なんで同じ部屋にいるんですか!」


 そう、監視役のアグノーラ准尉がスグルのすぐ近くで、というよりも肩越しにこちらの作業内容を見ているのである。内容はただの御礼の手紙であるため見られても何の問題もないが、ほぼ密着状態でこちらを見張られていい気はしない。

 微妙になんか良い匂いが漂ってくるし……じゃなくてとにかく鬱陶しいことこの上ない。


「あなたの一言一句、一挙手一投足全てを監視するのが私の務め。妨害するならまた独房に逆戻りですよ。」


 フンスッと鼻息を荒くして両腕を腰に当てて仁王立ちするアグノーラ准尉。

 改めて彼女をマジマジと見る。

 赤いモコモコ髪から大きな猫耳が覗き、エメラルド色の目はどこまでも透き通っている。

 顔は幼く、背も150㎝くらいでそんなに大きくはない。基本的には寸胴ボディだが僅かに出っ張り始めた胸がこれからの成長を予感させる。

 間違いなく美少女と言って差し支えないだろう。この世界の女性は基本的にレベルが高いのでその中では埋もれてしまうかもしれないが、元の世界だったら確実に芸能界からスカウトが来るレベル。


「なんですか。マジマジと見つめて。言っておきますが階級は准尉でも私の方が立場は上です。それに、女性だからと言って力が劣るとはゆめゆめ思わないことです。何せ私は最新型ですからね。」


 ドヤ顔をするアグノーラ准尉。でも、スグルはほとんど聞いていなかった。気になるのはやはり…。


「ミーモと言い、君と言い。ケモ耳のカチューシャつけるのが最近は流行っているのかい?」

「………はぁ?」


 スグルの問いにアグノーラ准尉はキョトンとしている。そんなに変な質問だったかな?


「いや、その耳。カチューシャなのにどうやって動かしているのかなって。」


 この質問で、ようやくアグノーラ准尉は意味を理解したようだ。しかし、アグノーラ准尉の返答は思ってもみないものだった。


「これはカチューシャじゃなくて自前ですよ。後天的に付けたのではなく最初からそう設計されたんです。」


 自前!? と言うか設計された? 

 困惑するスグルにアグノーラ准尉は驚愕する話を教えてくれた。


「一般の人はあくまでもアクセサリーの一種。オシャレとしてケモ耳を付けることが数年前から若い人の間で流行りだしました。ですが、私は違います。受精卵の段階でネコの遺伝子を入れて、その身体能力を獲得することに成功した最新型の人類です。この耳はその証拠です。」


 なんと!? ケモ耳って後天的に付けることが出来るのか!? じゃあミーモのあれもそうなのか? でも奴らに対峙した時の彼女のパワーは本物だった。自身でも兎の脚力を舐めてもらっては困ると自慢していた。という事は彼女の耳はオシャレではなく本当に兎の力を得ていることになる。

しかしである。彼女は確か齢70を超えていた。もし、この子のいう事が本当なら彼女は50年以上前にその改良手術を受けていることになる。この子は自身を最新型だと言っているが、それだと計算が合わないが…?


「君はミーモと言うアナウンサー、記者を知っているかい?」

「さっき分隊の飲み会にいた方ですよね。もちろんです。彼女は有名ですから。」

「彼女にはうさ耳があるけど、オシャレではなく本当に兎の力を得ているようだったよ。 彼女は君よりずっと年上だ。君が最新型というのは理屈が合わないように思えるのだけど?」

「…ああ、彼女は記者なりたての頃に事故に遭いました。恐らく、その際に治療兼遺伝子注入手術を受けたんでしょう。当時はまだ別の生き物の遺伝子を人に掛け合わせた際の副作用が未知の段階でしたからね。彼女のおかげで多くの治験が進み、この分野の知識が深まるなど大きな貢献を果たしました。自らを人体実験同然の治験に差し出すなんて普通は出来ません。このエピソード一つとっても彼女がいかに凄い人物か、わかりましたか。」


 なぜ君がドヤ顔をするのか? しかしそうか。彼女は後天的に兎の力を得てあの姿になったのか。…だとしたら、どうしてそれは男に施されていないんだ? 兵士として戦う運命にある男こそ必要な力なはずだが?


「今、どうして男性に手術が施されていないのか。考えていたでしょう。」

「………君、エスパーの力も得ているの? 自分が知る限り、そんな事ができる生物はいないはずなんだけど…。」

「エスパーもヘッタクレもないですよ! 思いっきり顔に考えていることが出てますよ! いいですか、この分野はまだ研究段階で分からないことも多いんです。その一つが何故か男の人には上手く遺伝子が結合しない事です。本人自身の遺伝子はいくらでも弄って強化できるのに、何故か他生物との遺伝子融合が上手くいかないんです。それはオシャレ目的の物であってもです。」


 へえ、そうなんだ。この世界に来て疑問がすぐに解決したのってこれが初めじゃないかな?

 

「なんですか、また人の顔をじっと見て。…まさか変な事を考えているんじゃないでしょうね!」


 ファイティングポーズをとり、シュッシュッと拳を突き出してくる准尉。…可愛い。


「…ごめん、本物かどうかちょっと触ってみてもいい?」

「な、なんですとー!??」


 万歳しながら目をまん丸くし、栗みたいな口を大きく開けて驚く准尉。

 正直、後から考えるとこの申し出は変質者と罵られても文句が言えないものだったとおもう。それでも、人の頭に生えた猫耳というワードに逆らう事は出来なかった。元の世界ではファンタジーでしかなかったケモ耳娘が目の前にいるのだ。これはさわって確かめるより他はない。


「ちょっとだけだから。」

「…本当に?」

「ほんとほんと。」

「…す、少しだけですからねっ!」

「わかったわかった。」


 両手で彼女の猫耳に触れてみる。つけ物ではなく本当に頭から生えている。柔らかいその感触は、本物の猫のそれと変わりない。


さわさわ

「…っん。」ピクッ

さわさわさわ

「んんっ。」ピクピクッ

さわさわさわさわ

「んんんっ。」ピクピクピクッ

モミモミモミモミモミ

「んああっ! って…何するんですかー!」


 怒った。うん、そりゃそうだよな。でも今は十分に堪能した。これで十日は戦える。


「ごめんごめん。つい。」

「この事は、ちゃんと報告させてもらいますからね!!」

「はいはい。」


 この子、反応がいちいち面白いな。監視されるのはもちろん愉快ではないのだが、この子なら少なくとも退屈はしなさそうだ。

 それにしても、アクセサリー感覚でケモ耳かあ。ちょっと意外だな。この世界、SEXとお酒ぐらいしか娯楽がないと思っていた。久しぶりに人間らしい、文化らしき物に出会って少し嬉しくなる。作ったテトリスは消されちゃったし、ちょうどいい。定期的にモフらせてもらおう。

 スグルは新しい玩具をもらった子供の頃の気分を味わっていた。




 翌日、エコー分隊とミーモにようやく上陸許可が下りた。

 待ちに待った休暇だ。エコー分隊とミーモ、それと監視のアグノーラ准尉用に特別に用意されたシャトルで空港に降りるやいなや、年甲斐もなく皆はしゃいでその場で解散となった。

 スグルはもちろん、シャーロットに直行した。G79c基地への寄り道や拘束、尋問で一週間も余計な時間を取られてしまった。T46基地奪還のためエイアースを発ってからもう一か月以上経っている。とにかく早く3人に会いたかった。

 シャーロットに飛び込んだスグルを3人は一瞬、幽霊でも見るかのような目付きになった。が、次の瞬間にはミカエルとガブリエラの姉妹が揃って抱き着いてきた。


「スグルさん!」

「スグル!」

「2人ともごめんよ。遅くなった。ママもお久しぶりです。すみません、もっと早く帰ってこられる予定だったんですが…。」


 2人を抱きしめながらママに話しかける。ママもニカッと笑って親指を立てて返してくれた。

 正直、自分の家に帰ってきたような安心感がある。帰れる場所がある。元の世界では当たり前だったことがこんなにも嬉しいとは。ア〇ロの気持ちが今だったら痛いほどよくわかる。


「ふむふむ、なるほど。ここがあなたの家ですか。メモメモ。」

「スグル、こいつは誰だ。」


 そして、同時に持って帰りたくない。余計なものまで持ってきてしまった。言わずもがな、アグノーラ准尉である。ミカエルがそれに気が付いてしまった。


「こいつとは失礼な。私にはアグノーラというちゃんとした名前があります。」

「スグルさん、この方はどなたですか?」


 見るとガブリエラの目からも光が失われている。口元は笑っているけど目が笑っていない。ミカエルに至っては露骨なジト目。これはまずい。


「浮気?」

「違います。これは五階が六階です。」

「年相応の御若い印象ですけど、スグルさん。そういった趣味だったんですか?」

「ガブリエラ。いや、本当に違うんだ。これには深い事情があって…。」

「そうですよ。お二人とも。この人は私を慰み者にしたんです!」


 おぃいぃぃぃぃ!! なに言っちゃってんの! この子!!


「いつ、慰み者にした!?? そんな覚えないぞ!!」

「私で遊んだじゃないですか!!」

「人聞きの悪い事言うな!! 耳を触っただけだろうが!」

「嫌がる私を無理矢理喘がせたくせに!!」

「許可取ったでしょ!!」

「「許可を取った!?」」


………あ、しまった。


「い、いや今のは言葉のあやで…。本当に違うんだ!!」

「スグルさん。」

「スグル。」


 ひぃぃぃぃぃ! 2人の後ろに鬼が見える。ゴゴゴゴゴゴゴとかいう効果音も聞こえてくるし。そんな、あんまりだ! やっと再会できたと思ったら、こんなところでBad Endなのか!??


「「サイッテイ!!!」」バチーン!!!

「ひでぶっ!!!」


残念、スグルの冒険はここで終わってしまった。


END




















「2人ともそこまで。というか本当はわかっておるじゃろう。」

「「ママ。」」


 両方の頬に綺麗に一発ずつもらったところで、ママが仲裁に入ってくれた。


「その子の制服。査問隊じゃな。帰りが妙に遅いと思うとったら、どうにも厄介な事態に巻き込まれたようじゃな。」


 流石はママだ。冷静に事態の分析を行ってくれる。


「そうなんです。実は…。」

「お待ち。顛末を聞くのは後でも出来るじゃろう。今はスグルの無事を祝おうではないか。そこのおチビちゃんもお座り。何か好きな飲み物とかはあるかえ?」

「結構です。仕事中ですので。」

「そうかい。でも、水くらいならかまわんのじゃろう?」

「まぁ、それくらいなら…。」


 アグノーラ准尉も席に座り、ようやくまともに話せるようになった。


「何はともあれご苦労じゃった。ニュースでもやっていたからある程度は知っておるが…各地で獅子奮迅の活躍だったそうじゃな。特にΔ戦線の崩壊を防いだ英雄として紹介されておるぞ。」

「恐縮です。当たり前ですけど私一人の戦果ではありませんよ。エコー分隊、現地の部隊の皆が動いてくれた結果です。私は単にきっかけを作ったに過ぎません。」

「そのきっかけを作るのが難しいんじゃがのう。…さて、出来たぞい。ほれ、スグルの無事を祝って…乾杯!」

「「「「「乾杯!!!!!」」」」」


 スグルとママはビール。まだ未成年のミカエルとガブリエラはアセロラドリンク。そして…。


「…水ではないのですか?」

「ん? ああ、レモンジュースにしといたんじゃが…駄目だったかの?」


 ちゃっかり乾杯に混じっているアグノーラ准尉。君、仕事中じゃないの?


「…いえ、ありがとうございます。……美味しいっ。」


 礼を言ってからストローに口をつける准尉。飲んだ瞬間、耳がピンッと立って弾けるような笑顔を見せた。そう言えばこの子の笑顔は初めて見るな。中々可愛い…じゃなかった。はい、普通ですね。よくある顔ですね。

 2人の視線を感じて慌ててニヤケそうになる顔の筋肉を引き締める。

 これ以上、余計な誤解を招きたくない。




「ムニャムニャ、もう食べられないよ…。」

「仕事で来とるんじゃなかったんかね? この子。」


 結局、アグノーラ准尉はそのままスグルの帰還祝いの食事も皆に混じって美味しく頂いて、ついにはカウンター席に突っ伏しながら寝てしまった。ミカエルとガブリエラはもちろん、ママも若干呆れ気味。


「そのはずなんですが…。」

「仕方がないのう。2階の寝室にお布団を敷いて寝かせてあげんしゃい。」

「はぁ、わかりました。」


 ママに言われて准尉に手を伸ばそうとした時、ミカエルとガブリエラがそれを遮った。


「スグルさんはお疲れでしょうから。お疲れでしょうから、この子は私達が寝かせてきますね。」

「そうだな。服も着替えさせなきゃならないしな。」


 なんだか2人が怖い。ガブリエラ、なんで「お疲れでしょうから」を2回も繰り返したんですか? ミカエル、そんなに睨まないでくれ。本当に何もないんだ。


「で、本当のところ何が起こったんじゃ?」


 2人が准尉を2階に上げている間に、ママが事情を聞いてくる。


「何も起きていませんよ。彼女は本当に監視目的で付いてきています。」

「そんなことはわかっとる。そこを心配はしとりゃせん。ニュースで大々的に英雄と喧伝されて、帰ってきたら査問隊の監視付きなんて普通じゃありゃせん。一体何があったんじゃ?」


 スグルは出来る限り説明した。G79cでの出来事、報告書を提出したら拘束されたこと。

 流石のママもG79cからエイアース到着までのことには顔をしかめていた。

 聞き終わると開口一番に意外な事を言われた。


「機械化の推進とロボットの導入のう。ワシはそこまで悪い事ではないと思うがのう。」

「えっ!?」


 エコー分隊の皆ですら難色を示したこの案に、まさか理解者がいてくれるなんて。あやうく持っていたグラスを落としそうになったぞ。


「実際に全て人の手で行っておるから非効率になっているところもあるからのう。知っておるかね。この国では書類の審査といった事務仕事はもちろん、ネジ一本とっても全て手作業で作り、さらにはバルブの開閉も全て人の手で行っておる。一つのバルブに一人の人間がつくんじゃ。こんな人材の無駄遣いはないと何度思ったことか。」


 なんと!? 機材一つ作るのにも全て手作業で作っているだと!? それにバルブ一つに一名の作業員だなんて…どうりで船やシャトルの乗組員が多いはずだ。


「それにロボット兵の導入。これも今の人類の状況を考えればあながち馬鹿には出来ん。スグル、今の人類の人口と軍の兵力は知っておるかね?」

「人口は1000億人、兵力は100億人と大尉から習ったことがあります。」

「なら話が早い。その1000億人の人口の内訳、男女比率を知っておるかね。」

「…いいえ。」

「1:4じゃ。1000億人の人口のうち、男は200億しかおらん。なにせ、男は戦争にいくじゃろう。女性の平均寿命が120、中には150まで生きた人物もおる。たいして男性のそれは40でしかない。比率がおかしくなるのも当然じゃろうて。」


 ………はぁー!?? な、なんだその比率は?? それだけ男女の人口に差があったら、なにをどうやっても一夫一妻制なんて維持できない。い、いやそんなことよりも既に100億近い男性が兵役に従事している訳だから残りは………………………嘘だろ!???


「理解したようじゃな。そうじゃ、既に男の半分は兵士として戦っておる。このままでは将来的に兵士が不足するのは目に見えておる。それゆえ兵力不足を補うために女性を徴兵する案も出てきておる。」


 なんだと!?? まさかそれって…。


「ミカエルとガブリエラも、徴兵対象になるかもしれないってことですか!」

「いんや、彼女達はそうはならんじゃろう。むしろ…あの准尉が危ないじゃろうな。」


 え? アグノーラ准尉が? でも、言われてみれば彼女はネコの遺伝子を入れて作られた最新型とか言っていたな。まさかあれって。


「あの子の遺伝子操作は見せ掛けのオシャレ目的ではないと見るぞ。恐らく戦場に投入するための試験体と見るべきじゃろう。査問隊なのはあくまで腰掛け。最低限、人相手に通用することを確かめるためじゃろうな。十分、戦闘に耐えうると判断されたら最前線に回されるかもしれん。」


 …准尉が戦場に? あんな15の女の子が? …とても想像できない。いや、したくない。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「戦争で殺し殺され、傷つけ傷つけられ、仲間の死やトラウマといった業を背負うのは大人の男の特権であるべきだ。本来、そうでなくてはならないのだ!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 大尉に兵士になることを誘われたあの日。女性兵士の話になった時に、大尉が急に熱く語りだしたことを思い出す。まさか、このことだったのか。兵力不足に悩む人類は、ついに女性まで徴兵しはじめたのか。

 思わず天井を見上げて准尉の姿を想像する。あの子があの過酷な戦場で地や泥に塗れ、傷ついている姿を想像するだけで胸が苦しくなってくる。

 出会って二日しか経っていないが、彼女の純粋さは十分に知っている。遺伝子改良を受けたと言っても、やはりそこは15の女の子。戦場に送るなんて正気とはとても思えない。


「具体的にはどれくらい進んでいるんですか?」

「女性を戦場に送ることに忌避感を持つ者は男女関わらず多いと聞く。すぐすぐに大規模な徴兵とはならんじゃろう。じゃが、兵力不足は如何ともしがたい。その内押し切られるかもしれん。」

「なら、なおさらロボット兵の導入は都合がいいじゃありませんか? なんで駄目なんです?」

「そう思うじゃろう。じゃが無理じゃろうなぁ。なにせ………」

「もう! 暴れるから着替えさせるのに時間がかかりましたよ!」

「むっちゃ生意気。放り出す?」


 ママが理由を言いかけたところでミカエルとガブリエラの2人が戻ってきた。どうやら寝ぼけたアグノーラ准尉に相当手こずらされたようだ。


「2人ともすまんのう。お子様がいなくなったところで飲み直すとするかい?」

「いいえママ、今日はもうこれくらいにしておきます。なんだか私も眠くなってきちゃって…、出鼻もくじかれちゃったし。」

「ん? 何か言った?」

「!? いいえスグルさん、何でもありません!」


 そう言うなり、ガブリエラは2階に上がって行ってしまった。ミカエルもまたガブリエラを追い、黙って2階に上がっていく。

 残されたのはスグルとママの2人のみ。


「………どうしましょう。」

「飲んでもええが…なんだかワシも眠くなってきてしもうたわい。すまんが今日はお開きとしよう。」

「そうですか、別に構いませんよ。休暇はたっぷりもらっていますから。機会はいくらでもあるでしょう。」

「そうかえ……ふぁーあ。」


 ママも随分眠たそうだ。もしかしたら、張りつめていた気持ちが自分が戻ってきたことによって切れたのかもしれない。こんな小さな体でよくぞあの2人を守り抜いてくれたものだ。


「手を…いや、どうぞ乗って下さい。2階まで上がりますよ。」

「あれま! 恥ずかしい。でもそうだね。お世話になるとするかね…。」


 背中を見せたスグルに、ママは驚いて赤面してしまったが乗ってくれた。背中に重さと温もりを感じてから「よいしょっ」と立ち上がり、2階まで上がっていく。

 軽い。高校生の頃に祖母を背負ったことがあるが、その時よりも随分と軽く感じる。筋力強化を受けてはいるが、この軽さは単純な物理的軽さだけではない。上手くは言えないが何となくそう感じた。


「男性に背負ってもらうなんて…久しぶりじゃのう。」

「ママだったらいつでも背負いますよ。」

「これこれ、そういう事はワシのようなばーさんに言うもんではないぞ。言うべき人は他にいるじゃろう。」

「はは、そうですね。でもママは今でも十分魅力的ですよ。外見ではなく中身が…です。」

「嬉しいことを言ってくれるのう。          もし…子供がおったら…こんな風に…」

「何か言いました?」

「何でもないぞい。」


 ママを布団に寝かせた後、スグルも寝ることにした。かつて、ここに泊まった時に使った部屋は今はアグノーラ准尉が寝ているので使えない。仕方がない、お店の長椅子で休ませてもらおう。




「スグル、起きろ。」


 1階のお店の長いすで寝ていると、突如として揺り起こされた。目を開けるとそこにはミカエルが立っていた。


「なに? もう朝。」

「違う。でも起きろ、話がある。」


 時計を見ると夜中の2時。こんな時間に話? 一体何の?

 訳もわからず、寝ぼけた頭のままミカエルに外に連れ出される。そのままミカエルに手を引かれる事数分後。かつて歩いた海岸通り沿いの道に出た。


「こんな時間に連れ出して、話ってなに?」

「私はまどろっこしい話は嫌いだ。だから単刀直入に聞こう。スグル、君の中で私とガブリエラは…どう映っているんだ?」


 ………本当に直球できたな、おい。


「いきなりどうしたんだ?」

「答えてくれ。」


 有無を言わせるつもりの問い。ミーモとは違う、情熱の塊のようなルビー色の瞳がスグルを真っすぐ見据えていた。これは…半端な答えでは引き下がらないだろう。ならばこちらも応えるしかない。


「…大切な人だ。何よりも守りたい存在だ。出来るならずっと傍にいたい。……この言葉に嘘はないよ。」

「………………………………………………そうか。」


 ミカエルの顔がホッとしたような表情になったと思ったら、今度は苦悶の表情になる。


「一体どうしたんだ?」

「スグル、君には…私達の両親が亡くなっていることを伝えたはずだ。」

「うん。」

「両親は…一対一の関係で、私達を育児会に預けずに自分達で育ててくれた。」

「そのことはアンジェラさんから聞いたよ。この国ではとても珍しいことらしいね。」

「アンジェラさんから!? ……そうか、あの人が伝えてくれたのか。」


 ミカエルが夜空を見上げて何かを呟く。


「なら…話は早い。私達姉妹は…両親のような関係を築くことの出来る男性を捜していた……」

「……それも、聞いたよ。中々見つからないかもしれないけど………必ず見つかるよ。」


 違うな。今のは本心じゃない。自分で言っていてわかる。


「……………もう見つかった。」

「え!?」


 ドクンと心臓が跳ね上がる。まさか……いや………やっぱり……………。


「………………………………………スグル、君だ。」


 心臓の鼓動が早鐘を打つ。ミカエルの真っすぐな瞳から目を逸らせない。


「スグル…わ……わた…わたしは……わたしは……………君が好きだ!」


 ミカエルが精一杯の声で思いを伝えてくる。それに対し、何か言わないといけないのに口がモゴモゴ動くだけで言葉が出ない。


「じ…じぶ……いや、俺は……。」

「待ってくれ。実は…本当の話はここからなんだ。」

「?」

「わた…私は……卑怯者だ。ガブリエラの気持ちを知っていながら……睡眠薬まで皆に仕込んで………。」


 睡眠薬だと!? どうりで、アグノーラ准尉を始めとしてガブリエラやママが眠くなったはずだ。


「なぜそんなことを? 普通の告白ではダメだったのかい?」

「私とガブリエラはずっと一緒だった。両親を見て育ち、自分達も同じような関係を築ける男性と出会うことを夢見ていた。でも…でもいなかった。いなかったんだよスグル。君が現れるまでは!」


 ミカエルの体が震えだす。赤い瞳に涙が溜まり始める。


「私達は、お互いがお互いの関係を応援しようと決めていた。でも君は一人しかいない。アカガネスグルはこの世界に一人しかいない。私は……私はあの子が悲しむ姿を見たくはなかった! でも……でも………自分の気持ちにも嘘は付けなかった!! スグル! 私は…私はどうしたらいいんだ! どうしたらよかったんだ!!」


 体を震わせながら溢れ出る涙を拭いもせず、下を向いてミカエルは泣いた。 

 声を押し殺しながら泣く彼女を見て、一瞬天を仰ぐ。星空は何も答えてはくれない。しかし、彼方にいるであろうアンジェラさんの顔が思い出される。彼女ならきっと、こうしろと言うはずだ。


「! スグル!?」

「何も言わなくていい。しばらくこうさせてくれ。」


 ミカエルの体を引き寄せて抱きしめる。今はこれしか出来ないし、これ以上をするべきではないだろう。

 正直、自分の気持ちはとうに固まっていた。ただそれを認めたくなかっただけだ。元の世界の倫理に照らし合わせればこれは浮気。二股と言われるものだ。この世界の性事情を受け入れられない以上、自分もそうすべきではないと思っていた。でも、ミカエルは嘘偽りのない自分の正直な気持ちをストレートに伝えてきた。それを見てしまったら、自分も覚悟を決めるしかない。ここで決めなかったら流石にただの屑になってしまう。


「ありがとう、ミカエル。俺も気持ちの整理がついたよ。朝、ガブリエラが起きたら同時に思いを伝える。いいよね。」

「スグル! ああ…………ああああ。うわあぁあああぁああああああん!!!」


 ミカエルはしばらく泣き止まなかった。その間、スグルはずっと抱きしめていた。


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