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第67話:Interaction2



◆◆◆◆



「気は済みましたか?」


 俺が拳銃を捨てたことで、少しだけストリンディは安心した表情になる。彼女にとって、まだ俺は敵対勢力ではなく学友の分類らしい。学友に剣は向けられないということか。


「こっちも仕事なの。あっさり投降するとアセスメントに響くのよ」


 俺が指を鳴らすと、側からステルス迷彩を解除した鎧武者が二体姿を現した。


「メイジン・ファクトリー製の最新カラクリ・ソルジャーですか」


 同時に合掌して一礼する武者を見ても、ストリンディの目に焦りはない。


「実戦データの収集も兼ねているわ」


 俺は有線を武者の四肢に接続する。師であるステイルメイトの真似事だ。指先さえ動かさず、脳からの信号のみをコマンドとしてタチアイ・モードに移行。しかし――


「脆い」


 騎虎の勢いで左右に展開した抜刀済みのカラクリ・ソルジャーは、次の瞬間同時に撃破されていた。一体は一太刀で袈裟懸けに深々と斬られ、もう一体は鞘で喉笛を突かれ延髄を粉砕されていた。生身の俺の視覚では、ストリンディがいつ動いたのかまったく分からない。神経強化した機体でも同様だろう。結果だけがそこにある。


「あらあら。これじゃろくにデータも取れないわ。意地悪ね」


 傷口から人工血液を垂れ流してくずおれる武者から、俺は有線を引き戻す。


「あなたには、こんな危険な兵器は必要ありません」


 なぜかひどく不快そうにストリンディは剣を振って保護液を振り払う。


「断言するのね」


 初めて、ストリンディが俺を非難するような目で見た。


「なぜです? なぜあなたはこんな不道徳な場所に入り浸るのですか?」


 いきなりモラルを問われても、俺にはこう答えるだけだ。


「あなたには関係ないわ、騎士さん」

「……たしかにそうです」


 たった一言でひるんだストリンディに、俺は五指の有線を振るう。思考フィラメントで構成された擬似物質の糸が、彼女の全身に巻き付いた。


「避けないのね」

「これであなたが満足するのなら、存分にどうぞ」


 受難を甘受する信仰者のようなストリンディの態度が、ささくれのように俺を苛つかせる。


「不愉快な反応ね」


 一切のドーピングも機械による補助もなく、ただ生まれ持った意志と肉体のアドレナリンだけで俺は思考を加速させる。


「あなたに同情されるいわれなんてないわ」


 制御できる限界量の論理病源を、有線に触れた素肌を通じてストリンディの神経系に殺到させる。最新のセキュリティで保護された機械化歩兵の一団さえ、一分と経たずにスクラップに変える数理の劇毒。俺が手ずから筆記したそれと、騎士の有する免疫が激しく衝突した。


「……まったく、これが生物の免疫機能? 企業の防壁の方がよほど脆弱よ」


 ――俺は焼け焦げた有線を指から振り払ってため息をついた。舌打ちできるならしたいくらいだ。危うくバックドラフトでこちらの脳神経が焼かれるところだった。生体ハッキングに対する完璧な耐性。俺の攻撃をこいつは苦もなく打ち払った。いや、そもそもストリンディが手加減してくれなければ、有線を触れさせることさえ不可能だったはずだ。


「これは都市の平和を維持するため、弱い人々を守るための盾です。私利私欲で与えられたものではありません」


 相変わらずストリンディの言動に傲慢さは皆無だ。


「ご高説ありがとう。私とあなたじゃ価値観が違うの。でも、否定する気はないわ」

「それなのに、あなたは――」


 剣を人工庭園の床に音を立てて突き刺し、ストリンディは俺を睨んだ。


「――あなたはなぜ、そうやって平然としているんですか!?」


 それは初めて聞く、ストリンディの血を吐くような叫びだった。


「あんなに私に笑ってくれたのに、私に寄り添ってくれたのに……どうして当然のように戦うんですか!? あれは全部嘘だったんですか!?」


 品行方正な騎士ではなく、一人の少女になってストリンディは声を張り上げる。


「私は……私はあなたを、初めてできた気がおけない友人だと思ってしまいました。それなのに……なのに!」


 友人、か。どうやら俺とのデートは、相当この騎士の心に残っていたらしい。だが次の瞬間、ストリンディは憑き物が落ちたように平静さを取り戻した。


「――そこにいるのは分かっています。動かなければ斬りません」


 明後日の方向を見て、彼女はそう釘を刺す。俺はその隙にストリンディの方へと近づく。


「シェリス……さん」


 俺はすがるような彼女の声を無視し、杖を変形させた。歩行の補助から、数理攻撃に用いる蛇腹の形状へと。そしてそれを振り上げ――


「どうしても、続けるんですか?」


 だが、杖はあっさりと弾かれ、俺の喉笛に剣が突きつけられる。


「あ~あ、そうやってお友だちに“また”武器を向けるのね」

「また……?」


 いぶかしげな顔をするストリンディ。


「あなたは高潔な騎士じゃないわ。ただ上書きされているだけ。それを教えてあげる」


 手にした教書が開く。


「――深淵のVSAMより姿色の一片を見せ給え」


 ページに記されていく整式。発現する電算仙術。


「大禍絶遠――――渾沌道人」



◆◆◆◆



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