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第57話:Blaze up



◆◆◆◆



「我々と一緒に来てもらおう」


 俺は肩をすくめた。


「また同じシチュエーションね。お断りよ」


 石頭のエードルトと別れたら、今度はこの連中だ。


「イヴァーニンに伝えて。私の邪魔をするなら二度と神様にお祈りできなくさせてやるって」


 あの司祭の名を口にしたら、全員の顔色が変わった。やはりこいつらは、開国支援組織リェースニツァの構成員だ。


「なぜ奴を知っている?」

「知らないの? 彼、裏切り者よ」


 俺が適当に言ってやると、連中は顔を見合わせている。口から出任せではあるが、嘘ではない。イヴァーニンはあの後、俺に情報を横流ししている。リェースニツァが俺のボディを狙う理由は、しごく単純明快だ。組織の神輿としてノヴィエラを祭り上げ、大義は我らにありと宣言したいらしい。


「なぜ抵抗する? お前の一挙一動がエンクレイブにどれだけ損害をもたらしているのか分からないのか?」


 リーダーとおぼしき奴の言葉に、俺は耳を疑った。エンクレイブの損害など知ったことか。部外者である俺が、なぜ余所の利害を気にしなくちゃいけないんだ? つくづく、エンクレイブの連中は自分の価値観でしかものを見ない連中だ。


「金額を提示しなさい。報酬無しで人を動かそうなんて虫がよすぎるわよ」


 俺は親切すぎることに、一応交渉の席には着いてやった。するとリーダーは隣の同僚と有線接続して会話していたが、少ししてうなずいた。続いて、一枚の仮想スクリーンが俺の前に表示される。


「これが妥当だろう」


 そこに金額が写っている。――俺は淑女のようにほほ笑んだ。


「二度と来るなド素人ども!」


 手を伸ばして俺は仮想スクリーンを握り潰す。形成する整式にハッキング。全情報を強制アクティビティにさせ、過負荷として逆流させる。悲鳴と共にリーダーが延髄のコネクター付近を掻きむしった。肉と金属の焼け付く異臭がする。こいつが俺に提示したのは、呆れるほど安い金額だった。


「き、ききき貴様ぁ!」


 怒声と共にリーダーが小型クロスボウを俺の方に向けるが、オーバードーズで狙いが定まらない。


「本性を現したな似非愛国者! 弑逆はいけないよな!」


 俺の小指が動いて有線にコマンドを送り込むのとほぼ同時。クロスボウに矢が撃ち込まれて地面に縫い付けられる。スナイパーが使う大型の矢を見た他の連中が目を見開く。


「何をする!?」


 袋小路を取り囲む建物の上階。そこの一室の窓から大型クロスボウの一部が見える。リェースニツァのスナイパーだ。あの場所に待機して俺を狙っていた奴を、少しジャックして利用してやっただけだ。奴の義眼に写る拡大された視界を目の端に表示しつつ、俺は次の矢をつがえさせる。


「お前たちハッカーは卑怯な搦め手ばかりだな!」


 怒りに震える構成員を俺は鼻で笑った。


「搦め手も捌けない三流が負け惜しみか!?」


 相変わらず地上の戦いに慣れない奴らだ。そのくせ、多勢に無勢とばかりに連中は機体の武装を露わにし、か弱い女の子を腕ずくで拉致しようとしてくる。ゴーストを憑依させた手駒のスナイパーでは捌ききれない物量だ。


「――九界天網雷公真君にコマンド」


 だが好都合だ。一網打尽こそが俺にとって最適の布陣。俺が教書を開いたのを見るや否や、数人の機体が多項数理防壁を展開。既存の攻勢整式を一通り網羅したアクティブノイズコントロール機能はたいしたものだ。もっとも、俺が今召喚する整式には対応していないだろうが。


「不可無疆殃慶天尊にコネクトし奉る。――『異型山河写像俯瞰図』」


 空間が歪む。ボーダーラインの雑然とした風景がかき消え、白紙に水墨が流れ落ちるかのようにして別世界の天地が描き出される。壷中に天を見いだすかのようにして形成される異界は、しかし真像として具現することなく瞬く間に消えていく。世界に世界が創出された際の反動が、あらゆる防御の整式を歪ませてリェースニツァの構成員を直撃した。


 電算仙術。千年かかるという神仙への道を、数理とサイバネティックスで千時間にまで縮めた無茶と合理のテクノロジー。ちなみに目標は千分らしい。仙道の神秘を数理で再現し、仙人の肉体を機械で再現するこの技術は、その過程で種々の整式を開発して市場に流通させている。一般の構文と文字からして異なるこれを修得するハッカーは数少ない。


「大がかりなのが玉に瑕だな……」


 俺もステイルメイトの手慰みで修得しただけだが、この種の整式が効果のわりに大仰なことくらい分かる。防御無視の全方位攻撃をするだけで小世界を創り出すなど、燃費が悪すぎるだろう。防御整式を歪曲され、フィードバックで神経を擾乱されたリェースニツァの構成員たちを俺が踏み越えようとしたその時だ。


 倒れていた三人。全身を法衣ですっぽりとくるんでいた連中が立ち上がった。まるで上から強引に引っ張られたかのような動きだ。その全身が痙攣し、見る間に巨大化していく。法衣が破れ、中から出てきたのは昆虫と動物が混合した奇怪な四肢だ。独特の光沢は甲殻と外皮が装甲粘菌と共生しているからだろう。


「機甲キメラまでいたのか……」



◆◆◆◆




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