第51話:Tuning
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「あなたの名前は、シェリス・フィア。聖アドヴェント学院所属。ハッカーとしてのコードネームはコンフィズリー」
その後チューニング所属の三人は、図々しいことに俺の自室に押しかけてきた。
「あなた方は?」
「私はレニア・ボンダヌーリュ。チューニングのエージェントです。こちらはダンパーとファインダー」
「まあ、お会いできて光栄ですわ」
俺の皮肉たっぷりの挨拶に対し、スキンヘッドの双子は機械的な動作で一礼しただけだ。
「先にイニシアチブをはっきりさせましょう。あなたの本名は、シェリク・ウィリースペア。ハッカーとしてのコードネームはグレイスケール。これに間違いはありませんか?」
レニアが俺の本名を切り札のように得意げに言う。俺は内心ため息をついた。
(……チューニングならば知っていてもおかしくはないか)
情報統制機関チューニング。公議の手足となって行動する大綱の警察組織だ。やる気のない企業警察と違い、チューニングは冷酷で合理的な働き者で構成されている。そして、俺たちハッカーとは致命的に仲が悪い。
「ああ、正誤を言語化する必要はありません。事実でしょうから」
過去を暴かれて俺が驚いたように見えたのか、レニアは畳みかける。
「ハッカーは自分たちが大綱で好き勝手に振る舞えると思い込んでいますが、あなた方のお遊びはチューニングに筒抜けですよ」
「たいした自信ね。自分たちが大綱の管理者になったつもり?」
「公議による都市の円滑な運営のために、私たちは存在しています」
レニアの態度は気に入らないが、今は依頼を持ってきた相手である以上、ハッカーである俺が門戸を閉じるわけにはいかない。
「仕事の話をしましょう? あのお馬鹿なエルフの救出がミッションでしょう? 報酬を支払ってくれるなら手伝ってあげるわ」
なぜ俺を指名したのかは不明だが、チューニングは俺と組みたがっている。
「私が欲しいのは情報。それも表には出回っていない情報が欲しいの」
「……公議に反抗するものでなければ」
レニアが露骨に不快そうな顔をするがお笑いぐさだ。チューニングが狂った公議を出し抜こうとしていることくらい、ハッカーの間では常識だ。
「プロジェクト・オルカ。深淵を覗き込んだ愚か者たちの末路を、詳しく教えてくれないかしら?」
用意された車両に乗り込んだ俺は、レニアに渡されたファイルに目を通す。案の定リエリーはビーハイヴに誘拐されていた。両親にあの映像が送られてきたのは先日。企業警察や騎士団に通報しないようビーハイヴは脅していたが、チューニングが独自の経路でこの事件を知ったらしい。「独自の経路」とは気になる表現だ。
「どうかしましたか?」
レニアが窓の外からこちらに視線を向ける。既に外の風景は、下層都市ボーダーラインの見慣れたものに変わっている。
「失敗の許されないミッションね。私でよかったのかしら?」
試しに俺は謙遜してみせる。
「あなたを雇用したのはこちらの都合です。仮にあなたが不良品でも構いません。この件は本来私たちだけで解決可能ですから」
「楽な仕事ね。横でお三方の仕事っぷりを見ているだけでいいなんて」
「どう取るかはそちらの自由です」
レニアの言葉は無愛想でとりつく島がない。こいつらはなぜ、わざわざ俺を指名した? チューニングがビーハイヴの狂人程度に手こずるはずはない。明らかに裏がある。
「それに、私たちが雇用するのはあなただけではありません」
ここが目的地なのか、車両がジュエルキンギョ専門店の正面に横付けする形で停車する。
「早く来なさい」
窓を開けてそう告げるレニアに応じるように、店内から人影が二つ出てきた。
「コンフィズリーか」
一人は、眼光の鋭い女性のドワーフ。背中に背負った二振りのブレードが目立つ。もう一人は、虫も殺さぬ顔の柔和そうなエルフだ。
「あなたがチューニングの依頼に一枚噛むとは珍しいですね。どういう風の吹き回しですか?」
そのエルフがストローで飲んでいるのは、飲用ガソリンという理解不能の代物だ。
「直々のご指名よ。久しぶりね、ファイア&ソード」
今回の仕事仲間はこの凸凹コンビらしい。せいぜいビーハイヴごと丸焼きにされないよう気をつけるとしよう。
廃棄された工業プラントを占拠したビーハイヴのアジト。
「はい、左手縛りダンス・ジュツ未使用ノーマルカードだけで隠しボスをノーダメージクリア」
得意満面でコントローラーを置くリエリーに、ギャラリーから喝采が浴びせられる。仮想スクリーンには「成功は狩猟です!」という文字がプレイヤーであるミコ・ハンターと共に写っていた。
「じゃあ次は、最初から難易度“疫病神”で武器強化無しアイテム封印でやってみようかな。見る?」
ジョッキーの顔になったリエリーに、周囲は揃ってこう叫んだ。
「見タイデス!」
人質でいるのがあまりにも暇で、自分を捕まえたビーハイヴの面々とゲームを始めて数時間。リエリーのプレイはすっかり異形の機体たちを虜にしていたのだった。
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