第35話:Obstreperous2
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突如始まったクランの抗争に、ジンセイの店員は接客を止め迎撃を始める。
「Ha,Hakkeyoi!」
ややへっぴり腰ながらも元力士のウエイターがかけ声と共に突進する。
「ラージャオ・ザ・レッド最高ぉぉぉっ!」
店の奥から、契約していた警備員がボウガンを撃ちつつ出てきた。ご丁寧に、自分の推すジョッキーの名まで叫んでいる。
「土俵ニ送リ返セ!」
「異端者だ! 火刑にしろ!」
直ちにビーハイヴとヴィオーラの両名が動きを合わせて迎撃する。たちまち警備員がワーウルフのクロームの鉤爪にまとめてなぎ払われ、元力士がフレキシブル注射器から猛毒を流し込まれて痙攣しつつ跳びはねていく。オドリコ・タランチュラの毒を合成して再現した、異常なほど悪趣味な毒薬だ。
「た、助けてぇ……っ!」
腰を抜かした警備員へアームを伸ばすビーハイヴの機体。その顔面に、ホノオ・テキーラの酒瓶がぶつけられた。次いで、虚空に複雑な軌跡を描いて有線が走る。その先端がテキーラに濡れた機体の顔に触れると同事に、発火数理が発動。機体の全身が炎に包まれた。
「誰ダ!」
機体はダメージを受けた様子もなく平然と叫ぶ。
「……上の学生か。道を空けろ。レディのお帰りだ」
ホノオ・テキーラの瓶を両手でいくつも抱えたヴィディキンスを従える俺を見るや、ヴィオーラのワーウルフが鉤爪を収納する。つくづく、ヴィオーラというクランは淑女に優しい荒くれ者を演じるのに余念がない。
「その必要はないわ。私は学生じゃなくて――」
だが、俺はそれに付き合う気はない。
「――店内の清掃を依頼されたハッカーだからなあ!」
言葉と同事に俺は両手の十指から同事に有線を放つ。俺が手ずから書いた戦闘用の構文を伝導するそれは、猛毒のワイヤーとなってビーハイヴの機体に襲いかかった。過積載アーマーが弾け、義手の丸ノコが持ち主の頸部を削り始め、義眼経由で脳と神経系を焼かれた何人かが床の上でのたうち回る。
「あ、ありがとうございますハッカーさん! 早くこいつらを――」
地獄でブッダといわんばかりに、元力士のウエイターが俺にすがりついてくる。情けない上に邪魔だ。
「なら、店員らしく少しは清掃を手伝え」
抗議の暇を与えず、俺は有線をウエイターのうなじにあるコネクターに差し込む。角界を去ってからだろうが、こいつは機体になっている。
「Ha,HahahahaHakkeyoi!」
脊柱の制御フレームに狂暴病源を感染させた俺が有線を引き抜くと同事に、ウエイターは両目を光らせ口から蒸気を噴きながら店内で戦う連中に突撃する。
「Dosukoi!」
腐っても元力士。強烈なドロップキックでワーウルフを壁に叩きつけ、次いでその両脚をむんずとつかむや回転して投げ捨てる。あんな技が相撲にあったか?
「刮目セヨ!」
どこに収納していたのか、ヌンチャクを振り回してヴィオーラと渡り合うヴィディキンスをよそに、突如ビーハイヴの一体が四つに分解した。複雑にパーツを折り畳み、分解した部位は手足に似た形状になる。
「コレガびーはいう゛!」
続いてもう一体が、四肢を胴体に収納し、大きく展開した口から円筒形となった多数の銃身を突き出す。
「脅威ノ技術!」
最後の一体が宙に飛び、その両手両脚がアーマーとなって胴体を覆うのと同事に、最初の一体の部位が合体して新たな手足になる。本来の頭部が真後ろに折れ曲がり、胴体から装甲に覆われた顔が出てくる。その手が武器となった仲間を掴む。
「我ラ武凱機皇・ボーグンガー!」
高らかな名乗り。三人が変形合体した巨人があらわれた。
「ここは子供向けアニメの世界じゃないわよ」
俺の感想と同事に、
「……同感だよ。シニョリーナ」
という声が隣で聞こえた。そちらを見ると、無数のコウモリが寄り集まり、多機能サングラスをかけたヴァンパイアの姿になった。ヴァンパイア特有の匂い立つような色男だが、スーツの下に着ているのは、水着の暁レプレがでかでかと描かれたシャツだ。
「一つ聞くが、君は暁レプレ派か? それとも村雨アルト派か?」
しつこく聞いてくるので、俺は仕方なくこう答える。
「どちらかというと、レプレ派ね」
そう言った途端、ヴァンパイアは多機能サングラスを取って目を輝かせた。
「ブラボー! 君は見る目があるな。どうだね。ここは一つ共闘して、あの愚かな異教徒を審問しようじゃないか?」
ホルスターから大口径の拳銃を抜いて構えるヴァンパイア。
「魅力的なお誘いね」
俺はヴァンパイアと並び、有線を伸ばす。
「でも、私は掃除中なの。ゴミが喋らないでくれる?」
有線経由で聖言構文を血管に流し込まれて悶絶するヴァンパイアをよそに、俺はヴィディキンスにコマンドを送り込む。あの粗大ゴミは、片づけるに手間がかかりそうだ。
ジンセイに駆け込んできた企業警察と企業傭兵が目にしたのは、スクラップにされたビーハイヴのサイバネ蜂と、プライドを粉砕されてしょげたヴィオーラの伊達男だった。確保の手間が省けて喜ぶ企業警察の怠け者たちをよそに、傭兵たちは悔しがった。出動が無駄足となり、報酬をコンフィズリーが全部持っていってしまったことを理解したからだ。
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