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第28話:Tin god2



◆◆◆◆



 あまりにもふざけた内容で、つい口調が矯正整式に則ったものになってしまった。今は正真正銘の非常事態で、本来あの忌々しい矯正整式は沈黙しているはずなのだが。


「自分たちが仕掛けてきたにもかかわらず原因をこちらに押しつけようなんて図々しいにも程があるわ! 虫がよすぎて思わず殺虫したくなるけどよろしいですよね!?」


 間違いない。絶対に、十割、天にまします機械仕掛けの神に誓って、こいつらはエードルトと関係がある一派か何かだ。わけの分からない自己完結した非常識極まる異常な思考は、エードルトそのものだ。


「待て、我々は君の非礼に対しある程度譲歩を……」


 何やら言いかけたリーダーだったが、幸いそれ以上の妄言を俺が聞くことはなかった。


「撃て」


 突如遠方から乱射された機関銃の弾丸が、法衣を貫いて三人をでたらめに撃ち抜いたからだ。この公園は不法居住者が大勢住み着いて、要塞化している。要塞には、当然外敵を迎撃する銃座があちこちに備え付けてあった。その中の一つを借用させてもらったのだ。ハッカーはわざわざ重たい武器を持たない。武器など、その辺にいくらでもあるからだ。





「気分はどうだ?」


 射撃を止め、俺はボロ雑巾のように地面に転がった三人の方に杖をつきつつ近寄った。救護モードになった法衣が、傷を覆って治癒している。リーダーを除く二人は重傷らしく意識はない。こちらを憎々しげにリーダーが睨んできたので、俺はその頭を踏みつけてやった。


「……その体勢だとこちらから下着が見える。今すぐ止めろ」


 妙な忠告をリーダーはしてきた。


「どうでもいいな」


 強がりではなく、本心からそんなことは恥ずかしくも何ともない。そもそも、なんで女子の下着はあんなに多彩で派手なんだ? 俺としては安価で丈夫なら何でもいいんだが、上層都市ではどれもこれもやたらと凝っていて繊細なデザインの下着しか売っていなくて困る。


「ハッキングして情報を引き出すつもりか?」


 リーダーが問うが、俺は首を左右に振る。


「どうせ、機密保持の自爆構文を脳に仕込んでいるんだろう?」

「答える必要はない」


 みっともなくリーダーは格好をつける。


「だからこれで終わりだ、負け犬。尻尾を巻いてみっともなく逃げろ」


 俺がそう言うと、リーダーが悔しそうに歯がみした。いい表情だ。


「その代わり、お前たちの雇い主に言っておけ。『今度コンフィズリーがこちらからうかがわせていただきます』ってな」

「……後悔するぞ」


 俺の寛容な申し出にもかかわらず、リーダーは捨て台詞を吐く。


「そうかよ。やっぱり今死ぬか?」


 指先から有線を伸ばすと、リーダーの怒りの表情に怯えが混じった。だったら、最初から強がりなど言うな。


「行くぞ、ヴィディキンス」


 俺は人造を促してリーダーから背を向ける。


「……待て」


 まだ絡んでくるつもりか。うんざりしつつも俺が振り返ると、リーダーはじっと俺を見てこう言った。


「くれぐれも、その身に危険が及ぶようなことはするな」


 なぜかその声に敵意はない。だから、俺は仕方なく丁寧に一礼してやった。


「賢明なご忠告、感謝するわ」





 通りを外れて裏路地へ。建物と建物の間にあるわずかな空き地。そこで俺は立ち止まった。あちこちに人造のパーツが捨てられている。


「……僕が出るまでもなかったな、シェリク・ウィリースペア」


 意味深な俺の行動に、やはり答えはあった。背後から聞こえるのは、懐かしい声。


「いいえ、いざとなったらあなたがいると思えるのは心強いわ」


 声は俺を本名で呼ぶ。なぜ俺がシェリクであることを知っているのか、それをいちいち聞く必要はない。この声は俺の味方だ。不思議な律儀さで、彼は俺を教えてきた。きっとそれは、彼が常々口にする「禅」の精神なんだろう。


「殊勝なことを言うんだね」

「あなたには虚飾も虚言も無意味だからよ」


 俺が振り返ると、そこには想像通りの姿があった。


「――久しぶりだね、グレイスケール。今の名前はシェリス・フィアだったかな」


 着物をモチーフにした耐蝕コート。両手と頭部を覆う外骨格。鈍く光る単眼。


「ええ、本当に久しぶりね。ギルズリー・オーディル。いえ――」


 俺はひと息ついてから、彼のハッカーとしての通称を口にする。


「――『人形遣い』ステイルメイト」





「くそっ……滅茶苦茶だ」


 ようやく法衣の治癒が一段落し、何とかリーダーは立ち上がった。相手を生身のハッカーと侮ったのがこの結果だ。まさかここまでえげつない戦い方をするとは思わなかった。それも――あの清らかな体で。


「……救護の人員を呼べ。作戦は失敗だ」


 ふらつきつつも彼は教書を開き、どこかへと連絡をする。


「……分かっている。だが、決して我々は無礼な方法を取るわけにはいかないのだ」


 何かを向こうから提案され、彼は首を左右に振る。


「もちろん、シーケンサーの好きにはさせない。大義は我々にある」


 彼は教書を閉じ、シェリスの去った方を見つめる。


「……何とおいたわしいことか。その心痛、察するに余りあります」



◆◆◆◆




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