第25話:Sabotage campaign5
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「皆さんパーティーはお開きよ! 怖い怖い企業警察の騎士様がお越しになったわ!」
外で雑に暴れていた企業傭兵からの通信を受け、俺は教書を開いたまま大声を上げた。もっとも、この華奢なボディが出せる声量なんて限られている。制御室からプラント内部のシステムを借用し、各所に設置されたスピーカーから声を出している。
「急いで積み込め!」
「はあ? 私まだカルビボーイ全種コンプリートしてないんだけど!?」
「面倒だから丸ごと持っていくぞ!」
案の定、さっきまで適当にやっていた企業傭兵とハッカーたちは、尻に火がついたような速度で撤収を始めた。制御室を出て倉庫の方に向かうと、そちらでは大慌てで何人かがトラックに食品を積み込んでいる。
「ああ――今夜もよい炎上でした」
「仕事と娯楽をはき違えるな。不快だ」
その脇を、満足しきった顔で巨大な火炎放射器を担いだエルフと、心底あきれ顔の二刀流ドワーフが通り過ぎていく。界隈ではそこそこ有名なファイア&ソードの凸凹コンビだ。すれ違いざまに、エルフの方が満面の笑顔で俺に一礼した。戦闘時以外のこいつはとことん柔和だ。
「ちょっとは手伝ってくれよオイ!」
倉庫を通り過ぎがてら横目で搬入を見ていると、とうとう一人の企業傭兵が近くでゲームをしているパートたちに声を上げた。
「嫌ですよ。面倒くさい」
「そうですよ、勝手にどうぞ」
身勝手な文句に対し、パートたちは目の前で自分たちの職場が荒らされているにもかかわらず、まったくやる気を見せない。
何しろこれは企業間闘争。パートにとっては、職場を舞台にした珍しくもない抗争だ。
「クソ。ほら、これやる」
舌打ちしつつ、傭兵はリュックからバブルヘッドを取り出してパートに投げる。
「はいはい、ちょっと車を動かしますからどいて下さいね」
報酬を与えられ、ようやくパートたちが重い腰を上げた。下層都市の連中は、誰もがしたたかだ。
傭兵よりも先に逃げていくハッカーたちの中に、俺はようやく目的の人物を見つけた。
「あ、コンフィズリー。こっちこっち」
俺を見つけたドワーフが笑顔で手を上げる。
「ようやく見つけたわ」
「ごめんね。僕もちょっとバブルヘッドの予約があったんだ」
手に持ったバブルヘッドを側の機材の上に置き、アシッドレインは教書を開いて操作する。
「ほらこれ、あげる」
即座に俺の教書に通信があった。開いてみると、中には転送されたファイルがいくつかある。
「これは?」
「僕の新作の一つ。よかったらどうぞ」
開いたページの中に俺は手を入れ、ファイルをつまみ上げる。丁寧に隔離整式によって包装された数理。こいつは機械や数理に働きかけるのではなく、人の精神に作用する劇毒だ。
「あなたはどうするの?」
「僕はこれで失礼するよ。今回は無料で使わせてあげる。試供品だと思ってよ」
俺としては、アシッドレイン本人をストリンディにぶつけるつもりだったが、どうもそうはいかないようだ。先に作品を押しつけてきたのはうまく逃げるためか。
「ありがたくいただくわ。アーティストさん」
仕方なく俺はそう言うしかなかった。
首から上を一撃で切り落とされた機動装甲が、前のめりに倒れた。両手のドリルとチェーンソーが地面の舗装を砕きつつめり込んでいく。今頃パーツとして組み込まれた脳髄はハッキングから解放され、混乱していることだろう。
「機動装甲二体がただの足止めにしかならないか。さすがは上層都市の騎士だね。単体で完成した、恐ろしい戦闘力だ」
宙に有線が舞い、複雑な光の軌跡を描く。十指から伸びたそれを収納し、賞賛の声を上げるのはギルズリーだ。人形遣いの異名の通り、彼は二体の機動装甲を操りストリンディを牽制した。だが、今その人形は完全に活動を停止している。
「ありがとうございます。ですが、これ以上の敵対行為は無意味です」
「僕が君と敵対する理由はないよ」
脳髄ではなく駆動システムそのものをハッキングすれば、たとえ首から上がなくても機動装甲を動かすことはできる。しかし、ギルズリーは首を左右に振る。
「ご冗談を。私は企業警察に所属する身として、企業間闘争に介入する理由があります」
ギルズリーが丁寧に話しかけてくるので、形式的にストリンディも応じる。
「故に君は剣を振るうのかい?」
外骨格の単眼を光らせつつ、ギルズリーは尋ねる。
「はい。それが騎士道です」
「……難儀だね」
躊躇なく肯定する彼女の姿勢を見て、なぜかギルズリーはため息をついた。
「“馬上に居て之を得たるも、寧んぞ馬上を以て之を治むべけんや”」
そう呟いた後、演者が舞台袖に消えるかのように後方に跳躍したギルズリーに、ストリンディは追いすがる。
「待ちなさい!」
剣が横薙ぎに振るわれ、ギルズリーの胴体を両断する――と思いきや、彼女が斬ったのはスクラップを組み合わせて作った人形だった。
「替え玉!?」
いつ入れ替わったのか。幻惑の数理だとすれば、あまりにも鮮やかな手並みだった。
「……ただの時間稼ぎでしたか」
地面に散らばる鉄屑を見つめ、ストリンディは残念そうにそう呟いた。
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