第24話:Sabotage campaign4
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真夜中の大通りを、数台の企業警察の車両がのんびりと走っている。バーガーアーキテクチャーが、食品プラントの異常に気づき通報した結果がこれだ。
「すみません、もう少し速くお願いできますか?」
先頭の車両の助手席で運転手を急かすのは、騎士の装束に身を固めたストリンディだ。
「無茶言うなよ騎士さん。俺はさっきまで寝てたんだぜ」
運転席でハンドルを握る、肥満体の警官は大あくびをしつつそう言う。
「ああそうですか。じゃあもういいです」
プラントの被害を抑える気も、実行犯を逮捕する気もさらさらない警官に、ストリンディは業を煮やしたらしい。
「いいって何だよ。まさか降りるのか?」
警官の嘲笑に、彼女は大まじめにうなずいた。
「ええ、そのまさかです。それでは」
次の瞬間、ストリンディは平然とドアを開けて外へと身を躍らせた。
「っておい!」
まさかの奇行に警官は目を剥いた。拍子にハンドル操作を大きく誤り、対向車からクラクションを鳴らされる。そして警官は見た。道路を疾走し、パトロールカーを追い抜いて走り去るストリンディの勇姿を。
「……マジかよ。生身なのにあれじゃ機体以上だろ……」
「企業警察です! 今すぐ破壊活動を中止し投降して下さい!」
バンプ・ピザの依頼を叶えるべく、プラントの施設を適当に破壊して回っていた企業傭兵たちがその声を聞いて手を止めた。宙に浮かぶ教書が投光の整式を発動させ、声の主の姿をはっきりと周囲に知らしめる。剣を地面に刺してその上に手を置き、真正面を見据えるのはストリンディだ。
正々堂々たる名乗りに、一瞬企業傭兵たちは不審そうに顔を見合わせ、次いで攻撃の態勢に移った。彼女が企業警察お抱えの騎士と知っても、破壊活動を止める理由にはならない。銃口、ボウガンの矢、ロッド、高周波ハンマー。殺意の具現であるそれらを向けられても、ストリンディはひるまない。
「……そうですか。警告はしましたからね!」
彼女の姿がその場からかき消える。ステルス迷彩ではない。純然たる膂力の加速だ。遅れて空気を歪ませる衝撃波。同時に、ボウガンを構えた傭兵の一人が袈裟懸けに上体を斬られた。耐蝕スーツを紙切れのように切断され、驚愕する暇さえ与えられずに傭兵は全身を情報キューブに変えられ四散する。これで二十四時間は完全に活動不能だ。
周囲が反応する暇もあらばこそ。一人の傭兵を無造作に屠った刃が、そのままの勢いで真横に振るわれる。次の犠牲者は盾を持った機体。金属の腕は盾ごと刃の餌食となり、チームの防御を担当していた彼の上半身と下半身はあっさりと泣き別れとなる。分離しようとも結果は同じだ。それぞれの部位は情報キューブにまで還元され消えていく。
そして三人目が喉笛に剣を突き刺され、モズの早贄となって四散するのを見て、ようやく他の傭兵たちが反応した。突撃と同事に、手練れの傭兵三人を瞬時に倒したストリンディの容赦ない剣術。それは、視神経を機械的にも数理的にも強化しているはずの企業傭兵たちであっても、防御も回避もできない神速の域だった。だが――
「兄様!」
「応よ!」
方や青竜刀、方や狼牙棒を持った男女の双生児であるサイバー武人が彼女に攻めかかる。六手の幻惑に、緩急を織り交ぜた本命となる四手が左右同時に着弾する「八卦天網四韻殺」。機体至上論者のボディですら瞬時にスクラップにするオートメーション武術は、しかし兄の狼牙棒が鞘で押さえられ、妹の青竜刀が鍔で受け止められたことで破られる。
閃く金属の閃光が二つ。
「絶技……」
「見事……」
情報キューブになっていく双子を見もせずに、ストリンディは残りの企業傭兵たちに刃を向ける。浮き足立つ彼らを逃すまいと、ストリンディが剣を振り上げたその時。何かに気づいた彼女は大きく跳躍する。一瞬遅れて、耳をつんざく轟音。地面の舗装が砕け散り、破片が舞う。
「機動装甲!?」
脅すような機銃掃射を終え、こちらへ向かってくる機械仕掛けの巨躯を視界にとらえ、ストリンディが驚きの声を上げた。ブースターを吹かして突進してきた機動装甲が、彼女と傭兵たちの間に立ちはだかる。その手からせり出したチェーンソーとドリルが、凶悪そのものの音を立てて回転を始めた。
「……相手にとって不足無しです」
怖じずに剣を構えるストリンディの目が、不意に驚きで見開かれた。二体の機動装甲。その間に一人の人間が立っている。着物のようなデザインの耐蝕コート。生身を覆う外骨格。鈍く光る単眼。両手の五指から伸びた有線が、機動装甲の各所に接続されている。
「人形遣い……?」
「いかにも」
律儀に人形遣い――ギルズリー・オーディルはうなずく。
「“幽玄の風躰のこと、諸道、諸事において幽玄なるをもつて上果とせり”」
彼の引用にストリンディは少し不思議そうに首を傾げてから、すぐに大きく首肯した。
「よく分かりませんが、つまり私と戦いたいという宣言ですね!」
「……全然違うけど、今はそれでいいよ」
納得しきった顔でそう宣言され、ギルズリーは譲歩するしかなかった。
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