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第22話:Sabotage campaign2



◆◆◆◆



 一台の大型タンクローリーが道路を爆走している。


「そうそう、上手上手。頑張れ頑張れ」


 運転席でハンドルを握るクマの旧人の耳元で、可愛らしいドワーフが心底楽しそうに囁く。アシッドレインだ。


「……! ……!!」


 運転手は、歯を食いしばって正面を見据えたまま答えない。


「あはは、ほらほら、そろそろゴールだよ。よかったね」


 肝臓の医療パーツを通じて生きた操り人形にした運転手に、アシッドレインは目標を指し示す。


「そのまま全速力であそこに体当たりだ。このタンクローリーを丸ごと特大の砲弾にしようじゃないか」


 見えてきたのは、バーガーアーキテクチャーの所持する食品プラントを取り囲む外壁だ。


「5……4……3……2……1……ゼロ♪」





「な、な、な、何の爆発ぅ!?」


 機動装甲の発砲に続いて発生した第二の爆音に、今度こそバーガーアーキテクチャーの重役は跳び上がった。普段彼は上層都市スカイライトで経営に勤しんでいるため、下層都市ボーダーラインの馬鹿騒ぎと同義の荒っぽさには恐ろしく不慣れである。


「敵襲です! ただちに迎撃の用意を!」


 幸い、隣の全都市アーマメント普及協会のデーモンは冷静だった。企業間闘争が始まったと理解した彼は、すぐに教書を開き配下の機械化歩兵たちに指令を飛ばす。マスターのコマンドを受けた機械科歩兵たちは一糸乱れぬ動作でライフルの安全装置をはずし、ただちに――その銃口をお互いに向けた。


「ちょっと君! これはどういうことだねぇ!?」


 突如始まった機械化歩兵の同士討ちに、重役は限界まで高まったオクターブで叫ぶ。もはや事態は完全に彼の理解を超えていた。


「ハ、ハッキングですって!? あり得ません!」


 だが、それはエージェントも同様だ。機動装甲に引き続いて機械化歩兵までハッキングされるとは、大金をつぎ込んだセキュリティがこれでは紙切れ同然である。


「オペレーター! 何をしています、敵の攻撃ですよ!」


 デーモンのエージェントは後頭部にインプラントした情報デバイスにアクセスし、別所で待機する協会のオペレーターに連絡を入れる。本来は彼らが機動装甲と機械化歩兵の補助を行うはずだ。ハッカーの攻撃には彼らが対処するよう分担されている。


「オペレーター! 応答しなさい!!」


 完全な無反応にぞっとしたエージェントは、オペレーターのいるルームのカメラに視覚を接続する。そして彼は見た。ずらりと並んだ専用の椅子に座るオペレーターたち。でたらめな文字を延々と映し出す仮想スクリーンと、床にまき散らされた白紙の質料ホログラム。一人の手は、ミネラルウォーターのボトルを握り潰したまま固まっている。


(全員昏倒している。そんな馬鹿な!?)


 協会所属の優秀なオペレーター。その全員が一人残らず無力化されていた。明らかなハッキング。恐らくオペレーターたちはデバイスを通じて、意識に論理病源を流し込まれたのだろう。助けを求める暇さえ与えない、しかしはっきりと蹂躙の痕跡は残す数理攻撃。


「南無三! 仕方ありませんここは私が――!」


 だが、エージェントは諦めない。義肢の親指から有線を伸ばすと教書に接続。暗証コードを入れて機械化歩兵の制御ネットワークに介入。指揮権に巣くう病源の種類を見分けるべく、薬理整式を送ったその時だった。


「“他の過ちは見易けれど、自れのは見難し”」


 その声が聞こえたのを最後に、エージェントの意識は虚空に消失した。





「なんで……なんで……!?」


 重役は食品プラントの正門前で息を切らしていた。目の前でくずおれるエージェントを見た後、彼のメンタルは限界を突破していた。もう彼の頭には逃げることしかなかった。真っ当に企業警察に通報したり、本社に指示を仰ぐことさえ思いつかない。


「ひぃっ!?」


 突然教書が着信を告げ、彼は跳び上がった。


「ど、どういうことだ……?」


 教書を開くとそこには、どういうことかバーガーアーキテクチャーの社長の繋累が今ここに到着したとの私信があった。送信先は一応バーガーアーキテクチャーの本社となっている。なぜ今ここに? 完全に混乱した重役は、それでも普段の習慣に従い、上役の機嫌を損ねないよう大慌てで正門の施錠を解除した。


 分厚い扉が開くと同時に入ってきたのは、一台の高級車だった。運転しているのは人造だ。停車してから後部のドアが開くと、中から一人の少女が姿を現す。銀髪に赤みがかった瞳の、見るからに可憐な少女だ。足が悪いのか杖をついている。重役の脳に疑問符が浮かぶ。確かに外見は育ちのいい少女に見えるが、顔にまったく見覚えがない。


「失礼ですが、お嬢様は社長のご親戚ですか?」


 おずおずと尋ねた彼に、少女は平然と答える。


「いいえ」


 同事に指先の有線が閃いた。


 ――外耳の補助デバイスを介して、一瞬で重役の意識を封じたシェリス・フィアは、サメのように獰猛な笑みを浮かべて叫んだ。


「さあ同業者諸君、お仕事だ。今夜も鳴かないナイチンゲールを縊り殺そうじゃないか!」



◆◆◆◆




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