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第20話:Overselling



◆◆◆◆



 全都市アーマメント普及協会の標榜するスローガンはいくつかあるが、その内の一つが「過剰なる戦力は過剰なる勝算を生む」である。その言葉の通り、この死の商人が企業間闘争に参加する時、大抵の場合多すぎるほどの人員と兵力を送り込んでくる。まさに質より量を地で行く戦法である。しかも当人たちはこれを楽しんでいるからたちが悪い。


 深夜。場所はバーガーアーキテクチャーが所持するとある大型食品プラント。本来ここはバーガーアーキテクチャーが販売するファーストフードを合成し出荷する場所だが、今は秘密裏に運び込まれたある景品の保管場所となっている。その景品とは、ボーダーラインで流行している子供向けアニメ、ミスター・ビーフマンのバブルヘッドだ。


 既に大綱では、このバブルヘッド一式が高額で取引されている。特にシークレットのキング・サーロインのバブルヘッドに至っては、オークション形式で今も値が吊り上がり続けている。バーガーアーキテクチャーが、景品を食品に偽装して保管しているのも当然だ。このバブルヘッドは、言わばサメが群れを成す海に投げ込まれた生肉同然である。


「どうです見て下さいこの勇敢にして壮観な光景を! これぞ我が全都市アーマメント普及協会の精神が具現したものです!」


 景品の管理状況を視察に来たバーガーアーキテクチャーの重役の隣で、全都市アーマメント普及協会のエージェントが熱弁を振るっている。方や小太りで禿頭の人間の男性、方や鉛筆のような細身のデーモンの男性だ。


 二人の視線の先。プラントを取り囲む防壁の内側にずらりと整列しているのは、機械化歩兵の一団である。手足を軽量化したそのボディの形状は甲殻種族に近い。デーモンのエージェントが手に持った教書で信号を送ると、機械化歩兵は一斉にライフルを掲げてポーズを取る。一糸乱れぬ動きは一見すると壮観だが、構文通りに動いているに過ぎない。


「いや、君。私はこれほどの警備が必要だとは言ってないのだが?」


 重役は禿頭に汗を滲ませる。明らかに協会がよこした戦力は、こちらの提示した予算以上だ。こちらは単に景品を秘密裏に警備して欲しかっただけなのに、これからどこかのプラントを強襲できるほどの戦力が送られてくるとは思わなかった。これでは目立ってしょうがない。


「何をおっしゃいます!」


 重役の突っ込みに、エージェントは大げさに反応する。


「ミスター・ビーフマンのバブルヘッドを守るためならば、これくらいの派兵は当然ですよ! いえ、むしろ足りません! この程度の戦力では到底足りませんよ!」


 手足を振り回して叫ぶエージェントだったが、突如彼の教書が着信のベルを鳴らす。


「……私です」


 すぐに誰かと通話するエージェントだったが……。


「おお、来ましたか。よかったです! ええ、はい、当然今すぐここにお願いします!」


 教書を閉じたデーモンは、そのヤギに似た顔に満面の笑みを浮かべて言った。


「お喜び下さい! 今ここに我が協会の精鋭が到着いたしました! どうぞご覧下さい!」


 その言葉に重役はのけぞった。


「え? いや、これ以上はもう……」


 このトリガーハッピーはまだ何か送りつけてくるのか。


「さあ、クライエントに見せて差し上げましょう!」


 重役の否定を完全に無視し、エージェントはあたかもコンサートの指揮者のように両手を振り上げる。それと同事に、近くに駐車してあった協会の大型輸送機が反応した。


「どうですこれを! あらゆる地上戦力と単体で比肩しうる機動装甲“蛮勇52型”です!」


 内部に展開した転送の数理が終わったのか、コンテナが開く。そこからのっそりと姿を現したのは、あたかも金属製の二足歩行する昆虫……あるいはヒトの要素の混じった恐竜だ。


「究極! 無敵! 最強! 万能! ステキ! カッコイイ! キンボシ!」


 テンションが上がりすぎたエージェントはともかく、こちらに向かってきた二体の機動装甲は、その全貌を照明の下に露わにした。生身で相対するだけで恐怖を覚えるその巨躯。滑らかな輝きを放つ流体装甲。両手に備え付けられた大口径の機関銃と肩にマウントした数理榴弾砲。さらに腕の装甲に隠れた近接戦闘用のドリルとチェーンソー。


 生身のヒトが搭乗する“重機”とは異なり、この機動装甲はヒトの脳髄がパーツとして組み込まれている。言わば特大サイズの機体である。二体の機動装甲は、自らの武力を誇示するかのようにその場でゆっくり回転してから、こちらに背を向けた。その両肩の砲身が何度か位置を微調整し、そして……。


「……は?」


 重役は目を疑った。


 何を思ったか、機動装甲は突如プラントの防壁に向かって発砲したのだ。轟音と共に、堅固なはずの防壁に大穴が空く。


「……君」

「……何でしょうか?」


 ぎこちなくこちらを向く協会のエージェントに、重役はすがるように尋ねた。


「あれも……君たち協会のパフォーマンスの一環なのかね? そうだろうね?」


 残念ながら返答はなかった。



◆◆◆◆




ボーダーラインでしのぎを削るファーストフードのキャッチフレーズ

 *バーガーアーキテクチャー:「楽しくて! 速くて! 設計図通り!」

 *バンプ・ピザ:「おいしさはメガトン! ボリュームはギガトン!!」

 *ニンジャ・スシ:「ニンジャも驚く! ニンジャが握る! それはスシ!」

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