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第18話:Chattering



◆◆◆◆



 あまりに直球の脅しに、俺は失笑した。意識だけで矯正整式に破却構文を送り込んでから口を開く。


「失せろ雑魚が。その役立たずのお荷物を今軽くしてやろうか?」


 有線を接続して医療用パーツをハッキング。希代のボマー、インスペクターから拝借した高濃度揮発構文を流し込めば、炸裂する大脳花火のできあがりだ。店内は拍手喝采間違いなし。


 俺の返答に、今度はアシッドレインの反対側の顔が引きつった。笑える表情だ。アシッドレインの濁った方の目が動く。視線をワイヤリングしているのが丸わかりだ。俺はフライドポテトをつまんでいた指から有線をちらつかせる。この緊迫感。力士が土俵で向かい合った状態に近いだろう。行司がどこにいるのかは知らんが。


「――やだなあ、冗談だよ冗談。僕が身内には優しいのは知ってるだろう?」


 先に折れたのはアシッドレインだった。


「もちろん知ってるわよ。今のは演じてみただけ。格好良かったでしょう?」


 空々しい笑顔を向けられ、俺もお淑やかにほほ笑む。


「最悪だね」


 気に食わない答えが返ってきたので、俺も率直に答えてやった。


「あなたこそ最低よ」





 授業を終えて帰り支度をする俺の近くで、ストリンディ・ラーズドラングを取り囲む女生徒たちという毎度おなじみの光景が繰り広げられている。


「ストリンディさん、これからお茶会ですのでご一緒しません? ラズベリータルトを用意しましたの」

「ストリンディさん、ご一緒に乗馬を楽しみません? 今日は湖畔の方に行こうと思っているんです」

「ストリンディさん、是非ご一緒したい美術館がございますの。素敵な夕べにいたしましょう?」


 女子たちは口々にまくし立て、ストリンディを自分たちの会合に参加させようとしている。我が校の王子様は今日も人気者だ。


「皆さん、大変申し訳ありません。これから騎士としての治安維持活動の予定が入っているんです。お気持ちだけ、いただきます」


 しかし、済まなそうな顔でストリンディは女子たちの申し出を断った。


「まあ、そうでしたの」

「ストリンディさんは騎士ですものね」

「なんて高潔なんでしょう……」


 女子たちは残念そうにしつつも嬉しそうだ。


「でも、皆さん誘って下さりありがとうございます。嬉しかったですよ」


 そのフォローと微笑で、たちまち女子たちは頬を真っ赤に染めていた。


「ああ、今日もストリンディさんは気高いわ。下品な男子とは大違いよ」

「あの凛々しいお姿、有象無象の男子なんかよりもずっと素敵だわ」


 俺の隣に二人の女生徒が立ち、うっとりとストリンディを見つめている。


「それなのに、危険な下層都市に出向されるなんて……」

「ストリンディさんを貶める騎士団の陰謀かしら。もしそうなら許せませんわ」


 しかし、やたらと二人があいつを持ち上げるので、俺はつい丁寧な皮肉を口にしてしまう。


「箒とちり取りは壁に立てかけて飾っておくのではなく、実際に使ってこそ意味のあるもの。騎士も肩書きだけでは無職と変わりないでしょう? 適材適所ではないかしら?」


 案の定、俺を見る二人の視線が一気にきつくなった。


「あら、シェリスさん。常々ストリンディさんに助けていただきながら、そんな言い方は無礼ではないかしら?」

「それともあの方々に嫉妬してるのかしら? まあ、随分と見苦しいわ」

「見逃せない非礼よ。謝罪しなさい」

「そうよ。ちゃんとストリンディさんに謝るべきよ」


 俺の一言に対し、十倍の騒音が二つの口からまくし立てられる。


「私の非礼など可愛いものよ。何が“下品な男子”“有象無象の男子”かしら」


 だが、上層都市のお嬢様が気色ばんでも怖いどころか笑えるだけだ。俺は笑みを深くする。よく見るとこの二人、一つの共通点があったからだ。その口を黙らせる格好のネタがあった。


「ほかでもないお二人こそ、その下品で有象無象な男子に熱を上げているのに――ねえ?」


 俺がそう言うと、一瞬で二人の顔が青ざめた。


「な、何のことかしら」

「へ、変な言いがかりは止めて下さる?」


 やはり図星だ。外面は異性なんて眼中にない純潔を気取っても、内面は青春まっただ中らしい。悪いが俺は下層都市のハッカー、追い詰める時は徹底的にやるのが主義の人間だ。


「まあ、この学院は異性との交遊が厳禁ではないけれど……」


 教書を開き、俺は二枚の写真を質料ホログラムにして二人に差し出した。そこには、人目を忍んで他校の男子と密会する二人が写っている。以前校内の監視カメラをハッキングして入手した映像だ。別に、取り立てて珍しくもないカップルの写真だ。


「少なくとも、なし崩しで二股をかけるような浮気性の男子とは付き合わない方がいいと思うわ」


 ――ただし、そこに写っている彼氏が同一人物であることを除いて、だが。


 今度こそ顔面蒼白になって絶句し、恥辱と憤怒で全身を振るわせる二人を横目に、俺はその場を後にした。親しい友人だと思っていたのが実は恋敵であり、こっそり付き合っていた彼氏が実は浮気者だと知った二人が今後どうするかなど、俺には心底どうでもいいことだった。



◆◆◆◆




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