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第14話:No admittance



◆◆◆◆



 〈大綱〉。都市のすべての人間がアクセスする超巨大の通信網。ハッカーのホームグラウンド。共感する幻想。膨大な情報が日々行き来するその大河の上層には、〈天蓋〉と呼ばれる未踏の領域が広がっている。幻想と書いた通り、大綱にアクセスする俺たちはただ情報を得るだけではない。情報が作り出す仮想の空間を、幻だが五感で体験するのだ。


 殺風景な事務所を模した仮想空間の内部に俺はいる。


「お気に召したかしら?」


 俺の視線の先で、机に向かい書類に目を通すエードルトがいた。俺に組み込んだ整式を通して、こいつは俺の学院での生活を見ていた。肉体ではなく情報だけで、俺たちは顔を合わせている。


「正直に言って、大いに期待はずれだ」


 エードルトは不快そうな顔で俺を見る。


「あなたが勝手に期待しているだけでしょう? いい加減目的をはっきりさせてもらいたいわね」


 実際、こいつは俺にボディを与えて学院に通わせ、その後はほぼ放置している。


「ならば、君に手近な目標を提示しよう」


 いらいらした様子でエードルトは机を指で叩く。不思議なことに、こいつはどれだけ腹を立てても俺に手を上げたことはない。


「君の通う学院には『シークレットガーデン』という、推薦された生徒しか入れない会合がある。これに参入しろ。正確には、この会合の拠点である秘匿庭園に入れるよう段取りを付けろ」


 やれやれ、ようやくまともな仕事だ。秘密の会合に入り込むこと、封鎖された場所に侵入すること。いずれもハッカーの十八番じゃないか。


「報酬はおいくらかしら?」


 俺がそう言うと、エードルトの顔が怒りで引きつった。ハッカーに仕事を依頼するなら報酬が不可欠だろう? こいつの世間知らずには本当に驚かされる。


「君の腐った性根には呆れかえる。守銭奴め」


 しかし、結局エードルトが提示した金額は思ったよりも気前がよかった。つくづく、こいつの考えは分からない。


「名簿を改竄して潜り込むわ」


 報酬の額に納得した俺は、次にやり方を教える。


「やめろ。君たちハッカーは、何を命じても悪辣な方法しか取らない。ゴミどもめ」


 エードルトはそう吐き捨てると俺を睨む。まるで、俺に自分の大事なものを踏みにじられているかのような顔で。とんだ被害妄想だ。


「身を切られるほど不愉快だが、その顔で媚びを売って推薦されろ。いいな?」





「申し訳ないけれども、あなたをシークレットガーデンに推薦することはできないわ」


 授業が早めに終わった午後。俺は学院の中庭にあるあずまやにいた。テーブルにはケーキと紅茶。椅子に座る俺に向かいには、二人の上級生がいる。ふわふわの茶色の髪を長く伸ばした人なつっこそうなキツネの旧人と、黒髪で褐色の肌の落ち着いた物腰の人間だ。


「……ど、どうしてですか?」


 エードルトから依頼を受けてからすぐ、俺は噂好きな同級生の伝手を使い、シークレットガーデンへの参入を希望した。結果が通知されたのは一週間後の今日。しかも不合格だった。


「私、こんなに頑張ったのに……先輩たちに近づきたくて、少しでもいいから先輩たちのお役に立ちたくて、私努力したんです!」


 俺は健気な後輩を演じるが、シークレットガーデンに属する二人の上級生、茶色の髪のキツネの旧人であるミューノと黒髪の人間であるジェレヴは頑として首を縦に振らない。


「シークレットガーデンは選ばれた生徒たちだけが入れるサロン。人格、品性、作法、様々な点において優雅さが求められるわ」

「でもあなた、矯正整式を入れてるでしょ?」

「はい。生まれつき体が弱くて、急に興奮したり激しい運動をして心臓に負担がかからないよう、医療用の整式で行動を矯正しているんです」


 俺はもっともらしい理由を並べ立てる。


「それが問題なの」


 ミューノがうなずく。


「聖アドヴェント学院の生徒は、優雅を旨とすべし。それは構文によって書かれ、整式によって形作られたものでは駄目なのよ」

「そんな……それじゃ、体の弱い私はどう頑張っても無理ってことじゃないですか?」


 ただでさえ忌々しい矯正整式が、ここでも足を引っ張るとは腹が立つ。


「違うわ、よく聞いて」


 ジェレヴが首を左右に振る。


「頑張ってこの学院にいる間、礼儀正しさと他人を敬う気持ちを培いなさい? そうすればきっと、あなたは素敵な淑女になれるわよ」

「先輩のような……ですか?」

「ええ。私たちも最初は右も左も分からないただの一生徒だったけれども、日々の努力を惜しまなかったから、ここまで成長できたのよ」

「入学したばかりは紅茶一つまともに煎れられなかったけれども、今はこうしてあなたをもてなすこともできるわ」


 話を教訓的にまとめようとする二人だが、俺は徐々に苛ついてきた。


「よく分かりました。先輩方はシークレットガーデンに属する生徒として、いついかなる時でも、どのような茶会であろうと、優雅に振る舞えるということですね。そしてその優雅さが、矯正整式を入れた私には足りない、というわけですか」


 媚を売っていても埒があかない。ならば、はっきり俺の実力を見せつける必要がある。


「いえ、そこまでは……」



◆◆◆◆




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