女神とゲームして遊ぶだけ
今日は家でずっとゲームをすることに決めた。
そう、こういうだらだらした空間こそがスローライフなのだ。
「というわけで長時間使うRPGとかやるぞ!」
自室に大型液晶テレビとゲーム機をセット。
どっちも近未来っぽい世界のやつ。前のシリーズ買ってたので気になっていた。
「先生こういうの好きね」
「うむ、暇つぶしには最適だぞ」
適当にベッドに座り、うだうだとゲームをしてやるぜ。
お菓子と飲み物も用意した。適当に空中に超能力で固定して、こぼれないように時間停止の魔法をピンポイントでかけておく。
「おぉー、別世界のゲームですね」
「女神界にもゲームあるよな」
「いっぱいありますよー。今度持ってきましょうか?」
「頼む」
そしてスイッチオン。今回は王道ファンタジーである。
その世界では最新機種だけあって、ムービーの作り込みが凄い。
「今いるこの世界がもうファンタジーよね」
「照らし合わせたりして遊ぶのだ」
「無駄に高度な遊び方しますね」
実際のファンタジー世界とどう違うのか、どっちが面白そうとか考えて遊ぶのだ。
我ながらよくわからんことをしているが、無駄に面白いしおすすめ。
「いいね、ターン制はシンプルでいい」
「アクションはだめなんですか?」
せんべい食いながら画面を見ているリコ。お前絶対にベッドくんなよ。食いかすが散らばるだろ。
「アクションはちゃんと本格的なやつを、アクションゲームでやりたい」
「ムービーで突然ボタン押さなきゃいけないのもあるわね」
「最悪だろあれ」
あれを根絶するのは勇者活動にあたらないことを祈る。やらないけど。
「お姫様を助け出すやつですね」
「王道だな」
「先生も助けたりしたの?」
「したぞ。アホほどした」
なんでさらうの姫なんだろうな。王子だと強い主人公にイメージある。
人質としては、身分があって弱い方が都合がいいのか。
「なんかこう、褒美に姫と結婚させてやるーとかなかったんですか?」
「一切ないぞ。なんか恋愛とかの経験が一回もないんだよ俺」
「意外ね。先生を好きな子は多いと思ったのに」
「本当にまったくない。姫を助けるのも勇者っぽいからで、女に興味があったわけじゃないし」
ゲームはムービーが終わり、とりあえず城の周辺で雑魚を狩っているところ。
俺にもこんな時期があった気がする。どんだけ前かすら想像つかんけど。
「えー、じゃあ印象に残っているお姫様とかいないんですか?」
「それは私も聞きたいかな。先生の記憶に残るのはどんな子なのか」
言われて記憶の海を探る。同時に次の街での買い物とセーブを忘れない。
「世界各地にいる十二人の姫を集めろとか、意味わからんのがあってな」
「うわあ、めんどいですね」
「そいつらがまた結界があって出られないだの、大切な王冠を奪われたから取ってこいだの……」
「災難ね」
普通の世界の何倍もおつかいクエストあったなあ。
ああいうの省略する魔法とか覚えたもんだ。テレポートとか位置情報とか。
「おっ、仲間出てきたぞ」
仲間は魔法使いの男らしい。主人公が戦士タイプだから、バランスが良くなったぞ。
「アキラ様はパーティー組まないんですか?」
「超昔には、異世界ごとにいた。そのあと固定でずっと異世界めぐりしてたな」
「おおっ、どんなでした?」
今日は懐かしいことをよく思い出す日だな。かなり好き放題勇者やっていたから、毎日が楽しく早く過ぎていった。ゆっくり思い出に浸るって機会は意外と少ない。
「戦士と遊び人だよ。そこに現地の女神を入れて四人が多かった」
「私その時代知らないわ。出会った頃には、もう仲間とかいなかったわね」
組んでくれるやつがいなくなるからな。最終的にはずっと女神との二人旅ばかりになる。
「先生についていける人がいないのね」
「鍛えりゃ世界くらいは救えるんだが、俺に勝つ必要もないからな」
勇者は戦闘狂じゃない。無関係な人を殴ったりはしないのだ。
組手や稽古ならまだわかるが、仲間でどっちが強いとか、そこまで考えない。
「見てるだけじゃ暇ですよー」
「そうか、なら別のゲームするか」
RPGやってるの見てもつまらんらしい。なんか適当に格ゲーでもするかね。
「いいこと思いつきました!」
「却下で」
「聞いてもいないのに!?」
「どうせろくでもないんだろ?」
「ふっふっふ、メンコで勝負です!」
メンコ持ちながらポーズ決めてる女神を始めて見たかもしれない。
「ちょいさー!」
ぱしーんとリコのメンコが床に叩きつけられる。
どうも紙じゃねえなあれ。だが無駄だ。
「甘いな」
俺も即席でメンコを錬成。この程度は無から錬金術で作り出せる。
「ちょいさー!」
ぺしーんと床に叩きつけ、リコのメンコをひっくり返す。
ちなみに風は部屋が荒れないように結界を張った。
「ぬあああぁ!? どうして!?」
「お前はどうせ硬い金属ってことで、オリハルコンあたりをイメージしたんだろ?」
「なぜそれを!?」
すげえ驚いている。バレないわけねえだろ。
「あれは硬くて値段が張るが、一番重い物質じゃない。メンコに必要なのは、重さとパワーとテクニックだ」
「くっ、盲点でした」
「なにやってるのよ二人とも」
クシナダが呆れ気味である。RPG勝手に進めてやがるぞ。暇になったんだな。
「次はベーゴマです!」
「よかろう。ベーゴマのすごいやつで世界を救った俺をなめるなよ」
「なにやってるの先生」
そして二人のベーゴマがぶつかる。
「ちょいさー!」
「ちょいさー!」
「それ言わないとだめなの?」
激しく火花を散らすベーゴマだが、リコが魔力を込め始めたことで変わる。
「ふっふっふ、女神パワーを受けてみるのです!」
「だから甘いんだよ」
数回ぶつけ合い、リコが調子こいてきた。狙い通りだな。
「ほいっと」
後先考えずに猛スピードで突っ込んでくるので、寸前でかわして壁に激突させる。
「あああぁぁぁぁぁ!?」
壁は結界で強化されている。あえなく粉々になったベーゴマ。つまり俺の勝ち。
「うぐぐぐぐ……これが勇者のパワー」
「勇者関係ないわよこれ」
「勇者はベーゴマでも本気を出すぜ」
「勇者どうというか、大人としてどうなの先生」
そんなこんなで遊び倒し、もう夕方だ。いいぞ、今の俺は間違いなく堕落できている。
「遊ぶとお腹が空きますね。カロリーを使ったので、カツ丼お願いします」
「女神が食うもんじゃねえだろ。もっと威厳とか神々しさとかだな……」
「キャビアのせカツ丼で」
「威厳イコール高いという発想が貧困だわ」
結局クシナダがキャビアカツ丼を作った。
こいつクラスになると、アレンジきかせても料理のレベルが落ちない。
「おいしいです!!」
「いい味だ。よく両立できるな」
「この程度の苦境は乗り切れるのよ」
リコは五杯もおかわりしていた。むしろそれだけで済んだと言うべきか。
「さて、では今回のお告げはどうしましょうか」
「まず口のまわりの米粒をどうにかしろ」
「たまには休息とレクリエーションが必要。でどうかしら?」
「最高ですクシナダさん!」
こんな雑でもいいのかね。あの勇者パーティーは親睦を深めることも、休息も必要だってのはわかる。真面目そうだからなミルフィ。
「勇者よ、たまにはリラックスして遊ぶのです。戦いのストレスは休息で解消するのが一番ですよ」
こいつは常にリラックス全開だけどな。ある意味俺のスローライフとは、そういうものかもしれない。研究の余地が……あるのだろうか。
駄目になるのとスローライフは違う気もするぞ。
「よっし、お告げ終わりました!」
「じゃあゲーム再開だな」
「えー、じゃあみんなでやれるやつにしましょう。ミニゲーム集みたいなやつ!」
「いいわね。それやりましょうか」
こうして女神と遊んでいるだけで一日が過ぎていった。
騒がしいが、こういう空気は嫌いじゃない。
明日もこうであることを願うよ。