チュートリアル四天王
暖かい日差しがとても心地よい午後。
テレビを付け、ぼーっと知らん世界の番組を眺める。
俺ならこういうことも可能だ。
「これはこれで暇だな」
「アキラ様! テレビ貸してください!」
リコが来た。何か急いでいるようだ。
「どうした?」
「勇者がチュートリアル四天王と戦うみたいです」
「なんだその初心者に優しそうな名前は」
「チュートリアル四天王といえば、最も普通で特に強くもなく、こいつらが倒せなければ他の場所に行くなとも言われている四天王です」
「かわいそうだろ。誰が言い出したんだよそれ」
「魔王軍です」
「味方に言われてんの!?」
その集団かわいそうじゃないかな。いいのかそれで魔王軍よ。
「最近王都の近くに塔が建ち、そこを拠点にしているとか」
「なかなか最初の大陸から出らんないな勇者」
「結構魔王軍がいますからね」
テレビに勇者たちを映してみる。
塔の最上階で、敵っぽいの二人と戦っているようだ。
『ひぇっひぇっ、ここまで来たことは褒めてやる。しかし火炎将軍メラメラと』
『氷結将軍カチコチの手で地獄に送ってやるぜ!』
「名前だっせえ……」
髪と髭が炎のじいさんがメラメラ。
人型の氷の塊みたいなのがカチコチだろう。
どっちも人間じゃないな。
『この程度ならなんとかなりそうね』
『一気に倒しましょう!』
『ぬかせ、ヒューイを倒したからといって調子に乗るでない』
「もう一人やられてんじゃねえか」
風属性の敵らしい。本当に初心者向けなんだな。
『そのへんの冒険者に負けたツチーノとは違うぜ!』
「せめて勇者に負けろや!」
ちょっと強いだけの敵だろそれ。見守る必要あるのかね。
どう見ても強そうじゃない。
「なんか勝っちゃいそうですね」
「ほっときゃ勝つなこれ」
終始勇者優勢である。
順調に戦闘経験を積んでいるため、この程度の敵なら問題ない。
『ここだあ!!』
『この私に傷を! 許せん!!』
勇者の斬撃で容赦なく傷が増えていく敵さん。
「剣強いですね」
「しっかりダメージ入るように作ったからな」
やはり攻撃が通るというのはいい。どんな敵でも倒せる可能性が出るってことだ。
『我らを倒せるとは……こいつら、初心者を卒業する気だぜ!』
「どういう心境だお前ら」
『我らを倒しても、さらに強い四天王やモンスターがいる。本当に初心者じゃなくなってもよいのか?』
「どの立場からの発言なんだよ」
気遣ってんの? なんか親切な人っぽくなってない?
倒されたいのかなんなのか。不明な点が多すぎる。
『見せてやるよ、初心者の壁ってやつをな!』
『かっこいいのか判別できんでヤンスな』
『さっさと倒しちゃいましょうよ』
『よし、まずはメラメラを倒そう!!』
片方に狙いを定めたな。実力が離れているならいい判断だ。
確実に潰せば、戦闘は有利になる。
『卑怯な! そんなものに我々が対処できると思うてか!』
「やめちまえ四天王」
『痩せても枯れても四天王! このまま一方的に負けるわけぎゃああぁぁぁ!?』
『メラメラー!!』
普通にメラメラが切り裂かれて消えた。
うんまあ頑張ったよ。もうそれしかコメントできん。
「いいのかねこんなんで」
横のリコはどうしている……いねえ。あいつどこ行った。
「リコどこ行ったー?」
「お呼びですか?」
厨房から声がした。電子レンジで何かチンしている。
「いやいやお前何してんの!?」
「お腹が空きました!」
無駄にでかい胸を張り、堂々と空腹を訴えてくるアホ。
「空きましたじゃねえ! 勇者戦ってるだろうが!」
「もう楽勝でしょう。アキラ様も食べます?」
山盛りのチャーハンに、嫌がらせかと思うレベルで唐揚げが乗っている。
「そんな食うなや人の家で」
「はいアキラ様のぶんです」
大盛りを渡してきた。こっちは成人男性なら食いきれる量だ。
「変なところで気遣いを……」
「これで一緒に食べたことになりますね」
「それが狙いか」
食ってみるとうまい。これクシナダが作り置きして時間止めておいたやつだな。
適当にテレビみながらちまちま食う。
リコは猛スピードで食っていた。
『見事だ勇者一行。だが初心者がいる限り、チュートリアルは大切なもの。初心忘るべからずだあああぁぁぁ!!』
そして爆散した四天王最後の男。
「だからお前らどうなりたいんだよ!」
『まだまだ甘いな。やっとチュートリアルを倒せた程度とは』
『何奴!!』
『我らは難易度四天王。勇者の首、貰い受ける!!』
変な三人組が出てきた。全員同じデザインで、金銀銅の鎧だ。
「難易度四天王!? まずいですよこれ!」
口の周りに米粒くっつけながら驚くリコ。
はしたないからやめなさい。
「強いのか?」
「結構強いですよ。難しい・普通・優しいの三人組です」
「四人いねえのかよ」
「いましたよ。すごく優しいが。そのへんの冒険者に倒されちゃいましたけど」
「学習しろや魔王軍!!」
俺がいなくてもいいんじゃないかこの世界。アホばっかりかよ。
『グアアアアア!!』
『ふん、優しいがやられたか。所詮やつは初心者向け難易度よ』
「お前の気持ちが一切わからん」
『普通もたいしたことないでヤンスよ』
『すまない難しい……後は頼む……グフア!!』
速攻で普通もやられたぞ。勇者が強いのか、敵が間抜けなのか判別できん。
「難しいは強敵ですよ」
「他のやつとどう違うんだ?」
「HPと攻撃力と防御力が跳ね上がります」
「つまんねえゲームにありがちなやつだろそれ」
無駄に時間だけ使わされる作業みたいなタイプだ。
あれだるいんだよなあ。達成感もない。
『フハハハ!! ぬるいぬるい!!』
『こいつ……めんどい!』
『伝説の剣よ……どうか力を!!』
勇者の剣が輝き、全員を回復させつつ、ステータスも上げていく。
そういう風に作っておいた。自信作である。
「うわー便利ですねあれ」
「勇者なら必要だと思ってな」
『これならいけます! みんなの力をひとつに!』
そして三人の同時攻撃で押し込まれる。これは勝ちが決まったな。
『ありえん! 我輩を倒すのは、本当に難しいのだぞ!』
『それでも、勝てない相手じゃないのよ!』
『難しかろうと乗り越える。それが勇者パーティーでヤンスよ』
忍者がいいこと言った。それでこそ勇者である。
『これで……最後です!!』
『バカな……こんなバカなあああぁぁぁ!!』
光に飲まれて消えていく敵。
『やりました!』
『このくらいはできなくっちゃあ、世界なんて救えないもんね』
『絆と勇気の勝利でヤンス』
どうやら魔法で王都へと帰るようだ。無事に討伐が終わって何よりだよ。
「このレベルならギリギリ倒せるっぽいな」
「ちなみにアキラ様の難しかった敵ってどんなでした?」
「覚えてねえ……どんくらい前だろ、俺に傷とかついたの」
本当に気が遠くなるくらい前だな。敵なんてどれも一緒になっていくし。
「苦戦したっていうか、この際武力は関係なくていいですよ」
妙に話を振ってくると思えば、チャーハン食い終わって暇なんだなこいつ。
「あれだよ、超高次元の邪神的なやつがいてな」
「強かったんですか?」
「ある意味な。殴れば消せるんだが、その世界はクイズで戦う世界だった。だから早押しクイズやらされて、無駄に手間かかったんだよ」
「ちょっと楽しそうですね」
「芸能と神話関係の問題がうざかった」
遠い昔のことのように、という言い回しがあるが、俺にとっちゃ本当に大昔だからなあ。そういう変なやつしか印象に残らんのだ。
「変な世界ばっかり救ってますねえ」
「途中でネタっぽい世界を挟むんだよ。そうするとマンネリを防げる」
さてチャーハンも食べきったし、少し昼寝でもしようかね。
「先生ったら、リコちゃんとランチかい?」
クシナダが二階から降りてきた。なんか不機嫌っぽい。
勝手に作り置きを食ったからか。
「リコがチャーハン全部食っちまったぞ」
「ずるい! アキラ様も食べたじゃないですか!」
「そこじゃないんだけど……まあいいわ。暇ならゲームしましょ。別世界の最新機を持ってきたわ」
「よし、今日は遊ぶぞ。家でだらだらゲーム。これもスローライフだ」
そんなわけで三人でゲームして遊ぶ。こういう時間はあってもいいな。
スローライフというものがわかりかけてきた気がする。
明日もこういう感じでいこうと、ひっそり心に誓った。