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ファイナルダークネスハイパーカイザーウルトラめっちゃすごい暗黒竜

「アキラ様! わたしはこのお肉が食べたいです!」


 暇していたある日。リコが雑誌持ってきた。

 そこにはでっかくて黒いドラゴンがのっている。


「意味わからん。食えそうにないぞ」


「なに言ってるんですかアキラ様! この世界のファイナルダークネスハイパーカイザーウルトラめっちゃすごい暗黒竜のお肉は最高だと風の噂で聞きましたよ!!」


 すげえ曖昧な情報をまくしたてられるアキラ様の気持ちも考えてください。


「頬骨の近くのお肉が希少で最高らしいです!」


「知らんがな」


「リコはこれを楽しみに、アキラ様と出会う前の一ヶ月間を生きてきました」


「人生のレール敷き間違ってんなお前」


 目がキラキラしているのがまためんどい。

 こいつ食欲だけで動いてやがるな。


「早速取ってきてください!」


「……ん?」


「ドラゴンですよ。極悪暗黒山にいます」


「………………俺が!?」


 なぜ俺が行かねばならんのだ。最低限リコが行けや。


「お腹は何もしなくても減っていくんですよ!」


「知るかボケエ!」


「はいはい、今おにぎり作ってあげたから。先生もどうかな」


「おにぎり! やはりクシナダさんは女神です!」


 クシナダはなぜかおにぎりを作っていた。

 こいつらの行動原理が理解できんぞ。


「一応お前も女神なんだけどな」


 おにぎりを一個食べてみる。当然だがうまい。

 中身が焼き肉だ。昨日の晩飯から流用してんな。

 できる主婦みたいだなあこいつ。


「おにぎりだけでは足りない……やはりドラゴンとってきましょう!」


「たまには外に出たらどう? 先生もこの世界で遊んでみるとか」


「この敷地からは出ないぜ。スローライフじゃなくなっちまうからな」


 今の俺は勇者活動を禁止され、この世界に追放された一般人だ。

 冒険などしてはいけない。まるで勇者みたいで、スローライフではないからな。


「リコが行ってこいよ」


「わたしはおにぎりを見張っています!」


「絶対食うだろ」


「わたし以外のお腹に入らないように見張ります!」


「結局お前が食うんだろうが!!」


 こいつ食欲以外の機能ねえのか。

 めんどい。正直こいつのために出かけるのが嫌です。


「えー、いいじゃないですか。獲物をとって食べる。自給自足ですよ」


「……自給自足だと? おいおいおいおいおい……すげえスローライフっぽいじゃねえか」


 なんかのんびり暮らしているイメージだな。

 ほうほう、こいつは悪くないぜ。


「まだ呪縛が解けていないのね先生」


「わたしが見守ってあげますから、安全は確保できますよ」


「お前が一番厄介だよ」


「アキラ様は魔法がお得意な勇者だったんでしょう? なので魔法を使いやすいように、防御魔法をかけてあげます! そして無事を祈ります!」


「別に魔法主体じゃないぞ」


 どうも錬金や時間停止を使ったせいで、魔法特化型だと思われているようだ。

 別に不都合もないし、それはそれでいいや。


「しょうがないなあ……なら私が先生とお出かけね」


「冒険は勇者がするもんだぞ」


「食材を調達するだけ。ちょっとしたお出かけよ。先生とお出かけ」


 妙に楽しそうだな。そしてなんか強引だ。

 こいつも女神。俺を追放したのを気にしているのかもしれない。

 外に連れ出して、少しでも俺の気が晴れるようにと気遣っているのかも。

 ならそういう心配は解消してやるべきだな。


「よし、行くか」


「クシナダさんは強い女神っぽいですし、アキラ様に何かあっても安心ですね!」


「先生に何かあるなら全世界の終わりだよ」


「じゃあ移動するぞ。掴まれ」


「こうかな?」


 腕を組んでくる。別にいいけどさ。雑誌の山の麓まで瞬間移動した。


「あれが暗黒地獄山だね」


「名前ちがくね?」


 びしっと紫と黒で彩られた不吉満載な山を指さしている。

 何だあの景観台無しな山は。


『ドラゴンはなんか凄い強いらしいです。凶暴で、気まぐれに人間の街を滅ぼす悪いやつで、たまに人里に降りてくるらしいので、そこが狩りチャンスです!』


 お告げの要領で俺たちにテレパシー飛ばしてくるリコ。

 便利で優秀だねえ女神って。


「降りる前に倒すしか無いな」


『あっ……』


「どうしたリコ?」


『中身シャケなんですね』


「完全におにぎり食ってるよな!?」


 フリーダム過ぎませんんかリコさんや。

 優秀ではないねこれは。


「出てきたよ。がんばって先生」


 山からアホほどでかいドラゴンが飛んでくる。

 ほっといたら街に行くぞあれ。


「ああもう……なるべく傷つけない方がいいよな?」


『食べられる部分は多い方がいいです!』


「お前もう黙っとけ! とりあえず降ろすか」


 まずドラゴンの頭へ瞬間移動しまして。


「はいちょっとごめんよ」


 催眠術で眠らせて、サイコキネシスで体の自由を奪ったら、そのまま地上へ瞬間移動。


「これでいいか?」


「流石は先生。いい手際ね」


「リコ、これどうする?」


『むぐむぐ……おかかですか……もぐ……こっちは昆布……』


「聞けや!!」


 おにぎりに夢中っぽい。食いしん坊にも程がある。


『あっドラゴンどうなりました?』


「見てねえのかよ!? ほら捕まえたぞ」


『凄いです! 伝説の勇者様って本当にいたんですね!』


「俺のことなんだと思ってたのさ」


『一緒にいるとご飯くれる人!』


 即答されると怒りも湧いてこないね。

 戦いは見てなかったらしい。見せびらかすもんじゃないし、そこはいいや。


『じゃあ料理作ってください!!』


「…………ん?」


『早速作ってください!!』


「………………俺が!?」


『もちろんです!』


「もちろんと言える理由が一個もねえわ!」


 始めての食材だぞ。こんなもん地元の人にでもやってもらうもんだろ。


「捌ける人にやらせろって」


「そんな先生のために、料理本を持ってきたよ」


「ナイスだクシナダ」


『最高ですクシナダさん!!』


「お前は最悪だぞ」


 そんなわけで入り口まで浮かせて運ぶ。


「ファイナルダークネスハイパーカイザーウルトラめっちゃすごい暗黒竜の食べ方……正式名称なのかよ」


『でもそれまだ生きてますよね?』


「魂だけ分離してあの世に送ればいいだろ」


 霊力を放ち、ドラゴンの肉体から魂を追い出す。

 あとはあの世へ叩き落とせば終わり。

 ドラゴンの体には傷一つついちゃいない。


「これでよし」


『うわあ……引きます。なんですかその即死チート技は』


「引くなや!?」


 なぜ俺が女神にドン引きされにゃならんのだ。完全に予想外だわ。


「超穏便に済ませただろ。誰も傷ついてないんだぞ」


「それが異常なのよ先生」


「面倒だから内臓器官とかも消しておいたぞ。血やらで汚れたり、臭くなったりしない」


『…………アキラ様って、もしかして魔法すっごく詳しいんですか? 実は勇者じゃなくて賢者とか』


「普通に勇者やってたぞ」


「あれは普通なのかなあ……」


 そこで遥か遠くに人の気配。それもかなり数が多い。


「人が来るぞ」


「ドラゴンが飛んでいるのでも見つけたのかしら? 退治に来たんじゃない?」


「まずいな。帰るぞ。掴まれ」


「はーい」


 クシナダとドラゴンと一緒にテレポート。

 行きが魔法で瞬間移動だったんで、帰りは超能力でテレポートにしてみた。

 こういう遊び心が飽きない毎日を作るのだ。


「ほい到着。離れろクシナダ」


「むうー。もう終わり?」


「家についただろ」


 なんか渋々離れるクシナダ。お前は何がしたいんだ。


「外に道具は揃えておきました!」


 リコが調理道具とかいろいろをセットしている。

 ドラゴンはでかいからな。別に空間いじりゃいいんだけど。


「はいはい、やりゃいいんだろやりゃ」


「ああその包丁じゃ無理ですよ。こっちの大きな……」


 包丁を手に取り、本で読んだ通りに捌いていく。


「こんなもんかな」


「うええええぇぇぇ!?」


「いいリアクションよリコちゃん」


 伊達に料理がすべてを決める異世界とか救っちゃいない。

 マグロだろうがクジラだろうがドラゴンだろうが、市販の包丁で完璧に捌ける。


「ちょっと楽しくなってきたぜ」


「アキラ様って凄いんですね!」


「そうよ。本当は凄いんだけど、いまいち伝わらないよねえ」


「魔法だけじゃなく、お料理もできるなんて! 家庭的でいいと思います!」


「うーん……やっぱり実力が伝わらないか。女神レベルですらちゃんと認識できないとは。難儀な先生ね」


 料理は楽しい。異世界ごとに食材も調理法もあるからだ。

 趣味としては長続きする部類だと思う。


「とりあえず軽く炭火焼きだ。食っとけ」


「やったー!」


「手伝うわ。一緒に作りましょう」


 こうして適当に庭でドラゴンを食う。

 あれだよ、ちょっと規模のでかいバーベキューだ。

 休日っぽいし、実際に味は極上だったので、こういう日もいいかもしれないな。


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― 新着の感想 ―
[良い点] トラブル役のリコ、出来るサポーターのクシナダ、万能なアキラ様。 役割分担が単純かつ明確で分かりやすいですよね。 読み手にも書き手にも易しい。 [一言] あーあ、ドラゴン倒しちゃった。 これ…
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