表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/28

海鮮丼と四天王

 よく晴れた昼下がり、リビングのソファーに寝転がり、手足を伸ばしてだらだらする。


「ふっふっふ……やっとたどりついたぜ。この境地に」


 適度に魔法で飲み物を引き寄せ、飲んだらテーブルへ移動させる。

 決して自分では動かない。


「これぞスローライフ! いいぞ、俺は今スローだと思う!!」


「先生、気を確かに」


「あの人はなにやってるんですか」


 女神が白い目で見てくるが気にしない。

 ゆったりと時間が流れているのだ、俺の心も静かに流れる川のように穏やかでいよう。


「今日のスローランチはどうしようかな」


「とうとうご飯にスローとか付け始めましたよ」


「重症だね。先生、今日は私が作る番よ」


「そうか、ならばさらにゆっくりできる方法を模索しておく」


 食事は当番制にしたっけ。同居人が増えるとこういうこともあるもんだ。


「なにか食べたいものはある?」


「この前はそば食ったし、逆に白米だな」


「わたしはキャビアっていうの食べてみたいです!」


「高いだろ」


「元勇者ですよね? 財宝とかいっぱいあるはずです! ここにいればおいしいものが食べ放題!」


「やっぱ帰れお前」


 完全にタダで飯食うためだけにいやがるなこいつ。


「じゃあキャビアのっけた海鮮丼でも作ってあげるよ」


「やったー! クシナダさんこそ女神の中の女神! スーパー女神スーパーです!」


「どんだけテンション上がるのさ。先生も同じでいい?」


「おう、任せるよ」


 クシナダの料理にはずれはない。楽しみにしていよう。

 暇になったし、リコとテレビでも見ているか。


「なんだかんだ言って、アキラ様もご飯楽しみなんですね」


「異世界が長いとな、飯と景色と敵が楽しみになるだろ」


「おじいちゃんですか。っていうか敵って」


「面白いぞ。未知の能力持ってるやつとかさ」


 適当な火山地帯をテレビに映す。でっかくて赤いドラゴンが吠えていた。


「おぉー、大きい。ドラゴンっておいしいですか?」


「食事から離れろよ……個体によるぞ」


 そこからいろいろと景色を見ていく。どうやら自然が多い世界のようだ。


「あっ、いけない。もうすぐお告げの時間です」


「ついでに勇者も見ておくか」


 休憩中の勇者パーティーを映す。今は街の食堂だな。


「順調にレベル上がってんなあ。今20か」


 勇者としては成長が早い方だろうか。

 加護貰っているから、基本的に苦戦する機会も少ないだろうし、安心していいかも。


「のびのび元気な子に育って欲しいですね」


「子育て中のお母さんか」


「人間と女神はもっとずっと歳が離れているからね。見守る視点になってしまうのよ」


「アキラ様はおいくつなんですか?」


「忘れた。数えるのめんどい」


 年齢の計算が世界によって違ったりするし、ほいほい異世界を移動していたので、本当によくわからなくなる。

 一日が三十時間の世界とかが挟まってくると、もう計算がめんどいのだ。


「アキラ様! あれおいしそうです! 鶏のから揚げっぽいやつ!」


「ワニだなあれ」


「食べたいです!」


「俺にどうしろというのだ」


「作ってください!」


 なぜこうも目を輝かせてお願いできるのだろうか。

 よだれを拭け。きったねえなこの女神は。


「材料ねえよ。海鮮丼もうすぐ来るぞ」


「ワニって水辺にいるじゃないですか。なら海鮮丼に入れてもいいはずです!」


「それだとワニの刺し身出てくるぞ」


「…………おいしいですか?」


「お前なあ……」


 こいつが一番異世界満喫してやがるな。


「はいはい先生を困らせないでねリコちゃん」


「かい……クシナダさんの仰せのままに!」


「海鮮丼って言いかけたな」


 三人分の新鮮な海鮮丼と蟹の味噌汁が出てきた。

 いやあ実にうまそうだ。


「刺し身で食べられる環境でよかったよ。生魚ご法度のパターンもあるからねえ」


「まったくだ」


「おいしいです!」


「なんでもう食ってんだよ!」


 リコが半分くらい食っている。早いわ。

 こいつ食い物のことしか頭にないのか。


「お告げしたか?」


「ご飯の後でします。定時連絡というわけでもないので」


「こんなんで大丈夫か勇者……」


 非常に不安である。せめて大怪我だけはしないでくれ現地勇者よ。


「先生は心配性ねえ」


「そりゃなあ……海鮮丼はうまいぞ」


 クシナダの料理に失敗やいまいちという言葉はない。

 どの三ツ星料理店でもトップ取れるように教育した。


「丼ごとに少し具の配分が変わっているのが飽きなくて最高です!!」


「三杯目だぞそれ。そろそろ食うのやめろ」


「違うわ先生。膝のあたりを見てごらん」


 リコの足を見ると、太もものところに丼が二個ある。


「お前隠すとか姑息な真似を」


「こうすると三杯しか食べていない気がします!」


「気がするだけだろうが!」


 無駄に食い意地張りやがって。

 落ち着いて飯も食えやしない。

 せめてゆっくり蟹の味噌汁を飲もう。


「カニの出汁がきいてやがる……」


 濃厚なカニの風味が、鮮やかに口の中を彩り、後味さっぱりでいい感じ。

 海鮮丼の味の濃さを、別の味と暖かさで中和してくれる。


「ふはあぁぁ~。クシナダさんお料理上手です~」


「落ち着く味だな」


「いいでしょう? 前に先生に教わったのよ」


 大量にレシピ渡したからなあ。どれがどれだったっけ。


「お腹いっぱいです。晩御飯が楽しみですね」


「どういうことだい……」


「リコ、お告げすませちまえ」


 このままだと忘れて寝るぞこいつ。

 さっさと終わらせよう。


「では勇者よ、聞こえますか?」


『女神様!』


 テレビに平原を移動中の勇者パーティーが見える。

 よしよし、特に怪我もしていないな。


「そのまままっすぐ行けば次の街です。油断はしないでくださいね」


『気をつけます』


『フッフッフ、四天王にも気をつけるべきだったな』


 なんか悪役っぽい男の声が聞こえてくる。

 黒いフードとマントで容姿がわからんな。

 大した魔力も感じないので、ザコ敵だろう。


「あれは冷酷四天王のザーガ!」


「四天王? あれが?」


「四天王の中で最も冷酷で策士が集まると言われている四天王です」


「んん? 意味がわからん」


 リコの説明がいまいち入ってこない。


『この声は女神か? よく知っているな。俺様が冷酷四天王のナンバー3、ザーガ様だ』


「いけない! まだ勝てる相手かわかりません! いったん逃げて、勝てそうな四天王から倒しましょう」


「待て待て意味わからん。四天王どんだけいるんだよ。あいつなんなの?」


「ザーガは八大四天王のナンバーファイブの三人目ですね」


「お前ふざけんなよ!?」


 この世界おかしい。幹部多すぎるだろ。

 いても十傑とか、星座に合わせて十二人とかだよ。


「いまだに謎が多い四天王です。ただ冷酷で強いとしか情報が出回っていません」


『クックック……本当はナンバー2かもしれんぞ』


「そこはどうでもいいわ!!」


「変な世界に来ちゃったねえ……」


『四天王が相手だろうと、この状況で逃げられるとも思わないわ』


『倒すしかないでヤンス』


 ちょっと戦闘モードである。でも勝てそうにないんだよあ。

 まだこいつの相手は早い。ステータス見てみるが、明らかに格上だ。


「どうしましょうアキラ様!」


「うーむそこそこ強そうなんだよなあ……」


「戦わせて、ダメだったら逃してあげるとかどう?」


「ちょっと見てみる」


 ささっと未来予知して映像を頭に浮かべてみた。


『くっ、ここまででヤンスか……』


『脆弱な……この程度か勇者よ』


『まだだ……刺し違えてでも、あなたを倒す!!』


「あ、ダメだこれ」


 完全に無理なやつだ。一応助かるみたいだが、大怪我する。

 予知を終わらせて、なんとか助けてあげることにした。


「負けちゃうの?」


「刺し違えようとしてた」


「はい? お二人は何の話をされているのですか?」


「気にするな。リコ、街まで転移してやれ」


 こういうのは流石に対処していいだろう。

 俺じゃなく、女神ができる範囲でサポートするのだ。

 リコに勇者パーティーにしか届かない声で指示をさせる。


「わかりました。勇者よ、わたしが街まで転移させます」


『ありがとうございます!』


 すぐさま勇者の足元に転移魔法陣が現れる。


『ヌウ! 逃がすものか!』


 魔法陣にザーガが入ってくる。これはめんどい。


「リコ、そのまま飛ばせ」


「でも!」


「大丈夫。先生を信じて」


「ええいもうどうにでもなれー!!」


 魔法陣が煌めき、輝きを増して光の柱が現れる。

 そこでちょっと細工。ザーガにだけ転移魔法がかかると絶対に自宅へ転送される呪いをかけた。


「まあこのくらいはセーフだろ」


 勇者をモニターすると、無事に街へと転送されていた。


「あれ? ザーガどこ行ったんです?」


「自宅だよ」


 ザーガの自宅をモニターしてみる。

 なんかでかい城の、いかにも悪役っぽい部屋できょろきょろしていた。


『ヌウゥ……これはどういうことだ?』


「これでよし」


「何をしたんですか?」


「しばらく勇者と会えなくしただけ」


 勇者がレベルアップしたら、呪いは解いてあげよう。


『ええい女神め! 小癪な真似を! 待っていろ勇者! 転移!!』


 黒い柱が現れ、ザーガを自宅から自宅へと転送する。


『ヌウオオオォォォ!? どういうことだ!? 転移!!』


 そしてまた自分の部屋へ転移されるザーガ。


『ナアアァァァ!?』


「先生、実は楽しんでいるね?」


「こういう趣向もいいものさ」


 それから何度か転移を試みるザーガを確認し、俺はスローライフとは何かを考える作業に戻るのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] なんだかんだで駄女神を追い出さないあたりそこそこ楽しんでるよねw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ