伝説の勇者の剣を作ってみよう
でっかいツボを部屋の中央に召喚。
これにぶっこんで伝説の剣を作っていこう。
「早速作っていこう」
「えぇぇ!? 伝説の剣ですよ!?」
「へーきへーき。そういうのめっちゃ見てきたし、使ってきたから」
どうせなら豪華なやつをプレゼントしよう。
別次元のアイテム倉庫に眠っているものを、じゃんじゃんツボに入れる。
「オリハルコン、ミスリル、玉鋼と……今エクスカリバー何本あったっけ?」
「まだ二十本くらいあるわ」
「んじゃ五本くらいぶっこもう」
異世界にはなぜかエクスカリバーが多い。
武器集めに凝っていた頃、腐るほど持っていた。
実際放置しすぎてカビが生えたので何本か捨てたし。
「あと賢者の石を十個くらい入れて、読み終わったネクロノミコンと草薙の剣……いいや三種の神器全部入れちまえ」
「あの……どれも世界の秘宝レベルなんですが……」
「倉庫で腐らせるよりはいいだろ」
「本当にいいんですか?」
ものすごく申し訳無さそうな顔をしているな。
そんなに大したもんじゃないし、安心させてやろう。
「問題ない。この程度いくらでも量産できる」
試しに無から純金と賢者の石を錬成してやる。
錬金術はずっと昔に覚えた。これで金策の必要がなくなるのだ。
「うえええぇぇぇ!? どうやったんですかそれ!?」
「先生、リモコンの電池切れてるよ」
チャンネル変える要領でダンジョンを見ていたクシナダが言う。
「そうか、じゃあそれも入れよう」
「どうして!?」
「剣でテレビのスイッチ入るようにしようぜ」
「それ電池じゃなくてリモコンの特性ですよね!?」
はい悪ふざけが始まっています。楽しくなってきちゃったからね。
「先生、上質な昆布が冷蔵庫にあったよー」
「よし、それも入れよう。他の剣とは一味違う感じが出るな」
「本当に味変わりますけども!?」
ここで本格的に献立を考える。どうせならちゃんとおいしく作りたい。
「昆布が入ったら、あと必要なのは……」
「まず昆布が邪魔ですよ?」
「そば粉でいいかな」
「完全におそば作ってますよね!?」
だが待って欲しい。うどんが食べたい人もいるかも知れない。
「うどん派に配慮したいな」
「もうネギ切ったわ」
クシナダが刻みネギを手際よく用意してくれている。
しかもどんぶりまで用意して。
「なんでおそばに寄せていくんですか!?」
「剣から出たら食費困らないだろ」
「怖いですよ! 衛生面どうなってるんですか!?」
「よし、綺麗に維持できる魔法かけておこう」
絶対に汚れないし傷つかない魔法をプラスだ。
これで他の武器は必要ない。
「昆布はやめましょう。伝説の剣がくさかったら嫌ですよ」
「ううむ……そうか」
「先生、ネギどうするの?」
「軽くそばでも作るか」
「あとで大盛りをください」
そうは言っても、あとはもう煮込むだけ。
時間さえ経てば勝手に剣のできあがり。
「このツボ……どうなってるんですか? マジックアイテムですよね?」
「ソシャゲっぽい異世界救った時にな、便利だから持ってきた」
いらないアイテムとか、材料入れたら煮込むだけ。
キャラの強化とか進化とかそういう感じのアレだ。
錬金ツボとかあるだろ。強化品が出てくるので便利よ。
「よーしできた」
陽の光を反射して輝くロングソード。
偉そうな彫刻も入れて、絶対に壊れない細工もした。
聖なる力に満ちた剣だ。
「それっぽいじゃない。いいセンスしてるわよ先生」
「だろ?」
「凄いです! かっこいいです! こんな剣見たことありません!」
リコも大はしゃぎだ。ご満足いただけたようで何より。
あとは剣を転送して、それっぽい台座に突き刺して完成だ。
「おぉー伝説の剣っぽいぜ」
こういうの何本も引き抜いたなあ……なんか懐かしい。
倉庫にしまいっぱなしだ。暇な時に手入れくらいしてやろうかな。
「それっぽいねえ」
「何の伝説もないですけどね」
「それを言っちゃあおしまいよ。さあ、お告げでもしてやってくれ」
「はい!」
リコの体が薄く光り始め、現地勇者たちへの通信が始まった。
勇者たちは木陰で休憩中。疲労の色が強く出ているな。
「勇者よ、聞こえますか? 女神リコです」
『女神様!』
『今日のお告げは何かしらね?』
あっちの声もテレビから聞こえるようにした。
でないと不便だからね。
ちなみにリコの声以外はあっちに聞こえない。
「お元気ですか?」
「元気なわけねえだろ」
「疲れているようですが、水分と睡眠はちゃんととっていますか?」
「とれない原因がリコちゃんだよ」
『女神様、私たちはまだまだ元気です』
勇者は笑っちゃいるが、疲れているのが丸わかりだ。
さっさとお告げとかしてあげなさいと促す。
「その先の部屋が聖剣の間です。剣を抜いたら帰りましょう」
『え、もっと先なんじゃ……』
「あああああええっと……」
こちらに助けを求める視線。
いやそんな目で見られましても。
「リコがなんて言ってたのか知らんし、適当に言っとけ」
「き……気のせいです!」
「よりによってか!?」
『そうですか、気のせいなら仕方がありませんね!』
ピュア枠だこの子。
清純派勇者ですね。ちょっと応援したくなってきた。
「先生、おそばできたよー」
クシナダが三人分のそばを持ってくる。
リコの話を聞いて、剣作っていたらもう夕方を過ぎそうな時間だ。
『では女神様、この先のお部屋ですね?』
「はい、そこからずぞぞぞぞ。あっちゅい!? まっすぐ行ってすぐ聖剣がはふ……はふ……すみません揚げ玉もっとあります?」
「食いながらしゃべんな!!」
こいつなんで普通に食ってんだよ。まず神託をなんとかしろや。
『あ、あげだま?』
「ほらもう勇者ちゃん困ってるじゃないか」
「すみません次の部屋です。剣を抜くには試練がありますので、頑張って勝ち取ってください」
『はい! ありがとうございました!!』
なんとか助言はできたようだ。
これで落ち着いてそば食える。
ネギと揚げ玉と温玉の入ったそばは、あっさり目の味付けながら実に美味い。
「また腕を上げたな」
「花嫁修業バッチリということよ」
「美味しいです! おかわりください!」
「お前は遠慮しろ」
こいつ三杯目食ってやがる。人の家でどんだけ食う気なんだよ。
『次の部屋へ行きましょう』
『剣を手に入れてようやく、本当の出発でヤンス』
忍者ヤンスキャラだー。もう絶滅しかかってるぞ。
外見完全にクール系イケメンなのに。
「よーしよーし。ひとまずこれで剣はゲットだな。それじゃあもう夜になるし、さっさとリコは帰って……」
「ねえ先生、さっきリコちゃんが試練とか言ってなかったかしら?」
「ん? そう……いえ……ば」
なんか言っていた気がする。
勇者の勘が告げている。まだ面倒事が残っていると。
「おいリコ? リコどこ行った?」
「ふわあぁ……お呼びですか?」
ソファーでがっつり横になって寝る体勢だ。
その毛布はどこから出した。
「いやうちで寝ようとするなよ」
「大丈夫です。お泊りセット持ってきましたから」
「泊まる気かてめえ!?」
「お腹がいっぱいになると眠くなりますよね」
しまったこいつやはり駄女神だ。俺の平穏を崩す悪魔である。
駄女神が急激に増えて大変アレなことになったからな異世界。
「リコちゃん、剣に試練があるとか言っていたよね? それはどういうことかな?」
「試練……試練……あっ!! そうです! 試練の精霊とか番人的な感じのアレですよ!」
「落ち着いて話せ。どういうことだ」
「勇者が剣を抜こうとすると、ダンジョンと剣が共鳴して、精霊っぽい強い敵が出るんです」
「先に言えよ……」
そこまで性能見てなかった。そういうお約束イベントもある世界なのね。
「どうするんですか!? もう部屋入って剣抜いちゃいましたよ!!」
画面内で大喜びしている勇者一同。
なんだか昔を思い出すわあ。
「先生、どうするの?」
「仕方ねえ。試練の精霊も作るぞ!」
「えええぇぇぇぇ!!」
こうなりゃとことんまで自作してやるぜ。